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量子力学Ⅲ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年10月29日
- 書店発売日
- 2024年10月29日
- 登録日
- 2024年9月3日
- 最終更新日
- 2024年11月8日
紹介
「行列力学入門」「波動力学入門」に続き 理工数学シリーズ『量子力学』を締めくくる
量子力学 Ⅲ 磁性入門
量子力学の角運動量演算子という手法をもとに、人類は古典力学を参考にしながら、電子軌道にともなう磁性の解明に成功する。
しかし、説明のできない発光スペクトルの異常分裂に出会い、ついに、電子スピンという第4の自由度にたどりつく。
目次
もくじ
はじめに ································································ 3
第1 章 物理量と演算子 ··················································· 9
1. 1. 磁性 10
1. 1. 1. 電流と磁場 10
1. 1. 2. 円電流 11
1. 2. 量子力学的アプローチ 12
1. 3. 演算子とは 12
1. 3. 1. 線形演算子 13
1. 3. 2. 交換子 15
1. 3. 3. 逆演算子 16
1. 3. 4. 固有関数と固有値 16
1. 4. 量子力学における演算子 18
1. 4. 1. 運動量演算子 19
1. 4. 2. 位置演算子 19
1. 4. 3. 交換関係 22
1. 4. 4. ハミルトニアン 22
1. 5. 固有値と期待値 24
1. 5. 1. 固有値と内積 24
1. 5. 2. 期待値 26
1. 6. 磁性に対応した演算子 31
第2 章 角運動量演算子 ·················································· 33
2. 1. 角運動量とは 33
2. 2. 量子力学における角運動量演算子 37
2. 3. 角運動量ベクトル L^2 に対応した演算子 40
2. 4. 極座標表示 43
2. 5. 角運動量演算子 L^2 の固有関数 48
2. 6. 演算子 L^2 の極座標表示 50
2. 7. 演算子 L^2 の固有値 53
2. 8. ゼーマン分裂 57
2. 9. 昇降演算子 59
2. 10. 演算子の行列表示 71
2. 11. まとめ 85
第3 章 スピン ······························································ 86
3. 1. 電子の自転とスピン 86
3. 1. 1. 奇妙な現象 86
3. 1. 2. 新たな電子の自由度 87
3. 2. スピン角運動量 88
3. 3. スピン座標 93
3. 4. ベクトル表示 94
3. 4. 1. 演算子と行列 95
3. 4. 2. スピンの昇降演算子 96
3. 4. 3. 直交座標の演算子の導出 98
3. 5. スピン角運動量の期待値 102
3. 6. スピンによるゼーマン効果 106
3. 7. まとめ 107
補遺3-1 パウリ行列 109
A3. 1. パウリ行列の性質 109
A3. 2. ディラック行列 112
第4 章 スピン軌道相互作用 ··········································· 115
4. 1. Na 原子のD 線の分裂 115
4. 2. 角運動量の合成 117
4. 3. 相互作用演算子 121
4. 4. 昇降演算子 122
4. 5. 演算子L s の作用 129
4. 6. Na 原子のD 線分裂 ─ 謎の解明 140
4. 7. 演算子 Jˆ2 142
4. 8. 演算子 Jz 148
4. 9. 合成角運動量の昇降演算子 150
4. 10. まとめ 153
第5 章 異常ゼーマン効果 ·············································· 155
5. 1. 固有関数と縮重 155
5. 2. 外部磁場による付加項 157
5. 3. 固有値(1/2)h^2 に属する波動関数の変化 159
5. 3. 1. 固有関数の変化 162
5. 3. 2. 固有関数ではない場合 162
5. 4. 固有値(1/2)h^2に属する波動関数 164
5. 5. 固有値が異なる波動関数の混合 166
5. 5. 1. 波動関数 Ψ-1/2 と χ-1/2 の場合 166
5. 5. 2. 波動関数 Ψ+1/2 と χ+1/2 の場合 171
5. 6. 磁場に関する演算子 174
5. 6. 1. 波動関数 Ψ-1/2 と χ-1/2 175
5. 6. 2. 外部磁場がない場合 177
5. 6. 3. 外部磁場が大きい場合 178
5. 6. 4. Ψ-1/2 と χ-1/2 の中間状態 179
5. 6. 5. 波動関数 Ψ+1/2 と χ+1/2 181
5. 6. 6. Ψ+1/2 と χ+1/2 の中間状態 184
5. 7. 異常ゼーマン効果 186
5. 8. パウリの排他律 189
第6 章 交換相互作用 ······················································ 193
6. 1. 2 電子系のシュレーディンガー方程式 193
6. 2. 反対称波動関数 196
6. 3. クーロン相互作用 200
6. 3. 1. 電子間相互作用 200
6. 3. 2. クーロン積分 203
6. 3. 3. 交換積分 204
6. 3. 4. 2 電子系のエネルギー 206
6. 4. 2 電子系のスピン状態 207
6. 4. 1. 対称と反対称波動関数 207
6. 4. 2. 合成スピン角運動量 209
6. 4. 3. スピン ─ スピン相互作用 211
6. 4. 4. 合成スピン角運動量絶対値の2 乗 216
6. 5. スピンを含む2 電子波動関数 222
6. 6. 交換相互作用と強磁性 224
6. 7. 2 電子系のエネルギー 225
おわりに ································································ 228
前書きなど
はじめに
量子力学の大きな成果のひとつは、シュレーディンガー方程式によって原子内
の電子軌道が明らかになったことである。ただし、得られた軌道は、地球の公転
のような単純なものではなく、複雑な電子分布であった。このため、英語では軌
道の “orbit” ではなく、“orbital” という用語を使っている。
ところで、古典物理学では、荷電粒子が運動すれば磁場が発生することが知ら
れている。原子内においても、電子が運動しているのであれば磁場が発生するは
ずである。それでは、どうすれば、量子力学のスキームのもとで磁性を取り扱う
ことができるのであろうか。
もちろん、手がかりは古典論の電磁気学である。そして、荷電粒子の角運動量
が磁気モーメントに対応するということから、物理学者たちは、角運動量に対応
する量子力学的演算子を導入したのである。波動関数に、この演算子を作用させ
れば、固有値としてミクロ世界の角運動量が得られるはずである。
その結果、見事に磁場の印加によって原子スペクトルが分裂するゼーマン効果
の説明に成功したのである。これは、演算子と固有値という量子力学的アプロー
チが磁性においても正しかったことを示している。
これで完結すれば簡単であったが、事はそう単純ではなかった。それは、軌道
角運動量だけでは説明のつかない磁気分裂現象が観察されるようになったので
ある。その結果、人類はスピンという新しい角運動量の存在を提案することにな
る。ただし、電子のスピンは誰もみたことがないうえ、それまでの物理量の延長
では考えられないものである。当初は、反対意見も多かった。その先鋒はパウリ
やボーアである。
しかし、スピンの導入によって数多くの現象が矛盾なく説明できることが次第
に明らかとなり、スピンは市民権を得ることになる。そして、反対派のパウリが
スピンに魅せられ、その行列表現や、有名なパウリの排他律の提案に至り、いま
ではスピンの生みの親とさえ言われているのであるから面白い。
ただし、スピンは古典物理学の延長で考えられる物理量ではない。よって、ス
ピン角運動量の定式化も一筋縄ではいかないものであった。それでも、軌道角運
動量の形式を参考にしながら、研究者たちは、なんとかスピン演算子を導入する。
そして、その結果、原子スペクトルの複雑な分裂構造である異常ゼーマン効果
までを説明できるようになったのである。本書では、その過程を詳細に説明して
いる。
スピンは、物理現象を説明するために導入された概念ではあるが、量子力学に
組み込まれた結果、古典物理学では説明のできない強磁性も理解できるようにな
ったのである。強磁性は、2 電子間に働く交換相互作用によって、隣接する電子
間のスピンが平行となる状態が安定化するために生じる現象である。
磁性が量子力学の枠組みに導入された過程を振り返ると、人類の英知を感じず
にはいられない。そして、量子力学の威力にもあらためて気づかされる。ぜひ、
本書を通して、その醍醐味を味わってほしい。
2024 年 秋 著者
村上雅人、飯田和昌、小林忍
版元から一言
「行列力学入門」「波動力学入門」に続き 理工数学シリーズ『量子力学』を締めくくる
量子力学 Ⅲ 磁性入門
本書は、量子力学という武器を手に、物理学者たちが明らかにしたミクロ世界の物語の総仕上げである。
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。