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「閉じた書店のシャッターを再び上げるぞ!」の背景にあるもの

出版業界で静かに潜行し続けて数か月、いま少し水面に顔を上げようと思いつつ、首をくきくきと左右にひねり、肩のあたりをもみほぐしながら、ご依頼の「版元日誌」を書いている。
思えば、友朋堂書店3店舗が閉店したのは2016年2月12日。
書店の入口に閉店を知らせる手書きの紙が突如張り出された。
私は、連休前の2月8日に友朋堂各店を営業し、店長たちと「春からゴールデンウイークにかけての企画」について打合せをした。そして営業から帰った直後、ネットで「太洋社自主廃業」のニュースを知り、友朋堂書店のTさんに「だいじょうぶ?」のメッセージを送付。もやもやしたまま、休日の2月11日、twitterで「友朋堂書店閉店」の情報を知った。まさに「寝耳に水」だった。おそらく書店員全員、あるいは社長にとっても「晴天の霹靂」だったに違いない。

茨城県つくば市は人口20万強、人口の割に書店数は多い。しかも、全国展開するチェーン店がほとんどで、いわゆる地方独立系書店として、友朋堂書店の存在は、地元市民にとっては「最後の砦」でもあった。しかし、話はこれで終わらない。くまざわ書店つくば店の2016年4月10日限りの撤退が、直後に知らされたのだ。

わずか3か月で、つくば市内から書店4店舗が消えた!
いずれも、弊社、結エディットとは直接委託契約販売をしている店舗ばかり。と書くと、「茫然自失の体」を想像されるかもしれないが、正直言えば、「来るべき時が来たか」という、看取りに近い思いがあった。でも、そう呑気に構えていられない。出版社にとって売場が消えたということは死活問題だからだ。

短期間に4店舗もの書店が消えた背景には、たんにローカルな問題で済まされず、全国的な出版業界、流通としての取次業界、小売店としての書店が置かれた状況の縮図がある。この場を借り、あえてその背景などを振り返りたい。そして、できれば少しの光で文章を結びたい(と思うので、最後まで読んでくださいね)。

友朋堂書店閉店は、直接的には取次会社、太洋社の自主廃業(後に、経営破綻)による。
教科書販売や外商などの経営はそのまま続けるものの、3月6日のさよならセールを最後に、店舗は閉店となった。そして、いまもシャッターは下ろされたままだ。

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筑波研究学園都市の草創期、1981年に開業した友朋堂書店は、「科学のまちの書店」を掲げてきたが、店舗態勢、企画催事、顧客管理、情報発信など時代の流れにうまく付いて行けなかったと、閉店したいまだからいえる。詳しくは、wikipedia「友朋堂書店」参考。

たとえば、大型書店の波。
2000年、友朋堂書店は、4店舗目の店舗としてCDや文具の売場面積を大きくとった桜店を開店させた。
その後、2003年三井不動産のショッピングセンター「ララ・ガーデン」に、くまざわ書店が出店。これは、2005年開業のつくばエクスプレスを視野に入れたものだ。しかし、2008年、「ララ・ガーデン」の数キロ先に出来たダイワハウス系のショッピングセンター「イーアスつくば」に、同じ、くまざわ書店グループのアカデミア書店が出店。店売り場面積1,000坪、市内最大売り場面積で、専門書などの品揃えが話題となった。
そして、2009年にイオンモール土浦、2013年にイオンモールつくばが出来、それぞれ未来屋書店が入った。

これら全国チェーン系大型書店が次々進出するなかで、2011年3月11日の東日本大震災は、本の位置づけを大きく変えた。
誤解を恐れずにいえば「家に本は必要か?」という問いだ。出版社がこんなことを言っては「身も蓋もない」が、たとえば百科事典を応接間にでんと並べたところで、それが一瞬でごみになってしまう。核家族化が定着し、高齢化するなかで、実家の本棚にある本たち。遺産として手渡されたとき、だれが引き取るのか? だれもがうすうすと感じていたことを、地震や津波はそれを意識化させた。この問いは、本に限らず必要でないモノは買わないようにしようという購買抑制行動、つまりデフレにつながっていると思うのだが、いかがだろ?
インターネットで、情報が、いつでも、どこでも手に入る状況で、重く場所とりの本の価値は、地震を境に大きく揺らいだ(もちろん、インターネットの情報が正しいかどうかは別問題として)。

友朋堂書店でいえば、アッセというショッピングセンター内の店舗が、地震でスプリンクラーが作動し、書籍がほぼ水に濡れ、大量の廃棄が生じた。ショッピングセンターの建物被害などもあり、2013年アッセ店は閉店となる。

書店の大型化だけでなく、「本が売れない時代」を背景に、カフェができたり、雑貨を販売したり、さまざまな試みがなされるようになった。しかし、ローカルの書店が、カフェを作るための投資に踏み切るにはそれなりの覚悟が必要だ(もちろん、広島県庄原市東城町の「ウィー東城店」のようにとびっきりユニークな試みはあるが。)

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シャッターが降りた友朋堂書店吾妻店(本店)の現在の店内

売上が延びない、設備投資もできないとなれば、どうすればいいのだろう? 無駄を切り捨て、損失などのロスを抑え、利益率を確保すること。もちろん「言うは易く行うは難し」だが、経営の教科書には必ず登場する常套手段だ。

出版、流通、書店という出版業界の上流から下流の流れで、もっとも甚だしいのは、返本ロスだろう。下流まで流れ着いた商品が、ふたたび上流へとさかのぼる。場合によって、返本が途中で逆送され、再び戻りなど、行ったり来たりする。

小田光雄さんの「出版状況クロニクル97」によれば、昨年の日版は「雑誌が書籍を下回り、雑誌と書籍の売上が逆転してしまった」という。
出版流通で、メインの雑誌の取り扱い量の減少は、流通スピードに直結する。昨年、書店で受けた注文が、取次経由で3週間経っても入らなかったという「事故」を経験した。インターネットの販売サイトが、当日便をうたうなかで、時代に逆行している。
流通スピードのロスは、販売機会のロスといっていい。

命に関わる「食品ロス」がクローズアップされるなか、すくなくとも、貴重な地球資源を使って輸送し、本を管理する人件費、梱包費などさまざまなコストの無駄、さらに日の目を見ないまま失われる書籍のロスは、「知のロス」ともいえるのでは? これは、書籍を世に出す者としてはしのびない(最近、廃棄に慣れた自分を見つけ、ぞっとした)。

ではロスを減らす手はないのか?
たとえば、出版物は情報をひもづけるためのISBNコードを持つ。
出版社、書籍名、分類、価格など現状のコードに、流通経路のトレースがたどれるコードを付加できないだろうか?

日本出版インフラセンター、JPOのサイトによれば物流コードとして、2007年にICタグの実験が行われているようだが、以降動きがない。
ICタグはJR東日本のPASMOをはじめさまざまなところで利用されている情報管理端末で、過去の履歴、トレースがたどれる。ただ、現状の書店レジで用いているバーコードリーダーの読み取り機械に加え、新たな設備投資(うまくいかない場合はロス)やICタグのコスト(安くなったとはいえ数円)が必要となるなど流通システム全体を視野にいれた改編が必要になる。
ただ物流のトレーサビリティーが実現できれば、出版物が、いつ、どこを通って来たのか
、いつ売れたのか、売れないで在庫となっているかが分かる。複数の取次を経由する場合
、逆送という面倒なこともなくなる。また、返本対象なのかどうかなどの情報を付加しても良いかもしれない。

これらの情報が一定のセキュリティが確保された上で共有できれば、出版社はいつ何冊売れたのか、書店は何冊在庫があるのかが「一目瞭然」だ。さらに、この手の本だったら何部くらい刷ればいいか? 現在の「獲らぬたぬきの皮算用」的戦略から、ちょっとはましな科学に基づいた有効なデータがつかめる(ほんとうか?)。少なくともこのことで返本という日の目を見ない本を少なくできるはずだ(もし実現を阻むとすれば、情報の共有化で、一目瞭然となることに不都合を感じるひとたちだろう)。
出版業界は、明らか小量多品目の時代に入った。売ること以上に、ロスをいかに防ぎ、効率よく売るかにかかっている。またロスを減らすことでプラスに変えることもできる。たとえば、地方の独立系書店にとって、流通上のロスが防げれば、ロス分を人件費に回せる。

友朋堂書店の閉店によるロスで、経営上のロス以上に、正社員として雇用されていた人的ロスが大きい。
客に背を向けて商品の出し入れをするだけだったら、AIに頼ればいい。ひとがなすべきは、どの本を読んで欲しいかを決め、提案することだ。販売面積が大きく一定以上の売上が必要な大型チェーン店と比べ、地方独立系書店にとって、売上以上に選書力、企画力が生き残りの決め手となるはずだ。そのためにも、流通ロスを徹底的に抑え、優秀な人材を確保する必要がある。地方だったら、正社員雇用といっても、都会の水準より安く抑えられるだろうし、可能性はあるんじゃないかな。

友朋堂書店の閉店で、業界視点とは別の視点のロスに気付いた。それは本を買う側、つまり顧客目線からのロスだ。

友朋堂書店の閉店をtwitterで知ったと書いた。実は、閉店後も友朋堂の閉店を惜しむ声は絶えない。
#友朋堂ロス
このハッシュタグは、いまなお、増えている。また、「つくばの名書店『友朋堂』の閉店に、つくば民の愛とロマンティックが止まらない。」というtogatherのtwitterのまとめを見れば、#友朋堂ロス のインパクトの大きさを理解してもらえると思う。

事務所と自宅のチャリ通で、路面店の友朋堂書店はぶらり立ち寄れたが、それがかなえられなくなった瞬間、買う権利を奪われたと思った。大げさにいえば選択の余地を奪われたのだ。
この現実に直面したとき、「消費者は消費者のままで良いのか?」という疑問が湧いた。少なくとも、わがままな消費者と言わせないためにも、市民として何か行動を起こす必要があると。

商店街にある書店は、ある程度顔の見える住民の集まれる場だったりする。実際に友朋堂書店の思い出として「子どものころ、待ち合わせ場所に使っていた」という声が多かった。

書店だけでなく、商店街がもの凄いスピードで失われていく。この問題は、たんに大型ショッピングセンターが悪いという一言で片付けられないくらい、大きく、複雑だ。ただ、地域の顔の見える範囲で書店が無くなるとことは、まちの問題で、看過できない。ならばどうする? 変えるには仲間の力、ネットワークしかない。

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さて、前振りが長くなったが、そんなこんなで、この程、友朋堂書店の再スタートに向けた試みを、つくばの地域の出版社として、あるいはひとりのつくば市民として始めることになった。
教科書販売が一段落した4月以降、定期的に友朋堂書店に足を運び、社長とぽつぽつ話すなかで、「まずは一箱古本市からはじめたらどうなんだろう?」という投げかけに、「やってみてもいいよ」と少し前向きな返事がようやく返ってきた。
そこで、仲間数人と実行委員会準備会を立ち上げ、6月30日に「友朋堂書店一箱古本市」の第1回実行委員会を開催するまでになった。
そして、8月7日(日)、閉まったままになっている友朋堂書店吾妻店のシャッターがとうとう開く!

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「一箱古本市」は、南陀楼綾繁さん(@kawasusu )が代表を務める不忍ブックストリートで古本をまちづくりに活かす試みとして2005年以降、地道に続けられてきたプロジェクトだ。友朋堂書店吾妻店での一箱古本市の詳細はまだ未定だが、「まちにとって書店とは?」などのアンケートを取ろうと思っている。

友朋堂書店一箱古本市のfacebook
友朋堂書店一箱古本市のtwitter

これはあくまでも個人的願望なのだが、一箱古本市はシャッターを開けるためのきっかけに過ぎないと考えている。たとえ、シャッターが開いたとしても、閉店前と同じでは、また閉まることは「火を見るよりも明らか」だ。営業を継続するには、売上以上に、利益を出し続けることが重要だ。そのためには、上で述べてきたロスをいかに少なくするかにかかっている。そして営業上のロス以上に大切なのは、
「まちにとって書店とはなんだろう?」
という問いに対する答えを見つけることだ。

この問いの答えを見つけることは、おおげさに言えば、ひとつの社会実験だと思っている。ロスを抑え、市民が考える必要なまちの書店の機能を新たに加え、魅力を発信していくこと、そんな「気宇壮大」なこと、自分にできるのか? ここは仲間を信じたい。
もちろん、仲間は、地元民だけに限らない。版元ドットコムというネットワークがなければこんな行動に移さなかった、いまでも、そしてこれからも、大きな力になっていただけると信じている。

※友朋堂書店は閉店時3店舗態勢だった。2016年6月25日現在、桜店は売却契約が成立し、梅園店も借り手が見つかったとのことで、本店である吾妻店1店舗態勢となった。

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