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少女人身売買と性被害
「強制売春させられるネパールとインドの少女たち」その痛みと回復の試み
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年6月7日
- 書店発売日
- 2024年6月7日
- 登録日
- 2024年5月16日
- 最終更新日
- 2024年8月30日
書評掲載情報
2024-08-25 |
読売新聞
朝刊 評者: 野口恵里香 |
2024-07-01 |
ウィメンズアクションネットワーク
評者: 遠藤織枝(元文教大学教授) |
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重版情報
2刷 | 出来予定日: 2024-08-30 |
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読売新聞に掲載されましたが、信濃毎日、女のしんぶんなど今後も書評が続々と掲載されます。 |
紹介
ネパールだけで、年間7千人もの女性がインドの性産業に人身売買されている。10代で見知らぬ男の相手をさせられる性被害の極致。生き地獄のような日々のなか、心身を病んでいく女性たちがいる。貧困と女性差別を背景とした被害は後を絶たず、コロナ後、被害者は増加傾向にある。認定NPOの代表として、取材者として30年近く問題に向き合ってきた著者が、長期間の取材をまとめた。日本・インド・ネパールの国際NPO・NGOの連携によって見えてきた、心と体に深刻な傷を負った女性たちの売春宿からの救出と回復へ向けたケア、被害予防の試みと必死に生き抜く女性たちの姿をルポ。第7回新潮ドキュメント賞受賞作『少女売買 インドに売られたネパールの少女たち』のその後と16年後に見えてきた、自立へ向けた希望の光を記す。
章構成
第1章 人身売買被害者を救うために
第2章 インドの売春宿、その歴史と現状
第3章 救出された少女たちの社会復帰
第4章 保護されても救われなかった女性たち
第5章 コロナ禍と人身売買
第6章 エカトラ・新しい回復のプロジェクト
おもな登場人物一覧
アヌラダ……インドの売春宿から救出された人身売買被害者を一時的に保護する「マイティ・ネパール」を立ち上げ、活動を始める。被害者の精神的なケアをはじめ、学校教育や職業教育など、女性が自立するための支援活動も行っている。
トリベニ……インドのNGO「レスキュー・ファンデーション」代表。売春宿から少女たちを救出し、心身のケア、学校の基礎教育や職業教育を通じて、被害者を社会に帰す活動を行っている。2020年に被害者同士が支え合うエカトラ・プロジェクトを立ち上げ、大きな成果を上げている。
ビマラ……救出後は意思の疎通や日常生活もままならなかったが、「慈しみの家」のケアで徐々に回復する。
サリタ……幼い頃に父親が亡くなり、母親が再婚。継父との折り合いが悪く17歳で家を出るが、騙されて人身売買の被害に。救出された後に努力を重ね、大きな幸せをつかむ。
チャンヌー……12歳で人身売買被害にあう。心を閉ざし続けてきたが、著者と出会って10年目に本心を告白。聡明で容姿にも恵まれ、日本での講演に招かれるほど回復するが、その後、思わぬ転落が。
アプサラ……父親のわからない娘を17歳で出産。当初は娘をその腕に抱くことさえ拒絶したが、幼い命が消えかかったとき、初めて内なる母の愛に気付く。しかし、母娘の絆はもろく、あるとき、切れかけてしまう。
アーシャ……アプサラの娘。幼い頃は母親にべったりだったが、9歳のとき、母親の結婚を機に離れ離れに。それが原因となって負の連鎖を生むことに。
ラダ……母親に売られ、3年間売春宿で働かされる。レスキュー・ファンデーションに救出された後、リハビリ・プログラムを受けて職業訓練の講師に。現在はエカトラ・プロジェクトのスーパーバイザーとして活躍。
プリヤ……竹と藁で造った家で貧しい暮らしを送る。勉強好きの少女だったが、12歳のとき、叔母により売春宿に売られた。レスキュー・ファンデーションによって救出された後、リハビリ・プログラムを受けて一般の学校に入学。現在は大学進学を目指しながら、エカトラ・プロジェクトのトレーナーとして活躍。
マンジュ…14歳で児童婚を強いられた後、人身売買の被害に。ネパール出身だが、つらいい思い出しかない母国への帰還を拒み、レスキュー・ファンデーションのスタッフとして活躍。
目次
はじめに
第1章 人身売買被害者を救うために
第2章 インドの売春宿、その歴史と現状
第3章 救出された少女たちの社会復帰
第4章 保護されても救われなかった女性たち
第5章 コロナ禍と人身売買
第6章 エカトラ・新しい回復のプロジェクト
おわりに
前書きなど
はじめに
人間を物のように売り買いする――。そんな非人道的な取引が、今も世界中で行われている。UNDOC(国連薬物事務所)の報告によれば、2016年時点で被害者の数はおよそ4030万人。そのうちの25%を子どもが占め、全体の約半分がアジア地域に集中しているといわれている。
南アジアの内陸の小国ネパールも人身売買が盛んな地だ。
ILOによる2001年の調査によれば、毎年約1万2000人のネパール人女性が、隣国インドへ人身売買されている。彼女たちが売られていく先は、ムンバイ、プネー、デリー、コルカタなどの大都市にある、約3000軒ともいわれる売春宿だ。被害者の多くは18歳以下の未成年で、7歳や9歳といった幼い子どもが売られていくことも稀ではない。
ターゲットとされるのは、十分な教育を受けていない貧しい家庭の娘たちだ。トラフィッカーと呼ばれる周旋人が、仕事の斡旋を口実に連れ去るというのが常套手段である。年頃の娘を甘い言葉で誘惑し、「インドに遊びに行こう」などとデートに誘うというのも多く見られる手口だ。
売春宿が女の子を買う値段は、数万~数十万ルピー(約数万~数十万円※1ルピー1円、1インドルピー1・6円で換算。ラリグラス活動期間の為替水準が1ルピー1円前後の時代が長かったためそのレートで換算した・以下同)に過ぎない。ネパールの最低賃金が1万7300ルピー、大卒初任給が3万~5万ルピーとされるなか、わずか1カ月分の給料程度で人ひとりが売買されているのだ。
一旦、売られてしまえば逃れる術はなく、不衛生な小部屋に軟禁され、客が来れば真夜中でも夜明け前でも相手をさせられることになる。
1日に何十人もの客をとっても、少女たちの手には1ルピーも入らない。与えられるのは粗末な食事と数枚の衣類、安物のメイク道具だけだ。そしてHIV/AIDSや結核、B型肝炎といった感染性の病気にかかるか、客がつきそうにもない年齢になるまで酷使されることになる。
今この瞬間も、ネパールの少女がインドへと売られている。せっかく救出されても、今度は自発的に売春宿へと戻ってしまう女性も少なくない。そうしたなかで、もっとも自分たちの非力を感じるのは、マイティやRFで心身のケアを受けた後、新たな人生を歩み出していたはずの元被害者が、真には救済されていなかったという事実を突き付けられたときだ。
2007年、南アジアの人身売買問題について、私は『少女売買~インドに売られたネパールの少女たち』(光文社知恵の森文庫刊)という本を書いた。そこに登場するチャンヌーとアプサラは、マイティでリハビリ・プログラムを受けた後、未来に向けて確かに歩み始めていた。しかしその後、彼女たちは自らの手で、先へと続く道を閉ざしてしまったのだ。
今、胸に去来するのは、これまで続けてきた私たちの活動は、十分ではなかったのではないかという思いだ。売春宿に売られた少女たちは、「魂の殺人」といわれる性暴力の被害者である。彼女たちが受けた心の傷は、私たちが想像するよりずっと深く、癒えるまでに長い時間がかかるということ。もしかすると、完全に癒えることはないのかもしれないということ。そうした事実を私たちは、根底のところで理解し切れていなかったのではないかと思うのだ。
そんな後悔と反省を抱えるなかにありながらも、私は今、希望の灯を感じている。コロナ禍の混乱のなかで苦肉の策として生まれた新しいプロジェクトが確かな効果を上げ、これからの私たちが進むべき道を示唆してくれていると感じているのだ。
本書に、2007年以降のチャンヌーとアプサラについても記した。彼女たちの足跡を追うことは、南アジアの人身売買問題そのものを追い求めることにつながると思ったからだ。
また、最新の人身売買の実情や被害者を取り巻く社会状況、心の回復のプロセスや試みについてもレポートすることにした。
そしてそれらをもとに、私たちはもう一度、考えなくてはならない。
なぜ、人身売買問題は解決しないのか。
性暴力被害者を真に救済するにはどうすればいのか。
本書を通して、その答えに一歩でも多く近づくことができればと願っている。
版元から一言
アジアでは、いまだに地獄のような人身売買被害に10代の少女たちがさらされています。しかもその被害は増加傾向にあるのです。
貧困と女性差別を背景としたその被害は、救おうと思えば救えるものです。
国際NPOとNGOの連携によってその試みがなされています。
また、心と体に傷を負った女性たちへのケアと回復のプロジェクトは注目に値するものです。
性被害の極致のさなかにある女性たちの実態を知ってほしいと考え、出版します。
上記内容は本書刊行時のものです。