気になるのです……よろしく
ときどき鼻につくことばに、「よろしくお願いします」がある。
いつだったか、外国人から「どういう意味ですか?」と聞かれたことがある。むこうは日本語初級者だったので、それは自己紹介のときの最後にいうことばだよ、とおしえた。とりあえず限定的に、そうおしえるしかなかった。
僕たちは日常、なんの気なしに「よろしくお願いします」を使っている。しかし、「お願いします」の意味はわかるが、「よろしく」がなぜくっつくのか不明である。
「じゃあ、よろしく」といって別れ、「奥様によろしく」と言付けたりする。「よろしくどうぞ」なんて、煙に巻くようないい方もする。「よろしく頼むよ」はワリとわかりやすいし、「よろしくやってますねぇ」も、いささか下世話な感じが出ていて、それはそれでわかる。
「よろしく」は、文法的には形容詞「よろしい」の連用形からきているので、出自ははっきりしている。しかし使用場面はさまざまであり、そこで内包する意味もちがってくるのである。
ほどよく、適当に、うまいぐあいにやってくれ。まあまあお手やわらかに。わたしのことを敵対視しないでください。あなたのことは嫌いじゃないよ(建前の場合もあるけれど)。あなたのことを気にかけていますよーー。
そうなると、「奥様によろしく」は、ちとマズいのでは? あなたの奥様に好意を持っていますよ、という意味になるではないか。嫉妬深い夫なら逆上してややこしいことに、てなケースはないとは思うが……。
とにかくこの「よろしく」は便利なことばである。あいまいで意味不明。なんとなくわかったような、わからないような……。じつに日本人の感性に合う、というか、場の潤滑油として機能している。
しかし、「よろしくお願いします」はいかにも長すぎる、とときどき思う。たとえば、テレビやラジオの政治討論会の出席者お歴々が、冒頭自己紹介をするときなどはうんざりする。
「ジミントー(A)のアベシンゾー(B)です。よろしくお願いします」以下、AとBを差し替えて順番につづく。
事前の申し合わせで「よろしくお願いします」を省略できないのか? 最初のアベ氏が「よろしくお願いします」とやってしまうと、以下同文になりがちである。
ーーかように、「よろしくお願いします」は気になるが、これも日本語表現の豊かさかな、と考えると、まあいいかとも思うときもある。外国人にはうまく説明できないけれど……。
こんなのもある。「そこんとこ、ひとつよろしく」。