フリーライター&編集者はみんな出版社を設立すべき
出版社・クラーケンを立ち上げて10ヵ月が経ちました(出版エージェンシー・クラウドブックスと、ホビーメーカー・ケンエレファントの共同事業)。
これまで3タイトルを出版。
おかげさまで全て増刷し(1タイトルは3刷)、メンバーも業務に慣れてきたところです。
同業者も含めて、これまで一番よく訊かれたのが「なんで儲からないのに出版社をやるの?」という問いでした。
もちろん、つくりたいものがあるからというのが第一ですが……。
続けて「誤解のないように言っておくと、そこそこ利益も出ますよ」と話をしても、あまり信じてもらえません。
出版社とは、コンテンツを企画制作し、そのコピーを売っている会社。
コピーゆえに原価率が低い傾向にあり、一定以上の数が売れれば(大小はさておき)利益が出るようにできています。
儲からない主なパターンは「コスト(固定費)かけすぎ」「返品されすぎ」「粗製乱造しすぎ」の3つで、これさえ避ければ致命的な赤字にはなりません。
現在の印刷費は驚くほど安くなっていますし、本づくりはオフィスがなくてもできます(オフィスより紙や制作費、倉庫にお金をかけるべきでしょう)。
弊社も契約させていただいているトランスビュー方式のような、オープンで返品が少ない流通手段も出てきました。
トランスビュー方式を含め、たいていの流通代行は受注も代行してくれるため、電話番の必要もありません。
トランスビュー方式……出版社・トランスビューによる直取引代行システム。
注文出荷制(注文のあった書店のみに配本)のため、返品率は平均で15%程度(通常の取次による流通は返品率平均40%程度)。
そして、実際に出版社を立ち上げて思ったのが、タイトルにした「フリーライター&編集者はみんな出版社を設立すべき」ということ。
理由を以下に挙げていきます。
【1】
(黒字になる本をコンスタントにつくれる人であれば)外部スタッフとして出版社と組んで本をつくるのに比べ、数倍〜数十倍の利益が得られます。
【2】
出版社の横やりで、変に過去のヒット作に寄せた内容や、不本意なタイトルにさせられることがなくなります。
【3】
版元としての機能を持つことで、視野が一気に広がります(図書館からの注文を心強く感じるなど、考え方も大きく変化します)。
【4】
よりシビアに企画を考えられるようになります(売れないと自分が赤字になるので)。
【5】
他のフリーランスとの差別化という意味でも役立ちます(「出版社を持っている」と言うと、一目置かれることもあるでしょう)。
【1】について、ぶっちゃけた話をしますと……。
例えば、定価1300円、初版4000部の本(デザイン30万円+印税10%+印刷費で原価率は28%=145万円程度と仮定。倉庫の基本使用料金、受注代行費などの固定費は月3万5000円で試算)を年間4冊つくり、トランスビュー方式でほぼ出荷して実売80%で仕上がった場合、400万円強の利益が出ます。
※実際には、ほぼ出荷=重版確定なのでさらに利益は出ます。
一方、外部編集スタッフとして初版4000部の本を4冊つくった場合のギャラは、120〜150万円+αが相場と思われます。
年4冊くらいなら、フリーライター&編集者としての通常業務の傍ら制作を行うことも余裕で可能なので、新たな収入の柱になってくれるはずです。
もちろん赤字になる可能性もありますが、その程度のリスクを負えない企画なら、本当に出版するべきなのかを再考したほうが良いでしょう。
固定コストをかけず、返品率を抑え、粗製乱造しない新出版社が増えていけば、出版業界は縮小しながら正常化・活性化していく目も出てきます。
クラーケンはいわゆる「ひとり出版社」ではありませんが、ひとりでも出版社として十分戦える状況が整ってきていることは、声を大にして広めていきたいです。
以下、余談。
もし直接話を聞いてみたいという方がいらっしゃいましたら、神保町大学(クラーケン運営の市民大学)にて定期開催している「フリーライター&フリー編集者のための出版社のつくりかた講座」にぜひご参加ください。
2018年5月に開催した第1回は満員御礼でした。