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「ありがとう」という品性 なぜ「ありえない」が感謝の言葉になるのか
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年6月30日
- 書店発売日
- 2024年6月22日
- 登録日
- 2024年2月27日
- 最終更新日
- 2024年11月7日
紹介
日本人がいちばん好きな言葉が「ありがとう」であるとするアンケート結果があります。
「ありがとう」という言葉には、おそらく、日本列島の上で暮らす人々、日本文化の中で暮らす人々、つまり日本人が共通して持っている根源的なメンタリティないし世界観の有り様が映し出されているはずです。
なぜ日本人は「ありがとう」が好きなのか、「ありがとう」にまつわる歴史を整理して、日本の独自性、つまり、日本と海外他文化圏との根源的なメンタリティないし世界観における違いを浮き彫りにしていこうというのが本書の目的です。
目次
序章 「ありがとう」の相手は「人」ではなく「世の中」
●実は自虐風、逆説的な「ありがとう」という言葉
●外国語の感謝の言葉と「ありがとう」の違い
●「ありがとう」が大好き、の統計的根拠
●「ありがとう」でできている小津映画『東京物語』
●『東京物語』が見事に示す「ありがとう」の原理
第1章 「ありがとう」はいつどこで生まれた?
●明治時代後期に始まった「ありがとう」普及作戦
●教育の世界の、日本vs.中国
●選別された「方言」こそが「標準語」
●国語辞典に載っていなかった「ありがとう」
●実は京都弁だった「ありがとう」
●宣教師による戦国時代日本語研究の凄まじさ
●1603年刊行ポルトガル語辞書に載っている「ありがとう」
●方言にうるさかった宣教師の『日葡辞書』
第2章 「ありがたいvs.かたじけない」のシェア戦争
●「ありがたい」が感謝の言葉となる時
●『徒然草』に見る感謝の言葉
●『源氏物語』の「ありがたし」はネガティブ?
●「ありがとう」などとは決して言わない光源氏
●「ありがたし」の古代史と夏目漱石のニセ漢文
●古代の天皇が使った「ありがたし」大事件
●天皇の上に何者かがいる?
●仏マニアの孝謙天皇が引き起こした一大騒動
●仏教を国家事業化した天武天皇
●仏教依存症の父と娘
●なぜか「ありがとう」とシンクロする仏教の浸透
第3章 決して謝らない平安貴族と「ありがとう」の関係~『源氏物語』から
●六条御息所が徹底的に悪い、その理由
●皇位継承に関する紫式部の過激な仕掛け
●安全保障装置だった「宿世」の思想
●いいわけだらけの『源氏物語』
●『源氏物語』が「小説」ではない理由
●宮中女房の読み上げ台本だった『源氏物語』
●「世の中とは何か」を教えるための『源氏物語』
●『源氏物語』がおもしろくないのは当たり前
●何でも入る魔法の箱「もののあはれ」
●「もの(存在)のあはれ(あれこれ)」は、つまり「世の中」
●そんなことって「世の中」にあるの?
第4章 創造しない日本の神と「ありがとう」の関係~本居宣長から~
●日本の神様はなぜ占いをする?
●『古事記』は文学的、『日本書紀』は学者風
●『古事記』は近現代に発掘された教養
●神話が表す、神話の子孫たちの「世の中」観
●日本神話に秘蔵されている「ありがとう」
おわりに ひそやかに世界に誇るべき「ありがとう」の世界観
●「いただきます」の現代史~参考として
●世界一奥ゆかしく、世界一タフな日本
前書きなど
「ありがとう」の主人公は明らかに「世の中」です。「自分はこういう世の中に生きている」「世の中とはこういうものである」という考えが先に無ければ、貴重である、珍しい、といった判断はできません。
そして、始終、そんなにたびたび「ありえない、ありえない」と言っているとするなら、相当にひどい「世の中」が想定されているはずだ、という仮定も成り立ちます。
ここには、「ありがとう」の背後にある、おそらくは日本人独特のものであろう世の中観、世界観はいったいどういうものなのか、という重要なテーマがあります。さらに言えば「ありがとう」は本当に感謝を伝える言葉なのか、それを検証していくのも本書のテーマのひとつです。
「ありがとう」を生んだ日本古来の世界観には、世の中に対する「あきらめ」があります。そしてそれは、限りなく「信頼」に近い「あきらめ」です。そういう世界観においては、『「私」があったところでしかたがない』と言うよりも、『はじめから「私」などはない、「私」という存在などは意識しない』という過激な軽みがあります。
日本は明治維新以降、そこに折り合いをつけるべく、海外の世界観を調べ続けてきています。そこにおいては先人各位の、称賛すべき偉大な成功があり、尊敬すべき偉大な失敗がありますが、維新の年を仮に明治元年1868年とすると、2068年を迎えても明治維新からまだたったの200年です。
「ありがとう」の世界観は、おそらく、他の世界観を、計算して活用することのできる世界観なのです。
上記内容は本書刊行時のものです。