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K-POP原論
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2022年12月1日
- 書店発売日
- 2022年12月1日
- 登録日
- 2022年11月1日
- 最終更新日
- 2025年1月11日
紹介
◎斎藤真理子さん紹介(『隣の国の人々と出会う』創元社、2024.8.31)
《音楽と言語の関係、今という時代にK-POPがなぜ愛されるのかをこんなにスリリングに解き明かした本はほかにありません》
◎「ENCOUNT」2023.8.13-15
《韓国・朝鮮語、ハングル研究の第一人者である野間秀樹・元東京外国語大大学院教授が単行本『K-POP原論』(ハザ刊)を出版し、グローバルな人気を集めているK-POPの魅力を解説している》
◎「北海道新聞」2023.2.21
《女性4人組BLACKPINKを「4人のそれぞれ際立った個性が声になり、多声性が曲に立体感を与えている」と分析する》
◎カツテイクさん書評(「週刊読書人」2023.2.17)
《K-POPは「観る」ことに大きな力点が置かれているからだ。総じて本書は、K-POPを「観る」ガイド本として最良の書であることは間違いない》
◎「信濃毎日新聞」2023.1.21(共同通信社配信)
《韓国語に特徴的な「音節構造」などがもたらす発音の鋭角さ、緊張感が「最強の武器」となり…との分析は、言語学者ならでは》
◎「毎日新聞」2022.11.28
《BTS(防弾少年団)の快進撃が止まらない。いや、彼らだけじゃない。韓国発の歌とダンスに世界が夢中なのだ。その感動の秘密を言語学者、野間秀樹さんが刺激に満ちた新著「K―POP原論」(ハザ)で解き明かした》
BTS、BLACKPINK、MAMAMOO……。なぜ私たちの魂が震えるのか、その感動の秘密へ。『ハングルの誕生』の著者による、至上のK-POP入門!
韓国=朝鮮と日本、双方の血を嗣〔つ〕ぎ、言語学者であり美術家でもある著者が、そして音楽をこよなく愛する著者が、ヒットチャートやお金などの市場の論理からではなく、言語学と美学の視座から、K-POP MV(ミュージック・ビデオ)のことば、こゑ〔コエ〕、音と光、そして身体性をこれでもかとばかりに愉しみ尽くす! しばしば〈Kぽ愛〉も炸裂させつつ、新たなるコレアネスクの世界像たちを満腔の熱き思いで読者と共にする。Kアートの歓喜と喜悦の原理を読み解く、講義形式の評論エッセイ。
K-POP入門への珠玉の動画をYouTubeから厳選! 一瞬で跳べるQRコード150本、巻末にはさらに推薦リスト400本を掲載。
目次
K-POPの歴史地図
はじめに
前奏 これがK-POPだ--〈Kぽ〉入門のために
0-1 まず体験せよ--四本の動画から
0-2 〈Kアート〉--ことばと音と光と身体と
第一講 K-POPはどこに在るのか--なぜYouTubeか、なぜMVか
1-1 K-POP、その刺激体験の領野
1-2 K-POPはTAVnet(タブネット)時代の音楽のかたちだ
1-3 なぜYouTubeの一択なのか
1-4 〈Kアート〉がアートの世界をも変革しつつある
第二講 K-POP MVの世界像―― 詩と像と身体
2-1 それは「世界観」などではない、めくるめく〈世界像〉なのだ
2-2 仮想現実の夢は三・一一で崩壊した、ではK-POPはどうした?
2-3 〈身体性〉という存在のかたちが突き抜ける--ダンスとアンティクス
2-4 カメラは眼から〈チュムる=踊る〉カメラとなった
2-5 プレK-POPからK-POP古典段階へ
2-6 〈こゑ〉とことばとイマージュと身体、鮮烈なる世界像たちが乱舞する
第三講 K-POPのことば―--랩(レプ)とラップの間
3-1 なぜ韓国語のラップは刺さるのか
3-2 オノマトピアとしての韓国語--擬声擬態語のユートピア
3-3 ハングルの夢、漢字のそよぎ
3-4 〈こゑ〉が〈うた〉になる瞬間--言語の存在論
第四講 K-POPの時間--変化を、変化を、もっと変化を
4-1 予定調和を排す--変化という快楽
4-2 色彩の百変化--さあ、これについて来れるか?
4-3 〈新たなるコレアネスク〉の美学--〈こゑ〉と音と光と身体と
第五講 K-POPとはいかなる存在か--ことばと音と光が明滅する
5-1 〈ことば〉性と〈はなし〉性--詩の両極
5-2 象徴詩の断片の集積としてのK-POPの詩
5-3 ことばと音と光の高速のブリコラージュ--〈Kアート〉
5-4 K-POPは滅ぶのか--〈Kアート〉が〈アート〉となるとき
5-5 K-POPが世界で共有されるために
5-6 K-POP、〈いま・ここ〉の喜悦と哀惜
最終楽章 K-POPに、栄光あれ--戦争と最も距離が遠いかたち
参考文献について
おわりに
参考一覧
願望別 推薦MVリスト
人名索引
アーティスト名索引
事項索引
前書きなど
本書はK-POPを〈Kアート〉として愉しみ尽くす本である。
〈アート〉と呼ぶのは、K-POPの作品たちが今日、もはや狭い意味での〈音楽〉としての造形に留まらず、〈声+詩+音+光+身体……〉から成り立つ、優れて総合的な造形となっているからである。
具体的には、YouTube(ユー・チューブ)上のMV(ミュージック・ビデオ)などの動画を中心に、言語と美学の観点からK-POP(ケー・ポップ)をこれでもかとばかりに、共に愉しむ。入門の前段階の方から入門なさった方、またよろしければ、達人の方もどうぞ。
〈アート〉と呼ぶけれども、本書の目指すところは、すました芸術論に閉じこもるのではなく、いわゆるポップ・カルチャーとしてのアートの彼方までしなやかに、そして豊かに開かれている。あんまり大きな声で言うと、𠮟られてしまうので、ここだけの話だが、実はファイン・アート(純粋美術)と呼ばれる分野こそ、しばしばポップ・カルチャーに嫉妬してきたのであった。その嫉妬を公然と形にしたのが、ポップ・アートであった。
芸能論、メディア論、ジャーナリズム論、社会学、経営学、経済学、政治、そして〈推し〉のアーティストへの愛、といった観点からの、K-POPの本やインターネット上のウェブサイトは、世に、もうたくさんある。YouTube 動画の形で語られるK-POP論も、膨大な数が日々発信されている。
例えば、〈絵画〉を語るのに、画家の人生や、画家への愛といった観点、あるいは画商の観点、また美術資本の観点、はたまた政治的、宗教的、社会的な観点などなど、絵画の周辺の様々な観点から語ることもできるけれども、絵画作品そのものについて語ることも、当然あって良い。というより、むしろ絵画の周辺をいくら語っても、絵画そのものを見たことにはならない。K-POPも同様である。
本書はお金や集計表だけでK-POPを見る本ではない。
ましてやしばしば遭遇する、何かと言うと、「韓国はぁ」とか「日本はぁ」などといった「国」を振り回す、〈隠れ国家主義イデオロギー〉に染まりきった語りとも、無縁である。
「K-POPは国家主導で繁栄した」とか、「K-POPは政府のてこ入れがあったから成功した」などという言説も、この〈隠れ国家主義イデオロギー〉の一変種である。アートのリアルを知らない、ほとんど一顧だにする価値もない言説なのだが、念のために一言だけ言っておこう――国家は詞を書いてくれたりしないし、曲を作ってくれもしない。ファンとの交流に心を砕いたりもしてくれない。国家は歌えないし、踊れないのである。「会議」なら踊るかもしれないが。
「K-POPは金をかけて作っているから」といった言説も、一見正しそうに見えて、実は大切なところを見失う。何よりもK-POPが胎動しようとしていたとき、韓国では皆、豊かではなかった。一九九七年のいわゆるIMF危機では国家さえもいわば破産していたのである。産みの苦しみは尋常ではなかった。始まりを見据えることができなければ、現在も、未来も、見切れない。
ついでに言えば、「ファン戦争」や「ディスり合い」などと呼ばれる事態も、実のところ、ファンダムを利用した、資本主義的搾取の地雷原である。本書はこれもお断りだ。
本書は絵画論に喩えるなら、 絵画そのものを見る本、つまりアーティストたちやクリエイターたちが心血を注いで造り上げたK- POP作品を貴とび、そのど真ん中を愉しむ本である。この点で既存の多くの言説と大きく異なる。
K-POP MVをアートとして見据えるための視座は、次の二つに要約できる:
(1)言語学的な視座
(2) 美学的な視座
K-POP MVをアートとして見据えるということについては、第一講で触れる。最初に、「言語と美学」と書いたけれども、実のところ「言語」と「美学」は「と」という助詞を用いて、同じ平面で並列できるような概念ではない。本当は(1)と(2)にも見えるように、「言語学と美学」くらいに呼ぶ方が落ち着く。しかしいきなり「言語学と美学」と書かなかったのは、たとえば中学生や高校生の方々にも、ぜひ気軽に本書を開いていただきたいという、願いからである。
「言語学とか美学ってのは何?」などという悩みはまずここで粉砕しておこう。「言語学」は〈言語、ことばについての学問、思想〉である。一例として、〈なぜ韓国語のラップは刺さるのか〉といった問いを解く重要な秘密が、 言語そのものに隠されていることなども、 言語学によって明らかになる。
「美学」はここではごく柔らかに〈アートについての哲学、思想〉程度に思っていただければよい。ことばと声、音と光と身体に及ぶその美学の内実は、それぞれの〈Kアート〉と向き合うことによって、さらに具体的に明らかになってくる。このあたりは、本書のいわばサビかもしれない。
読み進めていただければ、今日のファンタジー論やゲーム論や文学論などで時に出会う難解な書物よりは、はるかに易しく、そして優しく、書いてあることが、解るだろう。
恐縮だが、稀に、思わずK-POP愛が炸裂してしまって、筆が迸ほとばしってしまうかもしれない。そうした場合に、とりわけ〈推し〉への思いを日々抱いておられる方々であれば、思わず弾はじけてしまった筆も、「よしよし、愛うい奴じゃ」と、お心広く、お許しくださるに違いない。
いろいろな分野にわたって言及するので、読者の方々それぞれの関心の方向によっては、見慣れない分野や時代の事項に触れることにもなろう。そんなときは、一々ネットで検索などせずとも、読みながらその場で解決できるよう、丁寧に注を付している。
また、本書は既存の多くの読書体験と異なるだろう。それは:
QRコードによって希望する動画へ、一瞬で跳べる
からである。QRコードをスマートフォンにかざせばOKだ。読み進めながら、どんどん動画へと散歩していただいて構わない。ふと思い出したときに、本書へと立ち戻ってくださればよい。しばしば動画から本書へ戻れなくなるかもしれないけれども。なお、MVは可能な限り、大きな画面でご覧になることを、お薦めする。今日のMVはそうした造りになっている。本文で言及し、QRコードでリンクを示したMVは、一五〇本である。
巻頭には全体像を視覚的に把握できるよう、〈歴史地図〉を付した。本書には、K-POP が全く初めての方のために、〈前奏〉という名の、ごく短い章をイントロとして付してある。巻末に、本文で言及しきれなかったMVなどを、読者の方々の関心別に〈願望別MVリスト〉として分類し、四〇〇本ほどのタイトルを収録した。それらとは別に、詳細な索引類を装塡していることは、言うまでもない。
気がついたら、K- POPだけでなく、言語学や美学の愉しみの門にも、ちょっとだけ足を踏み入れているかもしれない。
「中学生や高校生の方々」と書いたが、もちろん人生の達人の方々こそ大歓迎である。なぜK-POPが世界で共感されているのか、齢よわいを重ねた方々には、それこそ、ご自分の音楽体験史、アート体験史と照らし合わせながら、じわじわーっとお解りいただけよう。そして人生の新たな友に出会うことにもなろう。
かくして、K-POP入門以前の方も、入門して間もない方も、いわゆる〈沼落ち〉なさって、どっぷりはまっておられる方も、そして既にご卒業なさった方も、きっと新たな視点で、K-POPに心をときめかせることができると、信ずる。
声とことばと音と光、そして身体が織りなす、至福なるK-POPの宇宙で、地球上が平和であって、言語や美の歓びを慈いつくしみながら、胸も高鳴るような幸せが、読者の方々に満ち溢れんことを。
上記内容は本書刊行時のものです。