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隙間の猫

 本とはまったく関係ない、しかも長いお話を一席。
彩流社、俺のデスク、窓の前、40センチほど先は隣のビルの壁である。
そのビルとビルの隙間に猫がやってきたのは去年の11月ごろ。最初、子連れだったせいもあり猫好きの社長が餌をやってしまったのが運の尽き。いつのまにか子猫はいなくなってしまったものの、俺のデスク、猫的には一番来やすいようで以後毎日のように現れ、何かと世話を焼かざるを得なくなった。餌をやらないといつまでも居座り、追っ払ってもしつこくやってくるのだ。もっとも、猫が来てから売上が上がったりしたので半分はゲンかつぎ、半分は趣味として自発的にはじめたのだけれど…。

 餌を買い込み、餌をやりやすいように台を用意したり、雨の日には屋根をしつらえたり、とまあぶつくさ言いつつも面倒を見ていたのだが、入れ替わりでいろんな猫が現れ、——どうやら写真1・2 http://www.sairyuusha.co.jp/sairyuu_cat.htmlの白黒猫をめぐりオス猫どもが争奪戦を繰り広げているらしく—— その様を観察していると妙に人間くさく、とても面白かった。
逆の見方をすれば、メス猫がしょっちゅう違うオス猫をくわえ込んでいるわけで、ほかのメス猫から言わせれば「泥棒猫!」ということになるのかもしれない。
見ていると猫の世界も主導権は圧倒的に女性(メス)側にあるらしく餌も白黒嬢が食べ終わってからその残りをオスが食べ、機嫌の悪いときや、気に入らないオスは引っかいたりとまさに「お嬢」状態なんである。

 お嬢の好みは俺から見ると相当変わっている。結局彼氏というか旦那の座を射止めたのは写真3の白猫。写真がボケてしまうほど汚い、みすぼらしい感じがお分かりであろう。ほかにもお嬢が好意的に接していたのは総じて汚らしいオスばかり。たまに毛並みのきれいな凛々しいやつがきても肘鉄は出来ないが、爪をお見舞いしていたものである。

 ただ「意外と見る目があるのかも」と感心したのは、白猫をはじめ彼女の好いていたオスたちは、餌をやるときも騒ぐようなことはせず大変行儀がよろしい。たまに自分が先に食べるようなタイミングになっても、必ず半分は彼女のために残す。2匹いっしょにいるときに餌をやっても、自発的に譲る等々、なかなか紳士的で、猫らしからぬ美徳を備えているのである。
さて2匹が結ばれ、仲良く餌を分け合う安定期のあとに何が起こるか…。当然の成り行きとして妊娠、出産である。(父親は推定だけど)産みも産んだり全部で 6匹。(写真4.5.6)それまで毎日2回ほぼ決まった時間ににゃあにゃあと餌を強奪に来ていたのに急に白黒だけ来なくなっていたし、明らかに孕み腹だったのでもしやとは思っていた。しかし6匹とは恐れ入った。枕草子にあるごとく「ちいさきものはみなうつくし」で社長以下、社内の猫好き数人は大喜びだったが餌をやる俺はたまらん! この半年あまりで、ペットフードにすっかり精通し、白黒・白に毎日餌をやるとて、安く量の多い、タイ産の缶詰をもっとも安上がりなドライフードに混ぜ、猫のみか己にも飽きが来ぬような工夫を凝らし、月額2000円に押さえていた餌代は、生まれたてのくせに乳だけでは飽き足らずバクバクいく6匹により一気に倍増した……。

 社長が2000円のカンパを申し出て、何をいまさらと思いつつもありがたく頂戴し、しばらくは皆の癒し猫と化していた6匹は10日ほどで姿を消し、5日ほど経って再び現れ、またいなくなった。ちょうど梅雨の最中で、俺のヘナチョコ屋根では雨もろくにしのげず、近所にいい避難所を探し当てたのかもしれぬ。確かによく昼寝はしていたが、ちゃんとしたねぐらは他にあるようだったので、そちらに行ったのか。何かほっとしたような、寂しいような。妙な気分である。

 一度白黒のほうの跡をつけてみたが民家の路地裏に入ってしまい、ねぐらを突き止めることは出来なかった。近所の噂話をそれとなく聞いていたら、自転車屋が写真を貼り出して子猫の里親を探しているというので、見に行ったら違う子猫だった。とんかつ屋のおやじが動物愛護団体に引き取ってもらったらしいとの話もあるが、どうも違うらしい。
このごろは落ち着いたものの、一時餌をやっているのにやたらとにゃあにゃあうるさく鳴いていた。子猫を探していたのかもしれず、ちょっと気の毒な気もするが、またいつ大家族での来襲があるかもしれず、楽しみなような恐ろしいようなやっぱり妙な気分である。

ちなみに売上は対前年比10%強UP。これは猫の恩返しか! 俺はなんと、これでも名目上営業代表なのだ。猫のおかげで面目を保ったことになる。ヌハハハハ。こんな営業成果のあげ方もあるのだぞ!! というためになるお話。  
お粗末でした。

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