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日本音楽の構造
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年3月25日
- 書店発売日
- 2024年3月25日
- 登録日
- 2024年2月26日
- 最終更新日
- 2024年4月18日
書評掲載情報
2024-04-27 |
東京新聞/中日新聞
朝刊 評者: 篠崎弘(評論家) |
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紹介
ロングセラー『倍音』『「密息」で身体が変わる』の著者が、
日本音楽の根源的な価値に迫る!
長年の研究を集大成した日本音楽論の決定版!
古今の伝統音楽・芸能、各地の民謡から現代のJ-POPまでをとりあげ、
「倍音」「密息」に加えて「微小音量」「微少変化」「リズムの自由性」
「言語性・音響性」「間」などをキーワードにした方法論で分析。
過去・現在のあらゆる日本音楽を貫く構造を解き明かす。
人類の未来を照らし出す「日本の音楽」の宇宙を巡る壮大な旅へ!
付論として「密息」「倍音」「音階論」「リズム」を収録。
詳細な索引も完備。
──本書第1章「1─日本音楽の価値」より
じつは日本の音楽は、世界で最も特殊な音楽です。ここで言えることは、即座には分かりにくいものを扱っているということです。したがって、今までなかなか分析されてきませんでした。
言い換えれば、他の国の音楽と少し異なったシステムを持っているということです。「倍音」や自由なリズムの枠組みに重きを置いた音楽であること。「音楽・言語・音響」が一体となっていること。したがって、この現実世界から取り込んだ複雑な音響を扱うこと。それらは無意識の部分に影響を及ぼします。
自然と文化を統合し、過去と未来を結びつけ、さらにイメージの世界と現実の橋掛けとなるものと言えるでしょう。
最終的には人間のコミュニケーションの、そして世界と関わるためのツールとして、これからの日本人の生き方に、さらには人類の進むべき方向に大きく関わってきます。
そういった意味では、日本の音楽は人類にとって未来の音楽とも言えるのです。
目次
序
第一章 日本音楽の構造
1 日本音楽の価値
2 日本音楽の世界の中での位置
a微小音量 b各要素の微少変化 c整数次倍音の変化 d非整数次倍音の変化 eリズムの自由性 f音楽の言語性・音響性 g各要素の複合性・「間」 h音量の変化 iハーモニー027 j構成
3 日本音楽の成立条件
(1)哺乳類の聴覚
(2)ハイパーソニック・エフェクト
(3)日本の環境(自然・労働・生活) A 自然環境 B 労働環境 C 生活環境
(4)姿勢
(5)筋力
(6)呼吸、「密息」
(7)a微小音量、b各要素の微少変化、c整数次倍音の変化、eリズムの自由性、「音価」
(8)周波数解析能力
(9)音価
4 言語・音楽・音響
(1)『日本人の脳』
(2)日本の言語
(3)日本の言語における非整数次倍音の使用
(4)音楽は整数次倍音
(5)自然音響
(6)言語・音楽・音響が同じ構造
5 コミュニケーション
(1)日本人のコミュニケーション
(2)静的コミュニケーション
(3)無意識下のコミュニケーション
(4)日本人の無意識
6 日本音楽の構造
(1)音楽の構造
(2)根源的要素の使用
(3)g各要素の複合性
(4)g「間」
(5)未来の音楽
7 日本音楽の特性
a微小音量 b各要素の微少変化 c整数次倍音の変化 d非整数次倍音の変化 eリズムの自由性 f音楽の言語性・音響性 g各要素の複合性・「間」 h音量の変化 iハーモニー j構成
8 時空を超える日本音楽
(1)根源的
(2)特殊性
(3)未来の音楽、世界の音楽の到達点
(4)無意識下のコミュニケーション
(5)世界の社会モデルの中心
(6)結論
第二章 日本音楽各論
1 日本音楽の楽器と声
(1)楽器論 ①気鳴楽器 ②体鳴楽器 ③膜鳴楽器 ④弦鳴楽器 結論
(2)声質論 ①整数次倍音の強いもの(歌いもの) ②非整数次倍音の強いもの(語りもの)
(3)各種目の分類 ①整数次倍音─非整数次倍音のグラフ
②リズムの自由性─非整数次倍音のグラフ
2 日本音楽の種目
(1)民衆の音楽
(2)神楽 ①巫女神楽 ②採物神楽(出雲系神楽) ③湯立神楽(伊勢系神楽) ④獅子神楽(山伏神楽・番楽、太神楽)
(3)田楽 ①田舞 ②田遊びと田植踊 ③田楽躍 ④囃し田 ⑤御田植神事
(4)風流 ①やすらい花 ②太鼓踊、一人立獅子舞、鹿踊り ③念仏踊り ④盆踊り ⑤小歌踊り ⑥作り物風流
(5)雅楽
(6)声明
(7)琵琶楽
(8)能
(9)説経節
(10)祭文
(11)瞽女
(12)浄瑠璃 ①義太夫節 ②一中節 ③常磐津節 ④清元節 ⑤新内節
(13)浪曲
(14)尺八
(15)地歌
(16)箏曲
(17)長唄
(18)端唄、小唄、都々逸
(19)民謡
(20)津軽三味線
(21)太鼓
(22)アイヌの音楽
(23)沖縄音楽
3 現代の音楽、J─POPと日本伝統音楽との関わり
第三章 日本音楽の未来
1 日本の音、概観
(1)音楽の意義
(2)環境
(3)社会、言語、コミュニケーション
(4)要素
(5)日本音楽はトポロジー
(6)関係性、複雑性
(7)双方向性
(8)虚
(9)構造主義、野生の思考、分割主義
(10)ダブル・バインド
2 これからの日本音楽
(1)日本の現状
(2)音楽教育
(3)日本の文化と音楽
付論
A 密息
(1)密息の概要 (2)密息の姿勢と呼吸の特徴 (3)「密息」による受信機の感度上昇 (4)従構造 (5)海外での展開
B 倍音
(1)倍音とは何か (2)整数次倍音を含む音の特徴 (3)非整数次倍音を含む音の特徴 (4)差音、加音
C 音階論
(1)二音、三音の旋 (2)テトラコルド (3)音階 (4)音高が定まらないもの (5)分布
D リズム
(1)自由リズム (2)伸縮リズム (3)付加リズム (4)多組織リズム (5)自由リズムと規定リズムとの移行 (6)西洋のリズムとの違い
あとがき
参考文献
写真提供・撮影一覧
人名・団体名索引/曲名索引/楽器名索引/音楽用語索引/思想・学術用語ほか索引
著者プロフィール/尺八楽譜リスト/ディスコグラフィー/著作一覧/個人レッスン
前書きなど
私は、作曲家として、尺八演奏家として、四〇カ国以上で、各国の音楽に関わり、多くの演奏家と共演してきました。そういった経験を重ねるごとに感じるのは、日本の音楽の素晴らしさと、特殊性です。日本の音楽は、人類が創り出した、まさに全人類の宝です。日本の音楽がなくなってしまうと、全人類からこのような表現形式は、未来永劫失われてしまう運命にあります。この本は、その日本音楽がどのような構造を持っているのかということについて述べています。今までとはまったく異なった方向から分析、解説した本です。
今まで、日本の音楽は、「分析不能」「分析するに値しない」などと言われたこともありました。しかし、フランスの人類学者レヴィ゠ストロースは、呪術や非合理的なものを未開、文明の構図に当てはめてはいけない、むしろそういったものの方が優れている部分が多々あるとも言っています。構造主義的、「野生の思考」的なものの見方です。事実、現代では、分析しにくいものの中に、複雑な科学性が含まれていることがわかってきました。
これまでの問題は、西洋音楽の「文法」で日本音楽が解析され、未開の音楽であるかのように片づけられてきたということです。たとえば、音の垂直的な重なりについて考えるときに、ハーモニーのみ考えて、倍音についてはまったく言及されてきませんでした。その結果、日本の音楽は「ハーモニーがない劣った音楽」と片づけられてきた傾向があります。
しかし、言語の場合でも、英語を分析するには英文法で、日本語を分析するには日本語の文法をもってあたらなければなりません。日本音楽を分析するには、日本音楽にふさわしい分析法をとることが必要です。本書では、今までとは異なった分析法、つまり「倍音」「リズムの枠組み」「根源的要素の使用」「間」などを基に分析していきます。
こういった分析の方法は、ロバート・コーガンの方法の延長上にあるものと言えるでしょう(Robert Cogan, Pozzi Escot “Sonic Design: the nature of sound and nusic” Prentice Hall, 1976)。
そういった定性的な分析を集積して、日本音楽の深層を現そうとしています。
さらに、日本の音楽が世界の中でどのように位置づけられるのか、どのような価値をもつのかということを考え、過去・現在の日本音楽、伝統的なものだけでなく現代のJ─POPまでを視野に入れ、その構造を科学的に解き明かしていきます。
そして、もう一つ外の枠、物理学、音響学、文化人類学、社会学などの視点も含めて、日本音楽という立体像を浮かび上がらせようとしています。
そういった意味では、多方面から科学的に日本音楽を解説した初めての本と言えるでしょう。
ここに本書の概要を記します。
図1「日本音楽の構造」(次頁)を見てください。日本音楽が現在の形をとるようになった流れを整理したものです。図1の上半分から見ていきます。
まず第一に、日本の人々は、さまざまな環境的要素からa微小音量の聞き取り能力が上がった。そこからさらに倍音、c整数次倍音の変化に敏感になった。
第二にそこから母音主体の言語が生まれた。それによって強調するときにはd非整数次倍音を使うようになった。そのために音楽において複雑な音響を使うようになった。
第三に音楽・言語・音響の構造が同じになった。それにより境界を越えて言語、音響を取り込んだ複雑な音楽が成立した。
第四に複雑な音響を扱うことにより、無意識下のコミュニケーションの割合が大きくなった。
第五に真実性、社会同一性、集合的無意識など、人間の本質的な部分と深く関わる音楽になった。
第六に人類の始原、本質を、演じ、聴く音楽となった。言い換えれば古代の脳を受け継いだ。
ここからは下半分に移ります。
第七にさまざまな環境的要素から、倍音に敏感になり、さらにeリズムの自由性を獲得した。
第八に根源的要素を使うようになった。
第九に各要素の複合性が進んだ。
第十にそこから「間」の感覚が生まれた。
第十一に根源的要素を使用することにより他のフィールドとの融合が進んだ。これは他の音楽、他のジャンル、他のメディア、果ては脳、宇宙に至るすべてとの融合を意味する。
第十二に未来の音楽を指し示していること。
第十三に日本の音楽は、人類の遙かなる過去を呼び戻して、未来を指し示す、時空を越える音楽と考えられること。
この太字の部分は、日本音楽において特に重要なものと考えています。日本音楽のこれらの特質がなぜ生じたのかを解明していきます。
誤解しないでいただきたいことがあります。ここでは、日本音楽と他の世界の音楽の優劣を論じようとしているのではないということです。
今まで日本音楽の良さはあまり語られてきませんでした。そこで、この本では、語られてこなかった日本音楽の素晴らしさについて述べています。西洋音楽、および他の世界の音楽、その素晴らしさについては特別述べていません。だからといって西洋音楽、および他の世界の音楽が劣っているということではありません。
むしろ、私は西洋音楽、および他の世界の音楽を学んだ者として、それらの魅力を身にしみて知っているつもりです。またそれらの音楽が大好きです。
ただこの本の目的は、まったくと言ってよいほど知られてこなかった日本の音楽について知ってもらいたいということです。日本の音楽の魅力が語られることは非常に少なかったので、この本では詳述しています。日本音楽の魅力、特殊性を理解してもらえれば嬉しく思います。
また、音楽の根源的要素として、「倍音」、「自由リズム」などを日本音楽の特徴としてあげていますが、これらが多ければ多いほど良い音楽というわけではありません。これらが少なくても、繊細で日本的な素晴らしい音楽は多々あります。また世界にも、「倍音」、「自由リズム」が少ない、素晴らしい音楽は多々あります。
この本は、全三章と付論からなっています。第一章がこの本の核で、本書の二つのキーワードと言える「倍音」と「密息」を基に論が展開されます。「倍音」「密息」について馴染みのない方は、かならず付論A、Bを先に読んでください。ここでは簡単に説明しておきます。
「倍音」とは、基音とともに音を構成するもので、基音と共鳴する整数次倍音と、不規則的に発生する非整数次倍音から成り立っています。日本語では、思いや意味を強調するときにこの非整数次倍音を使います。ここが日本語と西洋の言語との大きな違いであり、これが音楽の決定的な違いを生み出します。
「密息」とは、日本の伝統的な呼吸法のことです。吸うときも吐くときも、腹を膨らませたまま行います。非常に短い時間での大量の吸気、身体の安定性、不動性などの特徴があります。さらにそれらにより、聴覚、視覚、触覚などが敏感となり、小さな音を識別して、繊細な細工などができるようになりました。ここから日本の文化の特殊性の多くが生まれたと考えられます。
また、日本の「音階」、「リズム」について詳しくない方も付論C、Dを先に読んでください。
日本の音楽を知るということは、異なった価値観、システムを知ること、またもう一つの世界、アナザーワールドに足を踏み入れることでもあります。私の経験からすれば、日本の音楽は未踏の秘境に例えられます。聞こえない音を聴くという行為でもあります。その特殊性から思いも寄らない宇宙、世界が現出します。
それでは、一緒に「日本の音楽」の宇宙を巡る壮大な旅に出かけましょう。皆さんの脳、身体に眠る他者、「日本の音楽」との遭遇の旅です。
上記内容は本書刊行時のものです。