福島の農と地域にこだわって
コモンズは2013年から版元ドットコムに参加しています。創業は1996年5月、あっという間に18年が経過しました。ジャンルは大きく分けて5つ。社会と環境を考える、新しい農のかたち、暮らしを見直す、シリーズ安全な暮らしを創る、アジアを知る・歩く、です。2008年度に、梓会出版文化賞特別賞を受賞いたしました。
3.11以降は、福島の原発事故からの復興が、書籍の発行でも個人的活動でも大きな要素を占めています。それは決して特別なことではありません。関連企画はたくさんあります。ただ、コモンズが特徴的なのは、年間空間放射線量が1ミリシーベルト前後の地域で、かけがえのない故郷と生業を守るために、踏みとどまって努力している人びとの思いを伝えようとしていることです。それは「危険ではないから、移住するな」という政府や一部の自治体の立場とは、まったく異なります。「危険かもしれないけど、地域を愛するが故に移住するわけにはいかない」という、いわば積極的なスタンスです。そして、そうした選択をした人は実はたくさんいます。
4月には、年間2点ほど刊行している「有機農業選書」の6として、『農と言える日本人――福島発・農業の復興へ』を世に問いました。著者・野中昌法氏は、土壌学を専門とする新潟大学の教授です。この3年間で250回以上も福島を訪れ、農家の生の声を聞き、農家と協働で調査・研究し、農家から深く信頼されています。調査・研究の結果、農産物への放射性セシウムの以降は想定されていたより大幅に少ないこと、同時に森林の汚染は深刻で、そこから流れ出す水を利用している水田の米からは50~80ベクレル程度の放射性セシウムが2013年に検出されたことなどが、わかってきました。常に現場に身を置き、そこから考える野中氏は、「現代の田中正造」と言っても過言ではありません。
もっとも、こうした営みや立場を都市生活者に理解してもらうのは、容易ではありません。ぼく自身、反原発の知人から批判されています。4月13日に東京・神保町で行われた『脱原発フォーラム』の即売でも、福島の有機農業者たちと創った『放射能に克つ農の営み――ふくしまから希望の復興へ』は、1冊も売れませんでした。すぐ横では、eシフトのブックレット『「原発事故子ども・被災者支援法」と「避難の権利」』が飛ぶように売れていたにもかかわらず……(ちなみに、小出裕章さんが著者の一人である小社の『原発事故と農の復興』は持参した5冊が完売しました)。
大半の都市生活者にとって、農業はじめ第一次産業は所詮、他人事です。しかし、原発事故で最も問われたのは、エネルギーも食べものも地方に依存してきた都市のあり方だと思います。原発をなくすためには、エネルギーをふんだんに使ってきた高度経済成長路線から脱却し、経済成長を唯一の尺度としない、脱成長社会に切り替えるしかありません。そのとき、大切なのは第一次産業です。今後も、福島の農と地域にこだわり続けていきます。
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