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「働くこと」の哲学
ディーセント・ワークとは何か
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年11月10日
- 書店発売日
- 2019年11月10日
- 登録日
- 2019年10月11日
- 最終更新日
- 2019年11月18日
紹介
労働は苦役か喜びか。生きている時間の大半を労働に費やしている現代の日本人にとって「働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)」とは何であるのかを、文明および情報通信技術の発展とそれにともなう労働観・倫理観の歴史的変遷から考察する。
目次
まえがき
第1章 労働の公共哲学――今日の働き方改革
1 人間はなぜ働くのか
2 西欧の「経済人間」(ホモ・エコノミクス)のもつ歴史
3 日本が生き延びるための哲学
4 長時間労働を是とする理由
5 「働く意味」と二元論の回避
6 「倫理人間」(ホモ・エティクス)の歴史的展開
第2章 身体性と精神性――唯物論か実在論か
1 人間の身体・理性・感情・霊性
2 人間中心主義(ヒューマニズム)という名の宗教
3 AIから心脳問題へ
4 ポスト複雑系としての脳と心
5 「友愛」の哲学へ
第3章 「労働の二重性」をめぐって――人間主体の二重性
1 労働は苦役か喜びか
2 マルクスの『資本論』
3 宇野経済学の「経済法則」
4 滝沢克己の「経済原則」と「主体の二重性」
5 唯物論即唯心論としての批判的実在論
6 批判的実在論とポスト啓蒙主義の宗教哲学
第4章 熟議民主主義に向けて――政治哲学の転換
1 民主主義と社会主義との対話
2 ギルド社会主義とは何か
3 創発民主主義ということ
4 「自由主義」対「民主主義」
5 ハーバーマスの宗教哲学
6 近代日本の実践家――賀川豊彦
7 「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセント・ワーク)
第5章 都市と農村――持続可能な日本へ
1 新しい幸福のモノサシ
2 相互扶助からのイノベーション
3 コミュニティ経済、コミュニティ企業、コミュニティ協同組合
4 コーポラティズムとディーセント・ワーク
5 コミュニティ経済と協同組合の公共哲学
6 農業と福祉から見えるディーセント・ワーク
7 結語
[付録]主権、領域主権、補完性
1 アルトゥジウスの政治哲学
2 市民社会論
3 倫理と社会連合体
4 領域主権と補完性原理
あとがきにかえて
前書きなど
まえがき
本書のテーマは働くこと、すなわち労働である。公共哲学を研究してきた筆者が、なぜ労働の問題に取り組むようになったのか。それは経済学者の仕事ではないのか。しかし哲学の根本に「生きる意味」をおいてきた筆者にとって、日本人の生きている大半がその多くの時間を労働に費やしている、こう気づかされたからである。
それも生きる糧を得るための賃金労働の仕事に従事している、その人生の期間があまりに長い。いや人生一〇〇年のかけ声はいいのだが、今のままだと死ぬまで働かせられる日本になるかもしれない。だから生きる意味は労働の意味になる。哲学は観念的に生きる意味について議論するだけでは不十分であり、日々、糧を稼いで生きている人々へのまなざしを欠いてならない。
(…中略…)
本書の構成は以下のようである。第1章では全体的に労働とそれを営む人間とは何か、という基本の問題を扱う。労働は苦役か、それとも喜びか。そして今日の資本主義社会で労働をテーマにする場合、どうしても、人間を労働力商品なるコンセプトで扱ったマルクスの古典について触れざるをえない。しかしマルクスの背景の世界観は唯物史観と言われているから、そもそも唯物論とは何かを見る必要がある。近代の科学の成功が唯物論を民衆に浸透させた、そのことに疑いはない。そういうわけで、第2章は科学の問題、最先端の科学である脳科学やAI(人工知能)と人間の精神作用すなわち心の問題を扱う。科学を意味づける哲学として唯物論か実在論かということもテーマにしたい。
それを踏まえた上で、第3章ではマルクスの資本論における「労働の二重性」の問題を議論する。意外なことではあるが「労働の二重性」は人間の根本の問題、特に「主体の二重性」、さらには「人間存在の二重性」から発生していることを突き止める。「人間存在の二重性」がスピリチュアリティの根拠である。戦後日本の社会科学の方法論としてマルクスとウエーバーが強い影響力をもった。そのことへの批判的検討も加えている。
第4章では、人間にとって労働が喜びであるような社会を築くために、政治の役割を説いていく。そうすると政治哲学の根本、国民主権と民主主義のジレンマもやはり「主体の二重性」がその原因であることが理解されてくる。第5章は都市にしろ、地方の農漁村にしろ、今日の日本で働くことが喜びであるような社会、「働きがいのある人間らしい仕事」(ディーセント・ワーク)による協働労働を通したコミュニティ経済やコミュニティ協同組合を創るための指針である。
[付録]では筆者の公共哲学の基本的概念となっている「領域主権」についてまとめておく。
上記内容は本書刊行時のものです。