『テロ死/戦争死』は死なず
小社第三書館でイラク戦争の戦場と死者を中心としたビビッドな写真ばかりを集めた本を先月発行した。A5判128ページの大半を、いわゆる自爆テロによる死者と、それに対する米軍側の攻撃による死者の写真で埋めつくした。コメンテーターとして中東研究者の板垣雄三(東大名誉教授)ら5氏の文章もおさめた『テロ死/戦争死』(定価1500円+税)である。
トーハン仕入担当者の思いがけない一言を耳にするまで、私は極めて楽観的だった。収録された写真はいずれも生々しい死の現場ばかりだが、イラク戦争の、あるいは「テロとの戦い」の現場のありさまをストレートに伝える写真ばかりだ。一方から他方への攻撃による「テロ死」とその逆方向への攻撃による「戦争死」。ふたつを重ねあわすことによって、21世紀初頭の戦争の実態が世に問われるのだ。サマーワの自衛隊の撤退も含めて、全国の書店の棚で話題をさらうのではないか……。
「これはうちでは委託で扱えませんね」 このひとことですべてがふっとんだ。
午後になって担当者から正式に断りのTELが入った。「残酷すぎて書店がいやがる」「子供が見たら教育上よろしくない」の二点が理由だ。書店がいやなら返品すればいい、子供に見せたくないから即書店に置かないなんてナンセンス、と反論したが、全く無理。
日販も全く同じ理由でダメ。紀伊國屋が断るハズがないから入れてくれと言ってもダメ。それでも事前に予約タンザクの入った日販帖合の30書店分はいいだろう、とねじこんで、やっと委託30部。
栗田も中央社もゼロ回答。TRCも予約キャンセルしてきた。大阪屋がやっと100部、太洋社が20部の委託。初版3000部で委託合計150部ではキツすぎる。
事態は明らかだ。版元がいくら出版の自由を主張しても、取次の判断だけで書店ルートは閉ざされてしまうというのが日本出版界の2005年状況というわけだ。新聞広告代理店からも思いがけない反応があった。一面三八ツに出稿しようとしたら、取次が委託しない本の広告は本ではなくて一般物販扱いだから何倍か高い別料金だというのだ。
このまま新刊書を横死させるわけにはいかない。
中央突破あるのみ。全国書店にFAXチラシを入れて、トーハンが委託拒否しているけれども貴書店ではホントに置きたくないのか。置いてみようという書店さんはぜひ売ってみてほしいと訴えた。
結果は上首尾。たちまち1000冊以上の注文タンザクが来た。やっと全国の店頭に並びはじめた。
「これなら、フツーに配本したらよかったですね」と日販の担当者に言うと、実にフクザツな表情を見せた。
トーハンの担当者は書店FAXチラシに彼の名が記載されていたので、社内で大きな話題になったという。
「出世のさまたげになりましたかね」と半分茶々を入れてみたら、
「あたりまえですよ」とマジに反応されて、かえってびっくり。広告もやっと書籍広告として掲載された。売り上げの数字も伸び出した。
『テロ死/戦争死』は死なず、生きている。
書店店頭で見かけたら、よろしくお願いします。