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取次会社にお願い!新刊配本リストの無料提供を[流通合理化に必須の情報公開・共有]

【“流通合理化”に賛成】
 現在、取次各社が返品業務を大幅に変更しようとしている。前提として、僕はこれに賛成します。出版業界とそのシステムには様々な改善・改革の必要があると思っているので、その取組みには大いに期待を持っています。
ただ、そんな今だからこそ取次各社にお願いしたい。同時に、業界全体の流通情報の公開・共有を進めて欲しいのです。
shinbunka_shinkanhaihon_il.gif 具体的にいうと、書店名付きの返品データの出版社へのフィードバックと、新刊配本データの無料化を実現して欲しい。返品データについては、すでにVAN経由などでの書店名付きデータの提供が検討されているようなので、今後の推移に注目したいと思います。
新刊委託配本リストについては、現在、取次会社に五〇〇〇円から六〇〇〇円程度の費用を支払うと、一覧表のプリントか、エクセルなどの表計算ソフトで読み込みできるデータの形でもらうことができます。この無料化を中心に、順を追って説明したいと思います。

【実売と店頭在庫】
 まずは何故、この二つのデータの公開を強く望むのか。出版社が新刊委託配本リストと書店名付の返品データを入手できれば、これに日々の注文のデータを加えることで、自社のタイトルの「実売と店頭在庫」をほぼつかむことができるからです(もちろん取次会社の倉庫から出庫しているものは書店名まで出版社側で把握できませんが)。
 今、「実売と店頭在庫」を把握できるデータの一つに紀伊國屋パブラインがあります。
 当社が参加する際に、パブラインの担当者がこう話していました。
「出版社側で分かった欠品を、ぜひ紀伊國屋の各売場担当者に知らせてほしい。担当者はジャンル全体の売行きは見られても、一つ一つのタイトルを追い続けることは難しくなっている」
〝売り逃し〟を出版社にフォローしてほしい、という意味だと思います。これが可能になるのは、パブラインによって両者で情報共有ができているからです(パブラインも有料ですが、さすがにあそこまでデータを公開するなら、有料でもやむを得ないと思います)。
 書店名付き返品データと新刊委託配本リスト、出版社が独自に収集する日々の注文データを合わせれば、パブラインのようなシステムのない多くの書店に対しても、同様の関係が構築できると思うのです。
 
書店名付きの返品データと合わせ
「実売と店頭在庫」を把握

 
【小零細出版社も可能に】
 次に何故、無料化をお願いしたいのか。大手・中堅出版社などでは、すでに書店のPOSデータを入手しているところが多いと思います。もちろん、POSデータは出庫や返品から算出する“あくまで想定上の実売”より確かで、これが入手できれば問題はないわけですが、小零細出版社にはまだ費用の点で敷居が高いのです。しかし、書店名付き返品データと新刊委託配本リストを無料で得られれば、小零細出版社にも充分に取組むチャンスがあるのではないでしょうか。
 たとえば当社では、以下のようにして、どのタイトルを/何冊/いつ/どの書店に出荷したのかをわかるようにしています。
 新刊発行時には一六〇〇店程度の書店にファックス、訪問営業で事前注文をいただきます。この事前注文はファイルメーカーというデータベースに入力して集計、印刷部数を決める材料にも活用しています。
 注文品の出庫はすべて倉庫会社に委託しています。
 倉庫会社が取次会社から受け取る注文は、VANでの受注と、回収した短冊です。これらを倉庫会社が受信したり、入力することで伝票をつくり、納品してくれます。VANデータは、取次別・タイトル別の注文総数だけを受け取ることもできますが、当社では書店名まで含んだデータで受け取ってもらっています(受注総量の少ない小零細だからできることでもあります)。
 ちなみに、これにかかる費用は、受信を代行してもらっている倉庫会社に月額一万五〇〇〇円、VANデータの配信を依頼している富士通に数千円です。社内にシステムを導入しなくても、この程度で済ませることはできます。
 倉庫会社がつくった納・返品データは、倉庫会社のサイトからダウンロードして、先ほどの新刊事前注文を入力したデータベースにインポートします。直接、当社にファックスや電話でいただく注文も、同じデータベースに入力しています(そしてこれらのデータを請求書の作成にもそのまま活用します)。これによって、新刊委託事前注文、VAN注文、短冊注文、電話・ファックス注文が、すべて書店名付で一覧できます。
つまり、当社の本を置いていただいている書店で、当社が出荷データをつかめないのは、取次会社の判断で配本してもらった新刊委託先だけなのです。このデータのフィードバックがあれば、出荷状況を書店別にすべて把握できる、という前提になるわけです。

小零細出版社の
データ処理負担を軽減
業界全体の効率化へ


【エクセル、ファイルメーカーだけで処理】

 小零細出版社にとって、VANへの参加や、POSデータ、新刊委託配本リストを入手するコストと手間は大きいものでした。しかし現在は、VANに接続している倉庫会社を利用することによって、その費用を大幅に減らすことができます。特に大きなメリットは、百万円単位の費用が必要なVAN対応の出版社システムを導入する必要がないことです。今はエクセルなどの汎用ソフトだけでも、かなりのデータ処理ができます。これも費用負担を軽減している大きな要因といえるでしょう。
 繰り返しになりますが、これに取次会社からの書店名付の返品データ配信と、新刊委託配本リストの無料化が加われば、「実売+店頭在庫」の全容の把握を、小零細出版社が少ないコストで実現できるわけです。
 一方で、データ処理の作業をすること自体、多くの小零細出版社にとってまだまだ敷居が高いのも事実です。
 現在、年間一〇点以上のタイトルを刊行する出版社は一〇〇〇社あるそうですが、その最低ラインである一〇点程度(あるいはそれ以下)の多くの出版社によって、出版の多様性は支えられている。しかし、そうした社は一人、二人といった陣容で編集と営業をしているところが多く、その人数で、本来の仕事をしながらコンピュータやエクセルなどのソフトの使い方まで習熟するのは難しい。
 これは、出版社同士でノウハウを共有し、作業を軽減していくことが解決策の一つだと思います。たとえば当社が参加している版元ドットコムでは、「書籍売上の日時/月次集計」というエクセルのテンプレートを公開しました(作成者は語研・高島利行)

【返品問題の根幹】
 今のところ、取次会社の“返品業務の合理化”には、混乱も生じているようです。書店への逆送返品が急増しているという声をはじめ、多くの問題が指摘されています。これは今後、取次会社をはじめ書店・出版社が相談して、全体が良くなる方法を見つけあうしかないと思います。
 今回の合理化で最も大切なのは、流通情報の共有によって業界全体の効率化を進め、読者も含めた全体の利益を増やすことだと思います。
新刊委託注文リストの無料化は、流通情報の共有を象徴するものになりうる。最近、取次会社は出版社自身が集めた新刊の事前注文をデータでほしいといっています。これに応えられる出版社に対して新刊配本リストを無料提供する、というところから始めるのも一つのアイデアかも知れません。いずれにしても、取次会社各社の前向きな検討を切望しています。

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