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百年を経て『南豫史』復刻の顛末

この春、総頁数1168という分厚い本を出版した。百年前に出版された本の復刻版である。新刊でさえ、本の形を成さぬままに電子出版されようというご時世に、なんと優雅な(無謀な)…。
しかし、これにはそれ相応の理由がある。
宇和島(愛媛県)出身の地域史研究家・神津陽氏と話していたときのことである。
実は、わが創風社出版、今年で30年を迎えることになる。創業30年を記念して、地方出版ならではの本を作ってみたい・・・そんな話をすると、神津氏が即座に言った。それなら『南豫史』を復刻してみては?・・・
『南豫史』とは、1915年(大正4)、愛媛県の南(南予)にある宇和島市の多賀神社宮司だった久保盛丸氏が出版した郷土史本である。各地で収集した故事伝承や当時あたれる限りの資料をもとに南予の地誌・歴史を網羅した1100頁を超える大著で、歴史愛好家の間で高い評価を得たものだが、刊行から百年近くを経て、今や好事家が探し求める幻の書となっていた。
即座にそう言ったところをみると、神津氏はかねてから、なんとか復刻できないものかとの思いがあったのだろう。また、私の方でも、『南豫史』と聞いて、胸弾むものがあった。
実は私も宇和島市出身、多賀神社は私の通った中学校の近くにあった。
この多賀神社、現在は併設されている「凸凹神堂」で有名である。その数世界一と言われる性文化財のコレクションで知られ、休日ともなると観光バスの停まる、宇和島の名所となっている。私が中学生の当時はまだ知る人ぞ知る存在であったが、子どもは入所を禁じられていたその場所(当時は蔵のようなところに収められていたと記憶している)は大いに少年たちの好奇心をかきたてたし、その創始者・久保盛丸氏はほかにも様々な逸話をもつ、いわば伝説の人。後に彼の著書としての『南豫史』の存在を知れば、その書もまた、憧れの書となっていたのである。
可能ならば、復刻してみたい・・・。
話は決まった。神津氏は、復刻に耐えうる原本を見つけ出し、復刻にあたっての監修も引き受けてくれることになった。
そうして、この春、『復刻版・南豫史』の上梓となったのである。
百年経っての復刻である。これからのことを考えると、電子出版にすべきか…との思いが、一瞬よぎる。いや、だめだ。今、この本が手に入るならば欲しいと思っている人々は、おそらく、電子図書での購読は難しい高齢の人が多いことだろう。地域の歴史を愛し、いわば地域の出版を支えてきた人たちである。創業30年の記念に出すのなら、この先の利便性より、今、彼らに喜ばれる形にすべきだろう・・・というわけで、厚さ6.5㎝、重さ2キロ近くという、時代に逆行した本ができあがったのである。
復刻にあたっては、久保盛丸氏の孫にあたる多賀神社の現宮司・久保盛浩氏の前文や神津氏の解説で本書の背景などがわかるよう配慮し、さらに本書を繙く手掛かりとして、原本にはなかった目次や索引を加え、原書より使い勝手がよいと喜ばれた。
原本が世に出て100年。ここで復刻版が出たことにより、『南豫史』の寿命がさらに100年延びるとしたら、その中継ぎができたのだとしたら、それはまさに、出版の醍醐味とも言えるのではないだろうか。
また、神津氏が最も期待していることでもあるが、本書の復刻が、24歳の若さで西南四国全体を見渡した本書をものにし、その後、世界を股にかけた性文化財の蒐集・研究にのめり込んでいった久保盛丸という稀有な人物の再発見・再評価につながり、さらには彼自身に関する研究が進まないものか・・・そんなことを思っている。


 
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