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「障害の政治」と多声性
ケア論の考察から反エイブリズムの地平へ/他者化された人々の声を聴くために
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2026年9月18日
- 書店発売日
- 2026年10月1日
- 登録日
- 2026年8月18日
- 最終更新日
- 2026年8月28日
紹介
重度知的障害者をはじめ、マジョリティ社会によって他者化された人々が排除されてきた「リベラリズムの正義論」を超克するケアの倫理を熟考し、批判的障害学が提起したエイブリズム概念に基づく代表性の問い直しによって拓かれる「障害の政治」の再構築を探る。
目次
はじめに
第1章 連帯の規範と〈重度知的障害者〉
1 リベラリズムの市民概念
2 〈重度知的障害者〉という視座の意義
3 〈重度知的障害者〉の包摂がもたらす連帯の規範の理論的課題
まとめにかえて
第2章 〈重度知的障害者〉の承認をめぐって
1 「自律」から「関係」へ、そして回帰する思考
2 属性主義の否定と「生命」の価値
3 ヴァルネラビリティによる承認と分配されるべき財
まとめにかえて
第3章 〈重度知的障害者〉とケアの分配について
1 「何の平等か」をめぐる議論とリベラリズムの人間観
(1)ジョン・ロールズの正義論
(2)アマルティア・センの潜在能力アプローチ
2 ヴァルネラビリティに基づく連帯の規範におけるケア
3 ケアとは何か
4 ケアの分配をめぐって
(1)「ケア資源」の分配
(2)「ケア資源」の分配規準
(3)ケアの質の担保
まとめにかえて
第4章 ケアが分配されるとき
1 「ケアの制度化」はなぜ必要か
2 「ケアの制度化」の意味とその可能性
3 ケアの妥当性をめぐって
(1)「ケア資源」の質
(2)「ケア資源」の分配にかかわる評価
まとめにかえて
第5章 「ケアの制度化」をめぐって
1 ケアにおける規範的含意とは何か
2 「ケアの制度化」をめぐる論点
3 ケアと正義の接合が意味するもの
4 〈重度知的障害者〉と「ケアの制度化」をめぐって
まとめにかえて
第6章 社会モデルは〈知的障害〉を包摂し得たか
1 社会モデルをめぐる議論の諸相
(1)社会モデル批判
(2)批判への応答
2 〈知的障害〉からみた社会モデルの意義と社会モデルに対する批判
(1)〈知的障害〉からみた社会モデルの意義
(2)社会モデルに対する〈知的障害〉からの批判
3 インペアメントの社会モデルは〈知的障害〉を包摂し得るか
(1)インペアメントの社会モデルの提起
(2)インペアメントの社会モデルは〈知的障害〉を包摂し得るか
まとめにかえて
第7章 障害学は知的障害とどのように向き合えるのか
1 「二重の他者化」の諸相
2 障害学における他者化
3 他者化への抗いのために
まとめにかえて
第8章 エイブリズム論は何を問うのか
1 エイブリズム論生成の文脈とその問題意識
(1)社会モデルの課題への対応――理論的文脈
(2)ネオリベラリズムへの抵抗――政治的文脈
(3)障害者運動の課題との対峙――運動論的文脈
2 エイブリズムとは何か
(1)狭義のエイブリズム
(2)広義のエイブリズム
(3)広狭のエイブリズムの関係
3 エイブリズム論は何を問うのか
(1)CDSにおけるエイブリズム論の問い
(2)日本の障害学へのインプリケーション
まとめにかえて
第9章 「障害の政治」における代表性の偏り
1 代表とは何か
2 代表はなぜ可能なのか
3 「障害の政治」における代表性の偏り
(1)障害者集団内における偏り
(2)「当事者」の制限的な意味づけと権威化による偏り
(3)誰がメガホンを持つのか
4 なぜ、「いま」問い直しが求められるのか
(1)障害者運動・障害学における他者構築への気づき
(2)障害学における知の深化と拡大
(3)問い直しが切迫性を持つ現代的状況
まとめにかえて
第10章 「障害の政治」における代表性を問い直すことの意味とその視座
1 「障害の政治」における代表性の偏りとは何か
2 代表性の偏りは何をもたらすのか
3 代表性を問い直すとはどういうことか
(1)沈黙を可視化すること
(2)「誰」の問い直しによる民主主義への志向
(3)政治のフレームの再審
4 代表性の問い直しのための視座をめぐる試論
(1)フェミニズムにおけるアイデンティティ・ポリティクスからの戦略的本質主義の示唆
(2)偏りの可視化のためのエイブリズム概念
まとめにかえて
おわりに
初出一覧
引用・参考文献
索引
前書きなど
はじめに
「すべての人々」の平等を掲げ、公正な社会を追求する正義をめぐる議論からも、また、周縁化され、排除される人々に対する抑圧や差別に抗い、その人々の権利の回復・獲得を掲げる社会運動や学問領域からも、遠ざけられ、他者化される人々がいる。
(…中略…)
本書で言う「障害の政治」とは「障害をめぐる秩序の構築、およびそれに対する抵抗や解体に係る人々の共同的な営みの総体」を意味している。この「障害をめぐる秩序」は、障害をめぐる規範とそれが物質化された現象として、つまり、障害をめぐる権力や政策、支配や自治に関わる現象として表現される。(…)
(…中略…)
本書では、この他者化されていく人々を、「障害の政治」がいかに可視化しうるのか、また、その沈黙をいかに聴き取ることができるのか、を探究しようと思う。
各章はそれぞれに独立した主題に基づく論考であるが、大きく三つのパートに分かれている。どのパートからでもよいが、それぞれのパートを一つの塊としてお読みいただければ、筆者の問題意識の連なりをご理解いただけると思う。
前半の第1章から第5章は、リベラリズムの正義をめぐる議論から〈重度知的障害者〉がいかに排除されてきたのかを辿り、そのうえで、この排除された存在を包摂するための視座として、ヴァルネラビリティという人間的属性を提起し、さらに、その視座から導出されるケアの倫理と、その具現化と普遍化、言い換えれば、ケアの倫理と正義との接合に向かうための「ケアの制度化」にかかわる原理的な考察を行っている。
中盤の第6章と第7章は、障害(者)の排除・抑圧・抹殺・隔離をもたらしてきた「障害の政治」が維持・再生産してきた秩序に対して、障害当事者たちによる抵抗としての「障害の政治」が、果たして知的障害(者)に向き合ってきたのか、という問いを立てる。具体的には、抵抗としての「障害の政治」の対抗的価値・思想の結晶であり、現代の障害者運動・政策・研究における鍵概念としての地位を確立した社会モデルについて、知的障害者の視座から批判的検討を加えている。
そして、後半の第8章から第10章にかけては、「障害の政治」における排除の機制とその帰結を、政治における代表性の偏りという観点から検討していく。具体的には、「障害の政治」における代表性の偏りとは何を意味しているのか、そして、その偏りが「障害の政治」にいったい何をもたらしてきた(もたらしている)のか、を明らかにしながら、代表性の問い直しが求められる問題背景を確認していく。そのうえで、近年、議論が活性化している、批判的障害学(Critical Disability Studies:CDS)におけるエイブリズム概念を、代表性の問い直しのための視座として提起し、この視座に基づく代表性の問い直しによって拓かれる「障害の政治」の新たな展開可能性についての試論を提示している。
本書の目的は、これまで正義をめぐる議論が生み出してきた知見や、障害者運動がその抵抗の歴史から紡ぎ出し、錬成してきた諸価値や概念などを否定することでは決してない。そうではなく、障害(者)に対する抑圧や差別への抵抗において、それらの知見や諸価値、概念の有益性、有効性、正当性を認めながらも、それらが新たな「他者」を創出してこなかったか、誰かに沈黙を強いてこなかったか、そして、いま/ここにおいても、まるで存在しないかのように誰かを不可視化し、その声に対して聴こえないふりをしてはいないか、ということを徹底的に問い直していくこと、そしてその先に、「障害の政治」を固定的な秩序から解き放ち、政治の外部に置かれてきた声を招き入れながら、「障害の政治」における多声性(polyphony)の回復と、そこに新しい「共」や連帯の可能性を提起すること、これが本書の目的である。
上記内容は本書刊行時のものです。
