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人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか
拡大する世界と〈地〉の物語
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年8月31日
- 書店発売日
- 2022年9月9日
- 登録日
- 2022年7月27日
- 最終更新日
- 2022年9月8日
紹介
神話は、社会に生きる一人一人が記憶を承け継ぐために、異なる層/相で紡がれ続ける。生まれた時代、ジェンダー、ナショナリティ、「人種」、政治的立場が異なっても、人は自らの現在の生と、自らが生まれ育った〈地〉を、それぞれの「神話」を通して記憶のなかで結び合わせている――。
いままで語られてきた「神話」は何を伝えうるのか。
あるいは、今、新たにどのような「神話」が求められるのか。
思考の枠組みの変化・生成を促すものとして「神話」言説が果たす役割を明らかにし、権威化と相対化を繰り返しながら変化をつづける、「神話」の実相を追究する。それはまさにいま現在の、現実の問題である。
本書は、さまざまな相貌を見せる神話〈ミュトス〉という言葉をとらえるために、
以下の3部立てで構成される。それぞれの部で中心となるキーワードも挙げる。
▼第Ⅰ部 ヨーロッパ社会における「知」の体系化――言葉で紡ぐ〈地〉
【キーワード】キリスト教、ウェルギリウス、聖書、西洋古典文学、体育、J・C・F
・グーツムーツ、植物学、ハインリッヒ・マルツェル、ギリシア哲学、プラトン、木村鷹太郎
▼第Ⅱ部 日本における「神話」の拡大――〈地〉の物語を編む
【キーワード】平田篤胤、神道、古事記、本田親徳、児島高徳、神武天皇、橿原宮、総力戦体制、日本の神話学、植民地
▼第Ⅲ部 「新」世界とせめぎあう近代知――〈地〉の記憶をまとう
【キーワード】探検家、博物学、ゲオルク・フォルスター、アレクサンダー・フォン・フンボルト、エルンスト・ヘッケル、アトランティス、レムリア、ムー大陸、マヤ神話、ポポル・ヴフ、ブラック・パンサー、マーベル・コミック、黒人
本書は、古代のギリシア哲学やキリスト教世界、総力戦体制下の近代日本、マヤ文明やムー大陸、マーベルコミックやその映画などの21世紀のポップカルチャーにいたるまで、扱う時代や地域、専門の異なる十六本の多彩な論考から、この問いへの応答を試みる。
執筆は、清川祥恵/南郷晃子/植 朗子/野谷啓二/上月翔太/田口武史/里中俊介/山下久夫/斎藤英喜/藤巻和宏/鈴木正崇/平藤喜久子/横道 誠/庄子大亮/José Luis Escalona Victoria/鋤柄史子。
【ミュトスは、必ずしも神の業や英雄の活躍を正典という形で語るものではなくとも、社会に生きる一人一人が記憶を承け、また継ぐために、異なる層/相で紡がれ続けている。二〇世紀の知識人がウェルギリウスを読むことと、二一世紀の子どもたちがマーベル映画を観ることに、直接的な関連性を見いだすのは牽強附会だと感じる声もあるかもしれない。しかし、生まれた時代、ジェンダー、ナショナリティ、「人種」、政治的立場が異なっても、人は自らの現在の生と、自らの揺籃としての〈地〉を、それぞれの「神話」を通して記憶のなかで結び合わせている。そして、ゆえに、画一的な唯一のミュトスは、人々自身が語り続けるかぎりは、決して存在しえない。人々は無数の語りを通して、語られなかったことの背後に、語る力を持たない者、語りを奪われた者の言葉をも聞くことができるのである。本書が「神話」に投じた光が、そのプロパガンダとしての側面を改めて照らし出すと同時に、抵抗の言説としての側面もまた反照していることを祈りたい。】…はじめにより
目次
はじめに――「人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか」総論
◆ 清川 祥恵
一 神話をめぐる眼差し
二 本書の目的
三 本書の構成
Ⅰ ヨーロッパ社会における「知」の体系化――言葉で紡ぐ〈地〉
第1章 真理は西へと向かう――古典古代とキリスト教世界の結節点に立つウェルギリウス
◆野谷 啓二
一 はじめに
二 神話――「大きな物語」の喪失?
三 「大きな物語」としてのキリスト教
四 Westward Ho!――「西行き」の正統性
五 異教徒であるウェルギリウスがなぜ評価されるのか
六 おわりに
第2章 統合される複数の伝統――聖書叙事詩の成立と展開
◆上月 翔太
一 「賢者の言葉」としての叙事詩
二 聖書叙事詩の成立
三 聖書叙事詩の展開
四 終わりに
第3章 近代市民の身体をめぐる神話――J・C・F・ グーツムーツの「体育」におけるゲルマンとギリシア
◆田口 武史
一 はじめに
二 人類の共通項としてのスポーツ
三 近代の産物としてのスポーツ
四 汎愛学校における身体活動
五 ゲルマンに対する警戒――身体の啓蒙
六 理想としての古代ギリシア――体育を/が生み出すユートピア
七 結語
第4章 近代植物学に生きつづける神話・伝承文学――二〇世紀ドイツの植物学者ハインリッヒ・マルツェルを中心に
◆植 朗子
一 はじめに
二 植物研究の観点と植物をめぐる神話的物語・迷信の記録
三 近代植物学と植物民俗学
四 植物民俗学における植物伝承記述の問題点
五 植物にまつわる神話伝承に対するマルツェルの視点
六 植物にまつわる神話的物語の事例「オオバコ」
七 科学的な植物書の神話的記述に対する懸念
八 おわりに
第5章 木村鷹太郎とプラトンの神話――「日本主義者プラトン」の発見と翻訳
◆里中 俊介
一 はじめに
二 木村鷹太郎と日本主義
三 日本主義と古代ギリシア
四 『プラトーン全集』と日本主義
五 おわりに
Ⅱ 日本における「神話」の拡大――〈地〉の物語を編む
第6章 平田篤胤の「神話の眼」
◆ 山下 久夫
一 はじめに
二 「神話の眼」を鍛える
三 神話空間の幻出
四 「地域神話」創造の可能性
五 「幽冥界」への入り口を重視
六 おわりに
第7章 近代異端神道と『古事記』――本田親徳を起点として
◆ 斎藤 英喜
一 はじめに
二 本田親徳とはだれか
三 「神懸」の神法を求めて
四 『難古事記』と「帰神ノ法」
五 アメノミナカヌシをめぐる神学の系譜から
六 産土神――明治神社体制のなかで
七 おわりに
第8章 児島高徳の蓑姿――「近代」津山における歴史/物語の葛藤
◆ 南郷 晃子
一 はじめに
二 祀られる児島高徳
三 『院庄作楽香』
四 児島高徳の姿
五 蓑と児島高徳
六 おわりに
第9章 紀元二六〇〇年の神武天皇――橿原の〈地の記憶〉と聖地の変貌
◆ 藤巻 和宏
一 はじめに
二 神武天皇と始祖意識
三 紀元二六〇〇年の橿原神宮
四 宮司菟田茂丸の構想――『古語拾遺』と三種の神器
五 菟田構想の波及
六 おわりに
第10章 「近代神話」と総力戦体制
◆ 鈴木 正崇
一 「近代神話」とは何か
二 神話研究の展開
三 日本型ファシズムの時代へ
四 皇統神話(一八六七~一九四五)
五 南朝神話(一八七二~一九四五)
六 民族神話(一九三七~一九四五)
七 「民族神話」の実践
八 「民族神話」と南進
九 「稲作神話」(一九四二~戦後)
一〇 大嘗祭と「稲作神話」
一一 大嘗祭と「もう一つの稲作神話」
一二 「稲作神話」の戦後
一三 結論
第11章 近代日本の神話学と植民地へのまなざし
◆ 平藤 喜久子
一 はじめに
二 日本神話に内在する国意識
三 日本における神話学のはじまりと植民地主義
四 神話学と植民地へのまなざし
五 おわりに
Ⅲ 「新」世界とせめぎあう近代知――〈地〉の記憶をまとう
第12章 それぞれの神話を生きること――ゲオルク・フォルスター、アレクサンダー・フォン・フンボルト、エルンスト・ヘッケルの「統一と多様性」の思想
◆ 横道 誠
一 はじめに
二 ゲオルク・フォルスター
三 アレクサンダー・フォン・フンボルト
四 エルンスト・ヘッケル
五 おわりに
第13章 世界認識の拡大と「失われた大陸」――アトランティスからレムリア、ムー大陸へ
◆ 庄子 大亮
一 はじめに
二 「失われた大陸」の浮上
三 神話と事実
四 近代的な起源神話
五 おわりに
第14章 マヤ神話を仕立てる――一九世紀における新大陸文明の断片と認識論的転回
◆ ホセ・ルイス・エスカロナ・ビクトリア[訳 清川 祥恵/翻訳協力 鋤柄 史子]
一 イントロダクション
二 熱帯雨林からの像と言葉
三 偶像から神話へ
四 結論
第15章 翻訳が生んだ『ポポル・ヴフ』――近代的解釈と日本におけるその変容
◆ 鋤柄 史子
一 はじめに
二 写本と活字――限定された語りの空間
三 口承からテクストへ――ナラティヴの変容
四 近代日本における解釈
五 おわりに
第16章 夜を生きるパンサーの子ら――映画『ブラックパンサー』における「神話」と「黒人の生」
◆ 清川 祥恵
一 序
二 ブラックパンサーの誕生
三 「起源」の神話――「アフリカ」の表象
四 「変身」の神話――祖先との合流?
五 「故郷」の神話――夢想のジレンマ
六 二一世紀の神話における黒人性
七 結論
あとがき
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上記内容は本書刊行時のものです。