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虐待された子どもへの治療【第2版】
医療・心理・福祉・法的対応から支援まで
原書: Treatment of Child Abuse: Common Ground for Mental Health, Medical, and Legal Practitioners second edition
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年12月20日
- 書店発売日
- 2019年12月20日
- 登録日
- 2019年11月21日
- 最終更新日
- 2019年12月3日
紹介
トラウマの視点による虐待の初期対応に始まり、エビデンスに基づく治療プログラム、医学的治療や法的対応、さらにはプログラムの普及啓発や専門家の教育・トレーニングまで、子ども虐待対応の最新知見とケアの全てを収録。原書初版刊行から14年、内容構成も全面的に変わり、大幅にページ数も増加した専門家必携の決定版。
目次
推薦文
はじめに
著者序文
Part Ⅰ 虐待された子どもとの最初の接触
第1章 身元確認、通告義務の必要条件、精神面の評価と治療のための紹介
第2章 子ども虐待における心理社会的な評価
Part Ⅱ 効果が実証された治療法
第3章 トラウマフォーカスト認知行動療法
第4章 児童福祉領域における親子相互交流療法
第5章 セイフケア――ネグレクトと身体的虐待を受けた子どもへの予防および介入プログラム
第6章 身体的虐待の問題を抱えた家族のための効果が実証された実践――家族のための代替案:認知行動療法
第7章 家族への支援――子どもへの身体的虐待のリスクが高い家族への親子複合型認知行動療法
第8章 学校現場における被虐待児への早期介入
第9章 被虐待児やネグレクト児に対する家庭養護
第10章 親族による養護
Part Ⅲ 特別な集団と特別なトピック
第11章 サンクチュアリ・モデル――グループケアの枠組みにおける組織の基本ソフト(オペレーティングシステム)の再起動
第12章 子ども虐待事例の評価や治療に関する文化的な配慮
第13章 トラウマシステム療法――トラウマインフォームドな児童福祉システムを作り上げるアプローチ
第14章 追い詰められる被虐待生徒――学校でのいじめのトラウマ
第15章 青年のための認知処理療法
第16章 リスク低減を目指した家族療法
第17章 性問題行動を有する児童青年
Part Ⅳ 短期的、および長期的治療
第18章 子どもの性的虐待に関する医学的管理――治療的アプローチ
第19章 子どもの身体的虐待への治療
第20章 子どもがネグレクトされている場合の家族への介入
第21章 発育不全と不適切な養育
Part Ⅴ 教育、研修、普及、そして地域での実施
第22章 暴力被害を受けた児童青年への効果が支持された精神保健治療を実施するための革新的方法
第23章 効果が実証されたプログラムを実用化するための州全体の取り組み
第24章 危険に曝されているケア提供者のための健康という文化の創出
第25章 治療実践において治療者と家族がかかわることの重要性
第26章 子ども虐待への効果が実証された介入の普及と実施におけるウェブベース技術の役割
第27章 救急医の教育
第28章 専門研修中の身体科医師への教育
第29章 プライマリケア医への教育
第30章 子ども虐待小児科医――不適切な養育を受けた子どもへの治療
第31章 トラウマインフォームドケアを提供するための児童精神科フェローの研修
Part Ⅵ 新たな方向性
第32章 精神薬理学
第33章 子どものトラウマ治療における遺伝子-環境相互作用の影響
第34章 虐待、ネグレクトされた子どものレジリエンスと心的外傷後成長
Part Ⅶ 法的諸問題
第35章 子どもの不適切な養育やセラピーにともなう法的諸問題
監訳者あとがき
執筆者一覧
監訳者紹介
翻訳者一覧
索引
前書きなど
日本語版刊行にあたって
日本の子ども虐待対応件数はいまだにうなぎ登りであり、とどまるところを知らない。それに対応する児童相談所や地域福祉もその子どもたちの安全を守ることに精一杯であり、それすらままならない状況が続いている。一方で、虐待を受けた子どものメンタルヘルス上の問題が大きいことはかなり知られてきているが、その回復を求めた治療が絶対的に必要なものであるという意識はまだ低い。たとえば、通告がなされても分離が必要ではないと判断された子どもとその家族には、いわゆる「見守り」が行われ、虐待を受けてしまった子どもや虐待をしない親子や家族になるための治療が提供されていることは少ない。また、分離が必要な子どもとその家族に対しても、親子の治療や心理的な治療を考えての生活の場の提供にまで至っていないのが現状である。その結果、親元にいることで危険があると判断されて分離された一時保護の場や代替養育の場において、そのトラウマ反応が理解されず、子どもたちに心理教育すらなされることもなく、適切な感情制御の方法を習得できず、その結果、さらなるトラウマを受けることが稀ではない。そのような日本の子ども虐待に対応する、福祉を中心とした、保健・医療・司法等の関係者には、本書は大きな考え方の転換を迫るものとなるであろう。
本書は2000年に出された初版本の改訂版であるが、その内容は大きく変化している。初版では虐待の種類別にその治療が書かれており、個人の治療に主眼が置かれていたが、今回は、Part Ⅰで主に虐待を受けた子どものアセスメントについて書かれており、Part Ⅱではエビデンスに基づいた治療や介入の方法が述べられている。そして、Part Ⅲでは特別な状況やトピックスについて、Part Ⅳでは医学的治療について、Part Ⅴでは専門家の教育・トレーニングとそれを地域にどのように根づかせるかが述べられており、Part Ⅵの新たな方向とPart Ⅶの法的な問題で結ばれている。特にPart ⅡやPart Ⅲの一部では、それぞれの場において、エビデンスのある治療やケアなどの介入のアプローチについてまとめられており、米国においてプログラムとして治療のエビデンスがどれほど真摯に開発されてきたかがよく分かる。
その背景には、米国において、子どもの時期の逆境体験がその後の心身の健康にどれほどの悪影響があるかが明らかにされてきたことを受けて、被害を受けたすべての子どもにエビデンスのある介入が提供されるべきであるという著者ら専門家の強い信念が伺える。もちろん、日本に比べれば長い虐待対応の歴史の中で、米国が苦悩し、失敗し、学び、それでも前に進めてきた中で、培われたものである。それを受けて、本書は、子どものメンタルヘルスにかかわる人々が、それぞれの分野で、子どもの治療やケアという介入を行うためのエビデンスに基づいた方法が提示され、さらにはその方法を地域に根づかせる方向性についても述べられている。また、それぞれの治療は、アセスメントから見立て、治療までプログラムとして行えるものとなっている。もちろん、実際に治療を行うためには、トレーニングを受けることが必要になる。幸い、日本でもTF-CBTやPCITをはじめとするいくつかのトレーニングは可能になってきている。しかし、そこまでコミットできないと考える人にとっても、日々虐待を受けた子どもと接するにあたって、トラウマインフォームドケアを中心とした考え方を学ぶだけでも意味がある。虐待を受けた子ども、およびそれを取り巻く家族などのシステムを含めて、これほどにエビデンスのあるプログラムが開発されていることを知り、自分がどのような立場で子どもに接するのかを考えることは専門家として必要な作業である。
おそらく、アメリカにおいては、今後もさらなる発展がなされていくであろう。一方、日本では、子ども虐待に関わる人々が虐待を受けた子どもやその家族・地域に有効な治療やケアの方法をしっかりと言語化して行っていく文化を養う必要がある。今後、増えていくことが期待されている子ども虐待に関わる専門家のコンピテンスを上げるためにも、現在の専門家が本書を読んで、治療に対する自分の考え方をしっかりと持ち、専門家を志す人に伝える努力が求められているのである。そうでなければ、虐待を受けた日本の子どもたちの真の回復は望めないであろうし、それが世代を超えて、未来の日本に影響する。一見すると難しく感じるかもしれないが、本書が翻訳されたことが、日本の子どもへの福音になるように、本書を日本の虐待対応の中で活かしていくことが求められている。
前 成育医療センター こころの診療部 統括部長/日本子ども虐待防止学会理事長
奥山眞紀子
上記内容は本書刊行時のものです。