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オーナー社長のための事業承継
まちの会社を次世代へ。今から始める承継準備
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年10月20日
- 書店発売日
- 2025年10月20日
- 登録日
- 2025年9月10日
- 最終更新日
- 2025年10月20日
紹介
――親族内承継のリアルと実務を徹底解説――
地域に根ざす名店や企業が、後継者不在によって次々と姿を消しています。経営者の高齢化が進み、親族に承継を望む声は多い一方で、実現できるのはわずか3割程度。継がせたいのに、なぜ継がせられないのか? 現場のリアルな事例から、親族内承継を成功に導くための方法を明らかにします。
本書は、相続・保険・事業再生の現場を長年支えてきた2人の中小企業診断士が、親族内承継に特化してまとめた実務書です。制度論にとどまらず、成功と失敗の実例をもとに、「経営者視点・後継者視点で考える事業承継の勘所」、「後継者育成の方法」、経営者自身の「その後の人生設計」、「支援者の関わり方」まで、実践的な視点で解説します。
「うちの会社は大丈夫」と思っている方ほど危険です。承継準備の遅れは廃業を招き、地域の雇用と誇りを失わせかねません。本書を通じて、一社でも多くの企業が円滑に世代交代を果たし、経営者も後継者も、そして地域も幸せになれる承継の道を考えていただければ幸いです。
※親族内承継を具体的に進めるうえで参考となる「事業承継検討シート」と「事業承継計画書」のひな型をダウンロードできる特典も魅力です。
目次
オーナー社長のための事業承継 目次
●はじめに
消えゆく地域の名店とその背景
事業承継のリアルな現場から
誰のための本か?
親族内承継に特化した内容
経営者の「その後」の人生を考える
相続、保険、事業再生の目線も活かして
●プロローグ
親族内承継を改めて考えるとき
親族内承継は時代遅れなのか
親族内承継が実現しない理由
事業承継とは、経営者が一番幸せになる道を選ぶこと
兵庫県は日本の縮図──地域企業のリアルと承継支援の最前
同じ県内でも地域性の違いに驚かされる
多様性に満ちた兵庫県 26 地方の中小企業の存続が地方創生につながる
それでも、親族内承継が最も幸せなバトンタッチだと信じて
●第1章 事業承継の現状とこの本の主旨、結論 尾形吉通
1 事業承継の現状
後継者難倒産が過去最多
経営者の平均年齢が過去最高
休廃業を決意するのは72歳?
70歳を迎える社長の半分は後継者不在
事業承継に必要な時間は5年?
M&Aが増えている
事業承継の遅れとは地域が失われること
2 3つの事業承継
親族内承継
従業員承継
M&A
3 なぜ事業承継は進まないのか
心情的な要素が強い
相談相手がいない
4 この本で伝えたいこと
時間の重要性
理解のある第三者支援の必要性
経営者こそが幸せになる事業承継の考え方
●第2章 親族内承継の全体像 尾形吉通
1 親族内承継に必要な時間
「平均5年」は意識しない
事業承継を因数分解する
2「ヒト」の承継
現経営者
後継者
権限移譲
関係各位
レスキュータイム
3 「モノ」の承継
機材、設備
土地、建物
商品・サービス
4 「カネ」の承継
自社株問題
解決に時間のかかるお金の問題
経営者保証
5 「ネタ(情報)」の承継
経営理念
技術と風土
知的資産経営
6 事業承継計画
●第3章 経営者視点で考える事業承継 冨松誠
1 社長にしか言えないこと
今の会社は社長の人間関係に依存している
2 社長が整理すべき3種類の関係者
事業に深く関わってきた親族
ベテラン従業員
懇意にしている取引先
3 社長が譲歩すべきこと
時期──まだ早いという心を捨てる
能力──後継者を頼りないと思う心を捨てる
意見──後継者の意見に従う
4 引退ではなく進学と捉えること
引退後も人生は続く
多くの経営者にとってライフワークの喪失を意味する
次が見えていなければ躊躇するのが当たり前
早く引退したい社長と会社に依存する社長
引退を進学に変える
先輩経営者から進学先を考えてみる
後継者は「事業承継計画」、社長は「進学計画」
●第4章 後継者視点で考える事業承継 尾形吉通
1 事業承継は「守破離」の順で
守破離とは
「守」守るべき時期
「破」破ることで周囲に経営者として認められる
「離」やりたいことを実現する
2 先代経営者とのコミュニケーション
経営者である前に親である
宿題はお互いに出し合う
3 次世代組織の構築準備
組織の承継は同時進行で進める
4 経営者になるための準備
数字を丁寧に扱う
各部署、各現場を知る
取引先との付き合い方
地元経営者との関係づくり
同業者、競合先
地域の同業者との関係構築がもつ、もうひとつの意味
5 それぞれの後継者視点から見る事業承継
子が継いだ場合
配偶者が継いだ場合
姻族(婿、嫁)が継いだ場合
従業員が継いだ場合
●第5章 承継後から先代の完全引退まで 冨松誠
1 先代が完全に引退するまでに先代社長がやるべきこと
影響力を消していく
新社長からの相談に乗る
2 先代社長の相続対策
一族で取り組むべき課題
影響力のあるうちに話しておく
いつ言うか、誰が言うかが大事
制度は心までケアできない
時間のかかるものから対策する
子どもたちの理解のうえに遺言書をまとめる
3 先代が完全に引退するまでに新社長がやるべきこと
自身が矢面に立つ覚悟を
基本的な経営の流れは「考えて、やってみて、振り返る」
現実逃避を避けるための知恵
●第6章 各章の検討シート
1 第1章の検討 現経営者が考えるべき事業承継の全体像
事業承継までの見込みを知る
2 第2章の検討 現経営者が考えるべき親族内承継の全体像
事業承継すべき項目を知る
3 第3章の検討 現経営者が対応すべきこと
整理すべき関係者
後継者を正しく評価する
承継後のライフプラン
4 第4章の検討 後継者が対応すべきこと
後継者期間のステージ
次世代組織の構築準備
経営者になるための準備
5 第5章の検討 現経営者から引き継ぎ後、先代社長の完全引退まで
先代社長がやるべきこと
●エピローグ
財布は救えても心は救えない
感謝の声が独立への勇気に
親族内承継に至る道
保険に一番詳しい経営コンサルタントが、保険を売らない立場から
事業再生から事業承継の道へ
現場に寄り添う支援のかたち
支援者の皆様へ
●おわりに
本書を書くに至った経緯
残酷な淘汰の時代
勝ち抜き企業がすべてを得る ~変化の時代をチャンスに変える5つの力~
我々の今後の活動
最後に
前書きなど
(はじめに)
消えゆく地域の名店とその背景
どの地域にも、誰もが知る名店や逸品があるものです。地元の人なら、名前を聞くだけで「ああ、あのお店(あの商品)ね」と年代を問わずに通じる。私の住む神戸市にも「神戸ノート」と呼ばれる文房具があります。当時から子どもたちが一度は使った経験のあるノートで、私は長らく全国でも当然のように流通していると勘違いしていました。今は私の子どもたちが手に取る番になっており、懐かしさを感じています。
そんな地域ならではの存在があるからこそ、進学や就職で地元を離れたとき、同郷の人とお店や商品の名前を話題にするだけで一気に親近感がわき、「懐かしいなぁ」とローカルネタで盛り上がることができるものです。
しかし、こうしたお店や商品は、全国各地で静かに姿を消しつつあります。後継者がいないために廃業を選ばざるを得ないケースが増えているのです。
ふと思い返してみてください。昔よく通ったラーメン屋さんは今も存在しているでしょうか。愛用していた文房具は今も製造されているでしょうか。
私が仕事でよく訪ねる兵庫県加東市の商店街に「ことぶき」というラーメン屋さんがありました。50年以上にわたり地域に愛されてきた名店で、「播州ブラック」と呼ばれる中華そばが名物でした。播州ブラックとは、加東市を含む北播磨地域のご当地グルメ「播州ラーメン」のいわゆる進化系です。播州織の工場に集団就職した女性たちのために生まれた播州ラーメンを発展させた一杯で、真っ黒なしょうゆスープが特徴です。地元の人たちからはソウルフードとして親しまれてきました。
そんな播州ブラックですが、残念ながらもう食べることはできません。2022年にことぶきが閉店してしまったからです。店主の高齢がその理由でした。仕事でお世話になっている加東市の方は、「いつの間にか廃業していて残念です」としみじみ語っていました。
こうした話は全国各地で起きていることだと思います。気づかないうちに、いつの間にか姿を消してしまったものが、ほかにもたくさんあるはずです。
事業承継のリアルな現場から
日本の中小零細企業は、日本経済の屋台骨を支える存在でありながら深刻な事業承継問題に直面しています。経営者の平均年齢は年々上昇し、後継者不在による「休廃業」が増加の一途をたどっています。とりわけ地方においては、ひとつの企業の廃業が、その地域の雇用や産業、ひいては経済全体に与える影響は計り知れません。その企業が生み出す商品が、地元の人たちにとっての誇りであり自慢の逸品であった場合、その喪失は経済的な損失にとどまらず、地域の誇りやアイデンティティまでをも失わせるおそれすらあります。
ちなみに前述の播州ブラック、本書を執筆中に復活の動きがありました。地元の加東市の製麺業者「遠藤コンス」が5年かけて再現し、商品化したのです。たとえ店舗は閉じたとしても、志を受け継ぐ事業者が現れることで、地域に根ざした味や文化がかたちを変えて残り続ける。本書がお伝えする事業承継の姿とはまた異なりますが、地元の味を守ろうとするその動きから、地域に愛された名店や逸品が失われる重みを私たちに教えてくれているようです。なお遠藤コンスさんは以前に何度か関わらせていただく機会がありました。ご活躍の一報に触れて嬉しく思います。
経営者の高齢化や後継者不足による理由以外にも、後継者がいながらも承継がうまくいかずに事業が行き詰まるケースは珍しくありません。適切な準備をおこなわなければ、後継者とは名ばかりで現在の仕事もままならない事態に陥ります。
「うちの会社は大丈夫」。そう思っている経営者の方、後継者の方ほど、危険です。
本書は、そんな「継がせる側」と「継ぐ側」の双方の現場に日々立ち会い、事業承継のさまざまな課題とリアルに向き合ってきた私たちの経験と知見をもとに、机上の空論ではなく「実務に役立つ」情報をまとめた一冊です。
単なる制度やあるべき論ではなく、実際にどのようなステップを踏めばスムーズな承継が可能か、どのような準備をしておけば会社の存続を確実なものにできるか、具体的な事例を交えながら解説しています。
誰のための本か?
本書では、ご子息ご息女や、親族の中に将来的な経営の担い手となりうる方がいらっしゃる企業を主な対象に、「現経営者」と「後継者」の両者にとって知っておくべき内容や、それぞれの立場からどう考え動くべきかについて具体的にお伝えします。
さらに地域の金融機関、商工会議所、行政機関などの「支援者」にとっても有益な内容となるよう意識しています。中小企業の事業承継は会社内部だけの問題ではなく、地域経済の持続にも深く関わっているからです。事業承継の現場では、支援者の適切なアドバイスや包括的な支援体制の構築が求められています。
本書を通じて、支援者が現場でどう関与し、経営者とともに課題をどう乗り越えていくべきかの指針も提供しています。
なお、本書で取り上げている事例の多くは、兵庫県をはじめとする地方の中小企業です。本文の中で登場する会社のエピソードはもちろん、各章の冒頭と末尾に掲載している「失敗事例」「成功事例」も私たちが実際に関わった経験をもとにした実例(内容は抽象化しています)となっています。
都市部とは異なる経営環境の中で、地域に根ざした会社がどのように事業承継を進めていくべきか――地方企業ならではの視点も交えながら解説しています。地方経済の発展に貢献することが、本書の目的のひとつです。
親族内承継に特化した内容
本書では、事業承継の中でも「親族内承継」に特化し、その際に生じやすい特有の課題や対策について詳しく掘り下げています。
親族内承継は、日本において最も多く選択されてきた承継のかたちとされる一方で、感情や財産の問題が関わるため、計画的かつ慎重な準備が欠かせません。円滑な親族内承継を実現するための具体的なステップを、成功事例や失敗事例を交えながら解説します。
経営者の「その後」の人生を考える
事業承継の議論は、とかく後継者への引き継ぎに焦点が当てられがちです。しかし、その過程で経営者の人生そのものが見落とされてはいないでしょうか。
事業承継の段階では、単に「会社をどう引き継がせるか」だけでなく、「経営者自身の次の人生をどう描くか」も重要です。
会社の存続を第一に考えるのは当然ですが、経営者の人生は引退後も続いていきます。これまで築いてきた会社に代わる新しいライフプランがなければ、引退後に虚無感を抱いたり、地域社会での役割を見失ったりすることもあるでしょう。
そのため、事業承継の準備と並行して、経営者自身の新たな人生設計を考えることが不可欠です。
本書では、承継後の経営者が自らの新たな役割をどう見出し、地域社会や後継者とどのように関わっていけばいいのかについても具体的に提案しています。会社を次代につなげるだけでなく、経営者自身の未来も見据えた事業承継のあり方をともに考えていきましょう。
相続、保険、事業再生の目線も活かして
なお本書は、相続や保険の現場から経営者に寄り添ってきた尾形吉通氏と、事業再生の現場から多くの中小企業を支援してきた私、冨松誠の2名による共著です。異なるフィールドで経営者と真正面から対峙し、今その経験をもとに親族内承継の支援に携わる私たちだからこそお伝えできることがある、そんな思いのもとに執筆しました。
事業承継支援は、支援者自身の経験や人柄をも試される俗人的な営みでもあります。そのため経営者やご家族、関係者の皆さんとの信頼関係が重要になります。本書では、プロローグとエピローグの双方に私たちそれぞれのメッセージを掲載し、各章の原稿についても執筆者がわかるよう明示しました。経営者に伴走する立場としての私たち自身についても、少しでも知っていただければ幸いです。
本書を通じて、一社でも多くの企業が円滑な事業承継を実現し、地域の未来へと歩みを進めていけることを、心より願っています。
上記内容は本書刊行時のものです。