書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
取引情報
鏡の中の錯乱
シルヴィア・プラス詩選
- 発売予定日
- 2026年11月5日
- 登録日
- 2026年7月14日
- 最終更新日
- 2026年10月9日
紹介
「プラスの詩はいくつもの〈役割〉に引き裂かれながら生きる女性の強烈な生へのエネルギーで満ち溢れている」(小川公代)。
女性であることの「受難」の奥深くに分け入ってみずからの想像力を解き放ち、「マイナー文学」としての詩的言語を創造したシルヴィア・プラス。生前唯一の詩集『巨像』、死後刊行され一躍評価を高めた『アリエル』や『冬の樹々』ほかより精選した詩篇にくわえ『三人の女』を収録。最適の訳者による日本独自の詩選を新たな装いで刊行。自伝小説『ベル・ジャー』で知られるピューリッツァー賞受賞作家の本領がここに。
目次
目次
巨像 より
荘園の庭/死体置き場のふたつの風景/出発/巨像/ローレライ/蛙の秋/独身女/ほしい ほしい/すべての死んだいとしい人たち /蜂飼いの娘
三人の女 三つの声のための詩
アリアル より
配達人/霧の中の羊/切り傷/楡の木/十月のひなげし/死株式会社/ニックと燭台/メデュサ/月といちいの木/マリアの歌/誕生日の賜物/百三度の熱/蜜蜂巣箱の到着/七月のひなげし/端/絞首刑人/チューリップ/レスボス/刺し傷/アリアル/ラザロス夫人/おとうちゃん
冬の樹々 ほかより
不安/水仙のあいだで/健忘症/他人/サリドマイド/立ち聞きする人/父なし子に/子のない女/見学/几帳/冬の樹々
シルヴィア・プラス 受難の女性詩人 水田宗子
後記
新版あとがき
参考文献
前書きなど
*小川公代氏推薦文「多様性を讃美しながら」
「愛や結婚にはつねに危険がある。自分は聖女になるのか、悪女を貫くのか。優しい母の役割を担うのか、あるいは結婚を拒み反抗者となるのか。《荒野の雪だるま》という詩では花嫁は屈服して犠牲者として生きることを拒み、強者である夫を逃れるが、荒野のむき出しの脅威と対決し、徹底的に打ちのめされる。
シルヴィア・プラスが生きた時代に女性として生きるとは、そういう矛盾に満ちた〈生〉と格闘するということを意味していた。彼女自身も、このような犠牲者意識に苦しめられながら、反抗心を失わない詩人として言葉を紡いだ。プラスは〈小さい〉ものと〈巨大なもの〉の間で葛藤する女性たちに呼びかける。〈さあその両側に坐りましょうよ。その光り 導き その鏡のような多様性を讃美しながら〉(《誕生日の賜物》から)。
プラスの詩は、数々のペルソナを渡り歩き、いくつもの〈役割〉に引き裂かれながら生きる女性の強烈な生へのエネルギーで満ち溢れている。それはまさに〈危機を内包しながらようやく均衡を保つ〉自己矛盾の美学なのだ」
*編訳者の言葉(「新版あとがき」より)
「多くの読者と批評家がプラスについて知るようになったのは1971年の『ベル・ジャー』のアメリカでの出版である。この自伝的小説は1963年にはヴィクトリア・ルーカスという筆名で、そして1966年にはシルヴィア・プラスの名でイギリスでは出版されていたが、夫の詩人テッド・ヒューズや母親アウレリアの強い要望でアメリカでは遅くまで出版されなかった。しかし、この小説の出版こそがプラスと当時台頭してきていたフェミニズム第二派――女性の沈黙領域に蓄えられてきた隠された傷痕、女性として生きることの抑圧、痛みなど内面の秘密領域の掘り起こし――の批評を一気に推進するきっかけとなったといえるだろう」
「1970年代に入ってからの大きな波のうねりのようなフェミニズム批評の台頭は、シルヴィア・プラスの作品が世界で、なかでもアメリカで読まれはじめたことと深く結びついている。(…)私はプラスの詩の世界に没入することで女性のトラウマ、抑圧の傷痕を堀り起こすフェミニズム表現、思想、批評が歴史的、文明的な課題、ユダヤ人虐殺や広島の原爆の暴力と人権陵辱の被害者の沈黙した表現に向かい合うことでもあること、プラスの詩の言葉と世界がその危機に満ちた世界をまるごと表現していることに深い衝撃を覚えた。(…)プラスははじめて女性が女性として書く詩表現、その世界のなかで生き延びようとする弱い命の苦悩を現代詩に臆することなく女性詩のテーマとした詩人だが、戦争と暴力と弱いものへの略奪の文明への抵抗の世界のテーマ化がフェミニズムの本質的な思想の根底を形成することを教えてくれたのだった」
「2019年、私はオックスフォード大学での講演の帰りにロンドンのシルヴィア・プラスの家を訪れた。この緑深い公園のそばのフィッツロイ・ロードの家はプラスがテッド・ヒューズと別れて子供たちと住んだ家だが、1962年末から自殺をする1963年2月まで住んだ家である。この家はアイルランドの詩人W・B・イエーツが住んだ家でもあり、プラスはこの家を見つけて大変喜んだと言われている。またこの家が気に入ったプラスはここを終の住処にしたいと考えていたとも伝えられている。それにもかかわらず、たった3ヵ月ほどでふたりの子供たちの朝食のミルクを部屋の前に置いて壮絶な自殺を果たしてしまったのである。家の前に立って私は胸を突かれてどっと涙が出た。そして一挙に私のなかの50年の時間と距離が消えた。プラスの詩はいまでも強い衝撃と激しく感情を揺さぶる言葉で読者の実存風景を変貌させる力をもちつづけているのだ」
上記内容は本書刊行時のものです。
