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「少額訴訟体験談」

 昨年3月の版元日誌で、料金不払いの常習犯に対して、少額訴訟を起こすことになったと報告した。私が把握しているだけでも、10社以上の出版社が同じ人物の被害にあっている。こういう確信犯に対して少額訴訟を起こすとどうなるのか…。今回はそのご報告。

 少額訴訟は60万円以下の比較的少額のお金を回収するために設けられた制度で、弁護士を頼む必要もなく、原則として1回の審理で終わる。手数料も10万円までならたったの1000円。社会勉強のために一度経験しておくのもよいかも…と思ったのだが、意外に大変だった。

 訴訟の前に、訴訟を起こすことを相手に通告した。そのとき郵便局で払った内容証明の料金が1170円 (一般書留430円、配達証明310円、内容証明430円)。
法人の場合は、登記事項証明書の提出が必要なので、その発行手数料が600円。さらに、訴訟手続きの際は、訴訟手数料と一緒に郵便切手代3980円の提出も要求された。「たったの1000円」というわけにはいかなかったのだ。

 裁判は昨年7月7日に開かれる予定だったが、直前になって裁判所から延期の連絡が入った。「相手が裁判書類を受け取らなかったため、書類が裁判所に戻ってきた。裁判をするためには、住民票や表札の写真など、相手が間違いなくそこに住んでいることを証明する資料の提出が必要」という。やれやれである。

 相手の家に表札は出ていないし、「個人情報保護」という壁もあって簡単ではなかったが、調査に行って、なんとか証明書類を提出した。裁判に「探偵」のような能力も必要だったとは……。
「探偵」の結果、相手の収入源が生活保護だということがわかった。多数の出版社への不払いを繰り返している人物は、生活保護費もだまし取っているのかもしれないと思った。

 結局、裁判は8月27日に開催された。相手は欠席。審理は5~10分くらいであっという間に終わり、請求額7858円と延滞利息、訴訟費用を被告が払うよう判決が言い渡された。当然だが、こちらの勝訴である。被告からの異議申し立てがなければ、裁判所が書状を送ってから2週間後にこの判決が確定する。
訴訟のあとで、切手代の不足分(通知の再送費用?)270円を請求された。

 2~3週間後、裁判所から連絡があった。「相手が郵便物を受け取らなかったので戻ってきた。ついては、書留で送る必要があるので、522円分の切手を送ってほしい」とのこと。相手が郵便物を受け取らないたびに、こちらにお金がかかるのである。

 判決確定後、改めて請求書を送ったが、やはり相手がお金を払わないので、次に強制執行の手続きについて調べた。
 
差し押さえの対象になるのは、 預貯金債権、給料債権、賃料債権、敷金(保証金)返還請求権の4つ。生活保護費は、差し押さえできない。
少額訴訟債権執行に必要な料金は、収入印紙4000円と郵便切手5330円。
預貯金の差し押さえについては、銀行名支店名までの特定が必要になる。空振り覚悟で何件でも請求してよいが、請求先が増えるごとに1755円の費用がかかる。さらにあらかじめ、「この支店に何円」と金額を割り振って請求しなければならない。
例えば1万円を2500円ずつA銀行イ支店、B銀行ロ支店、C銀行ハ支店、D銀行ニ支店の4つに分割して請求したとしたら、相手がA銀行イ支店に100万円預金があっても、こちらが手にするのは2500円だけだ。
おまけに債権執行についての通知を相手が受け取らなかった場合、 また、前のように調査書を提出する必要があるそうだ。なんと面倒くさい……。

 これ以上は無理かな…と、諦めようとしていたところ、昨年10月になって意外な展開があった。私が訴えていた相手が警察に逮捕されたというのだ。私が警察に相談したときは「民事なので動けない」という話だったが、同じような被害にあっていた地方の出版社の訴えに地方の警察が動いた。

 さらに思いがけない展開があった。昨年11月、相手の代理人の弁護士から連絡があり、自己破産手続きを開始したという。彼には精神障害があり、逮捕はされたが不起訴になった。逮捕や裁判でさすがに懲りている様子で、もう同じことはしないだろう。手に入れた書籍はあちこちの古書店に販売していたようだ。債権者が多すぎてなかなか手続きが進まないが、また連絡する……とのこと。びっくりである。

あれから8カ月。その後弁護士から連絡はない。このままうやむやで終わりそうだ。お金は返ってこないだろう。でもまあ、「再犯」を防ぐ効果だけはあったのかもしれない。

というのが今回の少額訴訟の顛末。

実際にやってみてわかったが、書籍代の被害を少額訴訟で取り戻そうとするのはあまり現実的ではない。出版社は高額な注文は前払いにしてもらうとか、代引きを利用するとか、自衛手段を考えたほうが賢明だ。

 それでも個人的にはやってよかったと思っている。
実際に訴訟を起こしたのは私だが、同じ人物の被害にあった出版社の人たちが情報を提供してくれたり、調査を手伝ってくれたり、励ましてくれたり、強力にサポートしてくれた。素敵な仲間に出会えたことは、私にとって大きな財産となった。

人生、無駄なことが意外に面白いのだ。(了)

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