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コンサートホール×オーケストラ 理想の響きをもとめて
音響設計家・豊田泰久との対話
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年2月29日
- 書店発売日
- 2024年2月26日
- 登録日
- 2024年2月2日
- 最終更新日
- 2024年2月28日
紹介
ホールの音響設計はサイエンスか、テクノロジーか、それともアートか?
ディズニー、エルプフィル、サントリー、Kitaraなど内外の名だたるホールを手がけ、
バレンボイム、内田光子、ツィメルマン、サロネンら巨匠たちが絶大な信頼を寄せる「世界のトヨタ」。
その耳がとらえた“音響と音楽”を語り尽くす!
ウォルト・ディズニー・コンサートホール、サントリーホール、札幌コンサートホールKitaraなど国内外の代表的なコンサートホールを手がけ、世界のマエストロが絶大な信頼を寄せる音響設計家・豊田泰久と音楽ジャーナリスト・評論家の林田直樹が「究極のオーケストラ・サウンドとは」をテーマに徹底討論。
「音がリッチであること。と同時に、音が明瞭であること。リッチなことと明瞭なことっていうのは、反対のベクトルみたいな感じがしますが、実際いいコンサートホールに行くと、両方が備わっているんですよね」
「アンサンブルがよくないとホールがうまく鳴ってくれないし、アンサンブルのクオリティが悪いままでもきれいに聞こえるホールなんてものはありえないわけですよ」
話題はホール音響を超えて、「オーケストラは〈密〉であるべきか」「弦楽器と管楽器の理想的なバランスとは」「指揮者はどうやってオーケストラの響きをつくるのか」などクラシック・ファンなら誰もが知りたいテーマにおよぶ。
豊田とともに理想のサウンドを追い求めてきたマエストロや建築家たちの個性あふれるエピソードも満載。
各章間に置かれた潮博恵によるコラムではホール音響の基礎知識や豊田のこれまでの仕事の数々を解説し、彼がなぜ特別な存在なのかを解き明かす。
目次
はじめに(潮博恵)
第1章 ポスト・コロナ時代のオーケストラと音響
1.オーケストラにとって〈密〉とは?
距離をとって演奏すること
ホームグラウンドとするホールの影響
オーケストラの人たちはどう考えているのか?
2.シカゴ交響楽団とクリーヴランド管弦楽団の音響に学ぶ
このブラスにしてこの弦あり
音楽監督の人事権
デジタル・コンサートホールの提案
3.〈密〉をとりもどすのが難しいなら、いまやるべきことは?
現代音楽への招待
札幌交響楽団の伝説的トランペット奏者
ウィーン・フィル来日に思う
Lecture
教えて、豊田さん! 音響基礎のキソ(潮博恵)
ヴィンヤード型の登場
コンピュータ・シミュレーション
1/10模型実験
第2章 オーケストラの音、ホールの響き
音響反射板のもつ意味
オーケストラに詰めよられて
音楽はサイエンスじゃなくてアートだ
残響時間が長ければいいホール?
音を視覚的にイメージするとどうなるか
Exploration 1
音楽を聴く場所の歴史(潮博恵)
教会の音楽
宮廷の音楽
オペラ劇場
コンサートの始まり
コンサートホールの歴史
野外の演奏会場
総括──コンサートホールの未来を考える
第3章 指揮者とアンサンブル
カラヤンの音に対する並外れた感性
エサ=ペッカ・サロネンとヴァレリー・ゲルギエフ
伝説の名支配人、アーネスト・フライシュマン
シンデレラ・オーケストラ
サロネンがこだわったステージのレイアウト
エルプフィルハーモニーで起きていたこと
小澤征爾の音楽作りの秘密
第4章 建築家とのコラボレーション
フランク・ゲーリーがプロジェクトにからむと
ピエール・ブーレーズ・ザールのバレンボイム
フランク・ゲーリーとジャン・ヌーヴェル
ステージと客席の関係は永遠のテーマ
Exploration 2
豊田の作品から現代のコンサートホールを考える(潮博恵)
36作品から見えること
浮かび上がる特徴
クリアで豊かな音、インティマシー
舞台の正面がないホール
多様なプログラムへの対応
世界のコンサートホール、ここに注目
オーケストラのゆくえを占う―ウォルト・ディズニー・コンサートホール
行動ファースト──マリインスキー・コンサートホール
ホールは観光のキラーコンテンツになれるか──エルプフィルハーモニー
マスを狙いにいかない──ピエール・ブーレーズ・ザール
第5章 オーケストラ・ビルダーⅠ──バレンボイム、サヴァリッシュ、デュトワ
オーケストラ・ビルダーが不要なオーケストラ
シンデレラ・オーケストラには夢がある
チューニングという問題
フィラデルフィアとバレンボイム
対照的なサヴァリッシュとデュトワ
第6章 オーケストラ・ビルダーⅡ──ドホナーニ、ブーレーズ、サロネン
クリーヴランドの秘密
ブーレーズのよすぎる耳
オーケストラをバランスよく響かせるために
Exploration 3
豊田泰久の軌跡からの学び(潮博恵)
3つの観点から音響設計家を探る
サイエンス
クラフト
アート
日本におけるクラシック音楽発展の歩みとの重なり
クラシック音楽の歴史との関係で考える
第7章 クラシックのサヴァイヴァル
録音とホールの音響の関係
ピエール・ブーレーズ・ザールとミューザ川崎
オーケストラを存続させる“人”
日本のオーケストラなら何ができるか?
Exploration 4
つくり手から羽ばたいたコンサートホールが歩む道──サントリーホールとミューザ川崎シンフォニーホール(潮博恵)
Exploration 5
福山でオーケストラを聴こう!──豊田泰久の第3楽章が始まった(潮博恵)
公共ホールの運営に携わる
福山にオーケストラの定期公演を集めたい
ホールの現状
オーケストラの定期公演とは?
2024年度からプロジェクト開始!
生の演奏だからこそ体験できること
福山のクラシック音楽人口は少ないか
聴衆の基盤は文化的な素地×エリアで考える
聴衆をつくるということ
東京から地方へ聴きに行く時代に向けて
おわりに(林田直樹)
索引
前書きなど
あとがき(林田直樹)
最初に豊田泰久さんにお目にかかったのは、2005年頃、サントリーホールの20周年記念誌を書くために、永田音響設計の創立者・永田穂さん(1925–2018)のインタヴュー取材にうかがったときのことである。温厚にゆったりと話される永田さんの傍らで、切れ味鋭く興味深いコメントをたくさん話してくださった豊田さんの印象は強烈だった。
あれ以来、いつかもっと豊田さんに話をうかがいたいと願っていた。その機会は2020年4月にやってきた。マガジンハウスの雑誌『ブルータス』の編集部からクラシック音楽特集の企画で「良い音のコンサートホール」についての記事を相談された私は、迷うことなく豊田さんの名前を挙げ、当時N響の第1コンサートマスターだった篠崎史紀(通称マロ)さんと私との三者で、誌上座談会を組むことができた。
そのときは大いに話が盛り上がって、後日再び、取材と関係なく3人でプライヴェートなオンライン雑談会をしたほどである。そうこうするうちに、豊田さんから連絡をいただいた。コンサートホールの音響のことだけでなく、〝音楽そのもの〞についての話も含めて、今度はふたりでしっかりと対談をおこない、それを一冊の本としてまとめることはできないかという相談であった。
豊田さんからの希望は、これを単なるインタヴューとしてまとめるのではなく、どんどん私からも音楽面に関する意見を言ってほしいということだった。喜んでお引き受けしたのは言うまでもない。世界に名だたる音響設計家であり日本のクラシック音楽界の至宝ともいうべき豊田さんから話をたくさんうかがうという昔からの念願がかなったということもあるが、それ以上に、クラシック音楽界の表も裏も、こんなにも意気投合してざっくばらんに語り合える、豊田さんの人間性に私はすっかり魅了されていた。
さいわい、アルテスパブリッシングの木村元さんが編集を引き受けてくださり、本書の対談部分はすべてオンラインでおこなわれた。コロナ禍だったこともあり、最初のほうは、感染対策としてのソーシャル・ディスタンスがオーケストラのアンサンブルに与える影響が話題となっている。過去の事柄と思われる向きもあるかもしれないが、いま読み返してみると、当時だからこそ鋭く浮き上がった普遍的で重要なテーマでもあった。
本書がユニークなのは、この対談と響き合うようにして、以前から社会的な視点からオーケストラの活動を取材し続けている潮博恵さんの解説が挟み込まれていく点である。これによって、豊田さんと私のどこまでも広がっていくような談論風発な〝話し言葉〞を、潮さんの解説の〝書き言葉〞がピリリと引き締める構成ができあがった。
本書をお読みくださることで、クラシック音楽好きのみなさんが、オーケストラやコンサートホールについて、人間の営みとしての面白さ、深さ、楽しさをいっそう感じるきっかけとしていただければさいわいである。
上記内容は本書刊行時のものです。