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不確実さ,曖昧さに込める

はじめまして。心理学や教育学,幼児教育,社会科学等の学術専門書を中心に出版しております,北大路書房の尾澤と申します。北大路書房は京都市は北区紫野に所在しており,「北大路」とはついているものの,北大路通には面しておりませんが,様々な歴史を経て,はや 75年が経過しています。

私は修士課程からそのまま新卒で入社し,今年で3年目となる者です。僭越ながらも版元日誌を書く機会をいただいたものの何を書こうか迷っていましたが,今回は出版業界に入ってから不思議に思ったり,考えていることをなるべくシンプルにまとめて記したいと思います。

私は昔から書店に行くと長時間滞在して人文書や自然科学書を漁っているのですが,最近では本の中を漂いながら,あるゲームをしています。それは本を手に取る前に,勝手に値段を予想して答え合わせをする,といったことを,会社に入る前からもやっていましたが,入ってからは頻繁にするようになりました。また他にも,装幀から装幀家や版元,発行年を当てる遊びもやっていたりします。
これは出版ご関係者の方々はやったことがある,もしくは現にやっているのではないかと,勝手ながら思っているのですが,いかがでしょうか。「あるある!」と共感される方が多いのか少ないのかはいざしらず,そういうことをしています(もちろんそれは本の値段にいちゃもんをつけるとかそういうことが主旨ではないですので,悪しからず)。例えば,本を取る前に書名や著者を見て,そこから出版社を(たまに予想してから)見て,あとは判型や頁数,製本などを見て,そこから中身を経て,最後に値付けを確認します。
予想が当たれば「確かにそれぐらいですよね」と自分の見立てと似た判断をその出版社がしたんだなと思い,違う場合は「この値段でできるのすごいな」とか「堅実にいったんだな」などと別の見立てや判断があったことに思いを馳せていまにも値付け以前に,「よくぞこの本を出してくれた!」と思うこともありますし,「これやりたかったな〜」と,羨ましく思うものもあります。といったように本の値段に関してこうしたことをしています。
出版社に入り本がどのような見立てのもとに価格設定されて届けられるかを社内外含めある程度見てきましたが,それでもなお本の値付けについてはふと,次のような不思議な感覚を覚えます。

この本はなぜこの価格なのか?もう少し詳しく述べるなら,なぜ自分/その出版社はその価格が適切/不適切だと考えた(不本意な場合もあるかもしれませんが)のか?そして読者(ここでは買って読む人以前の,買うかどうかを判断する人を含め読者としています)がそれをどう受け取って買う/買わないのか?

 このように書きましたが,これは心理学や経済学,社会学的な問いとして掲げているわけではないです。もしそうした問いを立てるとしたら本だけの話に限らず嗜好品や芸術,美術だとかにおける「価値と価格」の問題や価値判断の問題について似たような話ができる部分はあるとは思います。特に本となると再販制度が大きく関わってくるので,それはそれでまたそれぞれの分野で面白そうな話ができるんじゃないかと思います。
ただ,それは私の手に余るため他の方にお譲りするとして,結局言いたいことは何かというと,今もそうなのですが,今後本の値付けはだんだん難しくなっていくのではないかということが,感覚としてあります。当たり前だと言われたら,それはそうなのですが,企画,編集,デザイン,紙,印刷,製本,取次,書店,読者…等,そして本/版元が取り扱う領域・業界それぞれにおけるステークホルダーがあり,それらすべてが連動して動いているということを考えたとき,やはりそれは単純に本の内容や著者,デザイン等だけではない,あらゆる不確実さ,曖昧さがあるように感じます。
そして,実際の本の価格とそれを設定する側が思っていた価格,そしてそれを提示された側が思っていた価格それぞれが一致したりしなかったりということがありそうですが,そしてその3つが一致していたら売れるかというとそうではないと思いますし,一致していなくても売れる場合もあるというところにも,また不確実さ,曖昧さがあるように感じます。
ちょっと詰めきれていないので,ところどころ論理破綻はあるかもしれませんが,いずれにしても,どれだけ売れる(と思われる)仕掛けや要素を揃えても,確実なものはないと思っていて,むしろこれらの曖昧さや不確実さが魅力になり,そこに作る側も読者もいろいろな期待や可能性を込めたりするのではないかとに思われます。

以上となります。出版不況の時代ですが,それでもしっかりとした人文書を出していけたらと思っております。つぶやき程度に受け取っていただけると幸いでございます。

北大路書房の本の一覧
 

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