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筑後女がゆく
- 初版年月日
- 2017年11月
- 書店発売日
- 2017年11月5日
- 登録日
- 2017年9月7日
- 最終更新日
- 2018年3月18日
紹介
戦前の激動の時代、九州・筑後地方の旧宿場町でこの物語の主人公・安子は生を得る。早産で、医者に「こん子は名はつけんほうがよかばい」と見放されながらも、ヤカマシ者の父・寛次と笑い上戸の母・ラクヲに甘やかされ、よく笑いよく泣きよく怒るパワフルな子に育つ。我が道以外の道はなく、人生常にフルスロットル。そんな筑後のぐいぐい女と家族の半生を、ホームドラマ風に描いたエンターテインメント小説です。
目次
序章
第一章 口だけガキ大将
第二章 奔放娘
第三章 夜遊び中毒
第四章 浅はか婚姻
第五章 泳いでみた東京
第六章 回り道
第七章 うちの卵
第八章 家族
前書きなど
時は三月、見慣れている土手の風景もどこか違って見える季節。いくつかの屋形船と小さなボートが浮かんでいる。橋を渡り、いつもの景色が見え始めたあたりから、車中では毎度同じ会話が繰り返される。
「この辺りにあったはず」だの「ここは誰それさんの家」だの「まだ生きとらっしゃるやろか(生きているだろうか)」だの、八十を過ぎた安子は、次から次へとよくしゃべる。それを聞かされている娘にしてみれば、毎回同じ会話になってくるので、だんだん返事も粗くなる。それがきっかけとなり、いつも口ゲンカになるのだ。
目の前に流れる筑後川。向こう岸にある景色が、ものすごく遠く感じる時があったものだとしみじみと言う安子に、口の達者な安子に負けじと娘も平気で、
「じゃあ、もうすぐ近くなるよ。あっ、あそこに渡り損ねた三途の川が見えてきた。嫌がって誰もお迎えに来んね」
そう不吉な事を並べ返してみても、
「うちは根性悪かけん、お迎え来たっちゃ、ケンカするけんね。誰も来んよ」
安子は、力強く言い返して笑う。
ケンカは日常茶飯事で、どちらかが口をきいたと思うとまたケンカになり埒があかない。
いつの時代も人生は、穏やかに流れる川を渡りたいと思うも、そう都合よくはいかない。けれど、荒れた恐ろしい川でも、安子は川に文句を言いながら渡ってゆく。
この頃、顔のシワが一層深くなった安子は、鏡を見ながら、
「あー恐ろしか。うちなんで、こげん(こんなに)年とったっちゃろうか。体もだんだんいうこときかんで、固か折り畳み椅子のごとなりましたばい」
年に何度か分かりきっていることをぼやき、
「よかよか、もう年たい」
と自分で励まし笑い出し、立ち直るのが早い。
もうめんどくさいと化粧をすることをあきらめ、身だしなみだけを整える。元来いい加減で気分屋の性格をしているが、仕事に関しては昔から一生懸命。何よりも人が大好きなのだ。経営している店は、歳を重ねるたびに安子のペースで営業するようになった。
そんな安子は、いつからか昔を懐かしみ、若いころに知り合った人たちのことや弱かった自分、強かった自分のこと、そして昔の家族の思い出話を時に一人舞台のように、芝居がかった調子で何役もこなしながら大げさに、おもしろおかしく娘の前で語るようになっていた。
版元から一言
B-29も水害も借金も何のその…。笑えて泣けて、ちょっぴり懐かしい……読むと元気になれる本です!
上記内容は本書刊行時のものです。