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芝居唄
巻次:全3巻
歌舞伎黒御簾音楽歌詞集成
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2024年1月22日
- 書店発売日
- 2024年3月8日
- 登録日
- 2024年1月21日
- 最終更新日
- 2024年2月1日
書評掲載情報
2024-04-21 | 読売新聞 朝刊 |
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紹介
【紹介】
歌舞伎は楽劇と呼ぶに相応しい音楽の比重の非常に大きい芸能でありながら、これまで音楽面の研究が殆どなされてきませんでした。歌舞伎音楽のうちでも特に重要なのが、舞台下手の黒御簾(くろみす)の中で演奏される下座唄とも黒御簾音楽ともいわれるものです。
歌舞伎では、上演に際して作成される台本とは別に、その演目ごとに演奏する曲名などを書き留めた「附帳(つけちょう)」と呼ばれる、いわば音楽演出進行台本が附師(つけし)によって作成されます。しかしこれはあくまで専門職の手控えで、一般に公開されることは稀でした。その「附帳」を精査し、さらに、これまでに刊行された歌舞伎台本などから集めた歌詞(約1,300曲)を「下座唄」「独吟・めりやす」「大薩摩」などのジャンル別に分けて、唄い出しの歌詞の五十音順に配列し、丁寧な解説と語釈を付した初めての集成です。
歌舞伎に親しんでいる方でも、これらの唄の歌詞まではご存じないかもしれませんので、具体例を挙げてみましょう。
『弁天娘女男白浪』の「浜松屋」の場で、武家娘姿の弁天小僧と若党姿の南郷力丸が花道から出るところで唄われるのは、
「繻子(しゅす)の袴(はかま)の襞(ひだ)とるよりも、主(ぬし)の心がとりにくい、さりとは実にまことと思はんせ」
という、当時の婦女子にはよく知られた「鷺娘」の一節です。恋する娘心を唄った歌詞ですが、当時の観客なら「繻子の袴」という歌詞から、いまから始まる芝居の舞台が呉服店の浜松屋だということに、すぐ気がついたでしょう。このように、下座唄には「見立て」や「謎解き」の遊戯の楽しみもあるのです。ご観劇の前後に本書を参照されることで、歌舞伎をより深く味わっていただくことも可能でしょう。
本書に集成された「芝居唄」には、中世の小歌や説教、古浄瑠璃から、江戸期の流行歌(はやりうた)まで、多くの人々に愛唱された歌謡がさまざまな場面に使われていて、長きにわたり受け継がれてきた江戸文化の洗練と豊潤さを感じさせます。芝居唄の歌詞を理解した上で舞台の推移を楽しむことで、観劇の感興はより深まるに違いありません。
目次
上巻
下座唄 773曲
下巻
独吟・めりやす 192曲
琴歌・琴歌様 16曲
謡 88曲
唄浄瑠璃 41曲
大薩摩 112曲
別巻
元禄芝居歌
上方編 19曲
江戸篇 36曲
解 題
索 引
外題通称場名索引
曲名索引
唄い出し索引
脚注索引
歌舞伎音楽関連文献資料目録(土田牧子・前島美保)
前書きなど
刊行にあたって
一般社団法人伝統歌舞伎保存会理事
一般社団法人伝統長唄保存会理事長
重要無形文化財保持者(各個指定)
鳥羽屋 里 長
この度「芝居唄」を刊行するに際し、ひとことご挨拶を申し上げます。
はじめて、この「芝居唄」のお話を伺い、その上その序文を、とのご依頼を頂いたときは、本当のところ、大変驚きました。
まず「芝居唄」という言葉の意味、考え方ですが、われわれ長唄の演奏家は「勧進帳」や「藤娘」などで、舞台に出て、役者さんのお芝居に合わせて演奏いたします。そのほかに、黒みすの中で、舞台を見ながら、そのお芝居や役者さんに合わせて演奏することも、大変重要な仕事となって居ります。
その黒みすで、独吟も含めて、唄われる唄をひとまとめにして「芝居唄」ということになりましょうか。
この黒みすの中での、唄と三味線と鳴物による演奏にはさまざまな曲がございます。そこで唄われる唄を少し紹介しますと、
〽 隣り柿の木は十六、七かと思うてのぞきゃ、色づいたえ
〽 鮎は瀬に住む、鳥や木にとまる、人は情けの下に住む
〽 心づくしの秋風に、須磨の浦曲の浪枕
これらはみな、有名な黒みすの唄ですが、非常に人情味にあふれていて、昔の江戸の人たちは粋な、なんと素敵な人たちだったのだろうという気がいたします。 われわれも、今ではなかなか使われなくなった言葉を聴くことが出来、「心づくしの秋風」などには、私も当たってみたいものだと思います。
本書は、こうした唄の、集めにくい歌詞を集めて、その唄が舞台でどのように使われるのか、言葉の意味まで解説した、他に類のない貴重なものです。この原稿をまとめられた故・郡司正勝先生をはじめ、編集に当たった方々に敬意を表するとともに、伝統歌舞伎保存会がこうして刊行できることを嬉しく思います。
この「芝居唄」が歌舞伎における黒みす音楽へのご理解を深め、これからも歌舞伎が末永く継承され発展する一助となるよう願って、ご挨拶に代えさせていただきます。
令和四年三月吉日
版元から一言
本書は、一般社団法人伝統歌舞伎保存会が配り物として作成した『芝居唄(全3巻)』をベースに、一般の歌舞伎愛好家や歌舞伎研究者、邦楽家の方々に向けて、より使いやすいよう「外題・通称・場名索引」と「脚注索引」を加え、再出発するという成り立ちの本です。伝統歌舞伎保存会版は、一部の関係者に配付されたのみで、書店での販売はしませんでした。
しかし、内容の秀逸さ貴重さゆえ内外の文化に大きな貢献をしうる資料を、より多くの方々に享受していただくために市販すべきだと考え、このたび発行の運びとなりました。
少部数の本で高価格でもありますが、ぜひ公共の図書館などに所蔵していただき、日本の文化や古典芸能に興味をお持ちの方が、より深く舞台を鑑賞できるようにしていただきたいと願って刊行に踏み切りました。多くの歌舞伎ファンが、観に行く予定の(また、観に行ってきた)歌舞伎の芝居唄を深く知り、舞台を存分に味わう一助となれば幸いです。現在の、そして未来の歌舞伎ファンへの贈り物になることを希ってやみません。
本書の編集過程でここに収めた多くの唄が男女の愛を唄っていることを知り、われわれは愛することを願う国民であり、他者から無理矢理離ればなれになることを忌む文化を持っている国民であることを私は改めて確認し、時宜に適った刊行であると確信して刊行いたします。
上記内容は本書刊行時のものです。