版元ドットコムのトリセツ
5月27日(金)に、空犬さん(@sorainu1968)が主催するイベント「beco talk」vol.30に登壇する機会をいただきました。「版元ドットコムが変わる?!」というテーマで、空犬さんが私と事務局の石塚昭生さんに版元ドットコムの「これまで」と「サイトリニューアル」について質問するというスタイル。3人のおしゃべりを、飲み物片手のお客さんに見てもらうというなごやかな会でした(ただ、beco cafeが5月に閉店したため、このイベントも今回が最後でした。残念)。
当社は版元ドットコムの設立時から関わっているということで、私は「これまで」をメインに話すことになっていました。ただ、私が入社する前の事柄もあり、またいざ話すとなるとけっこうあやふやな部分もあって、このままではマズイことが判明。過去の議事録やサイトにある「沿革」、「第1回 太郎次郎社エディタス・須田正晴は如何にして版元ドットコムに入ったのか」を、あわてて読み返してメモ書きを作りました。
自分用にQ&A形式にまとめたのですが、いま読み返すと、「沿革をたどる時間はないけど、版元ドットコムがどんな団体かを少し詳しく知りたい」という方に「まとめサイト」的に見ていただけるかもしれないと思い、メモ書きを公開することにしました。
読者のみなさまには、出版業界の「中の人」たちが考えていることの一例として読んでいただけたら幸いです。
□ 版元ドットコムのこれまで:メモ書き □
○版元ドットコムができるまでの経緯は?
→出版流通について意見交換を続けていて、方向性がほとんど同じだった出版社=青弓社、第三書館、凱風社、批評社などに対してポット出版が「書誌のDBを立ち上げよう」と呼びかけて、1999年から検討会議を重ねて、12月に第1回「参加呼びかけの説明会・意見交換会」を開催した。目的は、「出版業界には書誌のナショナルセンターがない、であれば自分たちで作って、必要とする場所に送る」という1点だった。
→引き続き骨格を決める検討会議では、「DB構築の進め方」「読者への直販をどうするのか、その際の送料は出版社が負担するのか」などで侃々諤々(かんかんがくがく)の論争を繰り広げた。その結果、送料は出版社負担で直販することも骨格の一つとした。
○版元ドットコムとは?
→出版社の会員制の団体(出版点数に応じた月額の会費制)。出版社ではなく個人も会友として参加可能。
→発足は1999年。2016年現在で212社の出版社が参加。中・小・零細出版社が中心で、編集・営業・経理をすべて1人でまかなう「ひとり出版社」も。会員社の登録点数は48,000点。年に1回の会員集会のほかに、忘年会・新年会などで会員が集まる場を作っている。
○参加出版社の範囲は?
→会員の資格は「出版業をなりわいとしていること」。会友資格は特に問わない。会員申請があった出版社は、組合員会議で審査を通過したら会員になる。
○組合員社は?
→2016年現在は7社:スタイルノート/スタジオポットSD/青弓社/太郎次郎社エディタス/第三書館/トランスビュー/ポット出版
→組合員社は版元ドットコムに出資していて議決権をもっている。会員・会友は組合員会議への参加は自由、発言権もあるが、議決権はない。
○版元ドットコムの特徴とは?
→業界内でも出版社同士の相互扶助的な団体・組織はいくつかある。
→大手も名を連ねる日本書籍出版協会(書協)、人文書中心の出版梓会や人文会、歴史書出版社の集まりである歴史書懇話会、理工系の専門出版社の自然科学書協会、中小出版社の集まりで業界への意見表明も多い日本出版者協議会……。
→出版物のジャンルや政治的な志向性を共有した団体が多いなか、版元ドットコムは出版社から読者への情報提供・発信を目的として作った団体。特定の「色」をできるだけつけないようにして、情報発信や流通改善に取り組むことを目的にしている。
○情報発信とは?
→具体的には、書誌情報——書名・サブタイトル・著者名・書影・内容紹介・目次・発行年・定価・ISBNなど——を出版社自身が整備してデータベース化。その情報を読者が検索でき、また書店・取次・読者に発信することを第一の目的にしている。そのため、会員出版社は自社の書誌情報の登録が「義務」となっている。
○なぜ出版社が書誌情報を整備することが重要なのか?
(1)(意外にも?)出版社自身が本の情報を整備していないことも多く、取次(問屋)・書店・図書館と、共通のデータベースを使わずにそれぞれが独自に情報を収集・蓄積している状況だった。
→メーカーである出版社が、本の命ともいうべき書誌情報を整備して発信することで、精度が高く、信頼できる情報を読者や業界内の各アクターに届けることができる。
→また、年間8万点の刊行物があるなかで、本が生まれた(刊行した)/なくなった(品切れになった)ことを、出版社が主体的に発信するのも大切だった。
→リニューアル前からAPI公開しているので、版元ドットコムのDBにある情報は誰もが自由に利用することができる。
→リニューアルは、「会員社の情報だけを扱うデータベース」から「広く一般読者に向けた本のデータベース」への移行。また特定の私企業に紐付いていないデータベースの構築も視野に。
(2)プラグマティックな問題としては、出版社が認識している在庫の有無が読者(や小売りである書店)のそれと一致していないことが多く、売り逃しがかなりあったと思われるので、「ウチの本の情報を誰かに届けてもらう」のではなく、「自分たちで届ける(環境を作る)」ことが大きな目的だった。
(3)最近では近刊情報の発信と利活用についても意識的に取り組んでいる。
○書籍販売の取り組みは?
→出版社から直接読者に発送。送料無料、カード決済対応、郵便振替も対応。設立当初は「送料無料で出版社が直接販売サイトを構築」といった面がクローズアップされた。amazonの日本参入が2000年で、当時は一部小売りが書籍販売サイトを運営している状況だったため。
→直販は読者と直接やりとりできるチャンネルとして機能していたが、リニューアルの一環として2015年8月で販売は取り止めた。
→そのかわりに、それぞれの本のページからオンライン書店「honto」ほかのページに飛ぶようにリンクが貼ってある。
「honto」:大日本印刷とNTTドコモの合弁会社である株式会社トゥ・ディファクトが運営するオンライン書店
○ノウハウの共有は?
→「版元ドットコム入門」といった講習会を年に数回開いて、ゲストを招いて話を聞いたり各現場の実情を語ってもらったり書店営業のコツを話し合ったりしている。
→会員・会友が見られるメーリングリストで、出版業界の情報や意見交換がおこなわれている。たとえば「図書館に営業するにはどうすればいいの?」「読者から○○で本を買いたいと問い合わせがあったけど、どうやって○○と連絡すればいい?」「著者と結ぶ出版契約書について教えて」といった基本的なものもメーリングリストで意見交換することで、それがノウハウの共有につながっている。
○協業って?
→版元ドットコムが主催になっているわけではないが、日頃の交流などから共同DM企画やブックフェスへの出展など、小さい出版社同士の協業に関しての呼びかけもメーリングリストでおこなわれている。
○そのほか
(1)2006年に有限責任、内部自治、構成員課税を柱とするLLP(有限責任事業組合)になった(版元ドットコムLLP)。
→なぜLLPにしたのか?:任意団体のままでは経理上の責任、とくに利益に伴う税の問題が予想されるために、なんらかの法人化をめざすことになった。「株式会社は手続きが煩雑だ」ということと、「無限責任ではなく有限責任を押し出そう」という一幹事社(法人化するまでは幹事社と称していた)の強い主張もあり全幹事社が同意して有限責任事業組合として設立した。
(2)内部に版元ドットコム西日本支部もあり、関西方面の出版社が集まって情報交換をしている。
(3)版元ドットコムが主催してor会員が中心になって企画した協業例:海外図書館用ブックカタログの作成、東京国際ブックフェアへの出展、高円寺フェスへの出展
(4)組合員社7社のうち4社は注文出荷制。注文出荷制の出版社(版元ドットコム会員社と重複も多いがまったく同じではない)は共同DMなどを発送して営業活動をしている。
(5)版元ドットコムは今後、サイトやデータベースのさらなる改善とともに、電子書籍やPOD(Print On Demand)にも取り組んでいく予定。