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難民がつくる学校教育
シリア人学校はいかにトルコで創られ、人びとを繋ぎ、支えたのか
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2026年3月15日
- 書店発売日
- 2026年3月5日
- 登録日
- 2026年1月30日
- 最終更新日
- 2026年3月2日
紹介
トルコのシリア国境地域における綿密な現地調査にもとづいて、そこに難民として暮らすシリアの人びとが築き上げた学校教育の多様性、多面性、ダイナミズムを描き出し、人びとの営みの総体としての学校教育の役割を明らかにする。
目次
はしがき
序章 なぜシリア難民による学校運営を質的に紐解くか
第1節 「難民」概念の定義と変遷
第2節 難民教育の重要性と課題
第3節 都市難民と教育
第4節 シリア難民の概況とトルコでの受け入れ
第5節 問題の所在と研究の目的
第1章 難民教育研究の現在地
第1節 難民の文脈における学校教育の役割
1.1 学校における人道支援
1.2 「平和」を目指した教育の危うさ
1.3 共同体への帰属の促進
第2節 難民教育研究の特質
2.1 人道援助プロジェクトとしての難民教育
2.2 個別・長期的視座の必要性
第3節 難民の生活世界からみる教育
第4節 難民教育研究に求められる分析要因
第2章 シリアの国情とトルコによる難民受け入れの変遷
第1節 シリアの国情と人びとの生活
1.1 概要と歴史
1.2 独立後、紛争前の政治体制
第2節 シリア危機の勃発と難民の発生
第3節 シリアの人びとの教育状況
3.1 紛争前のシリアにおける高い就学率と学習内容の偏重
3.2 紛争勃発後、教育にむけられた暴力
3.3 シリア難民の子どもの教育状況
第4節 トルコ政府によるシリア難民受け入れ
4.1 トルコによる難民受け入れの歴史と制度
4.2 シリア難民からみたホスト国トルコの特徴
第5節 トルコにおけるシリア難民への教育支援
5.1 国際支援ネットワークとの希薄な協調関係
5.2 トルコにおけるシリア難民の就学状況と「仮設教育センター」
5.3 シリア人学校に対する不公平なまなざし
第3章 トルコのシリア国境地域における都市難民の実態
第1節 調査期間と調査対象校へのアクセス
第2節 調査地の概要
2.1 ハタイ県
2.2 シャンルウルファ県
2.3 ガジアンテップ県
第3節 調査の方法と留意点
第4章 シリア人学校が展開してきた環境と背景
第1節 キャンプ外で運営されるシリア人学校の教育構造
1.1 シリア人学校の運営維持と機能を支える多様なアクター
1.2 シリア教育委員会(SEC)とシリア暫定政府(SIG)教育省によるカリキュラムの作成
1.3 トルコ語教育の導入
1.4 学校を構成する諸要素
第2節 シリア人学校における教育内容と政治思想
2.1 国内外の組織や個人からの物的・資金的援助
2.2 多様なアクターが入り混じる卒業資格の保証とその変容
第3節 シリア人学校をとりまく環境
3.1 子どもの就学を支える親世代の教育需要
3.2 あらゆる共同体からの孤立
3.3 家庭内環境の変化
3.4 トルコでの暮らしとシリアへの想い
3.5 小括
第5章 シリア人学校を支える人びとの営み
第1節 シリア人学校の多様な成り立ち
1.1 「手づくりの学校」
1.2 シリア人の手から離れた学校運営
1.3 トルコ行政による管理とゆるやかな連携
1.4 設立から閉校まで
1.5 小括
第2節 シリア難民の視点からみる教育構造の経年的変容
2.1 設立期:難民の増加にともなうシリア人学校の台頭(2011~2013 年)
2.2 展開期:多様なアクターとの連携(2014 年)
2.3 停滞期:トルコ政府による政治的介入(2015 年以降)
2.4 小括
第3節 シリア人学校がもたらす関係者間の利害関係と分断
3.1 卒業資格をめぐる就学・不就学にかかる戦略
3.2 よりよい教育機会の希求と現状に対する不満
3.3 雇用機会の獲得にかける教師の渇求
3.4 援助者に対する学校関係者の排他的な視点
3.5 小括
第4節 シリア人学校がもつそれぞれの意味
4.1 難民経験がもたらした喪失の補償
4.2 難民であるがゆえの「自由」の体現
4.3 分断されたシリア人を結ぶ連帯の形成
4.4 連帯の背景にある経営者の焦燥
4.5 小括
終章 人びとを繋ぐシリア人学校を創る
第1節 独自のシリア人学校運営を支える構造の多面性
1.1 政治的アクターの関与がもたらしたシリア人学校への影響
1.2 平板化されたシリア人学校における構造的な課題の表出
1.3 シリア人学校に内在する平板化の弊害
第2節 シリア人学校をめぐる連帯と分断
2.1 シリア難民にとっての主体性と自由の価値
2.2 中立的な援助者に対する排他性
2.3 難民生活における学校教育の役割
第3節 おわりに
3.1 本研究のまとめ
3.2 本研究の意義と今後の課題
あとがき
引用文献
索引
前書きなど
序章 なぜシリア難民による学校運営を質的に紐解くか
(…前略…)
第5節 問題の所在と研究の目的
本章で記述してきた研究背景にみられる問題点として、主に下記の3点が挙げられる。
まず第一に、一人ひとりの難民がもつ多面性と動性に対する視点の欠如である。これは、本章第1節において述べた、「難民」という概念そのものの捉え方における問題点である。このことにより、難民は総体(the refugee)として平板化して捉えられ、「抽象的かつ曖昧」な集団としてしか分析されてこなかった。
第二に、都市難民の多様性が看過されてきたことである。これは、本章第3節で述べたように、そもそもこれまでの難民研究において、都市難民に関する蓄積が少なかったことがひとつの大きな要因となっている。そのことと、上記に述べた個別の難民に対する視点の欠如が相まって、従来の難民研究においては非キャンプ地域における難民の多様な暮らしは明らかにされていない。
第三に、従来のエビデンス収集の蓄積が、特定の教育提供主体に偏重してなされていることである。2000年代以降、難民に教育を提供する主体は、それまでの行政組織や国連などの大規模組織から、NGOなどの小規模な団体や、難民自身へと遷移してきた(詳しくは、本章第3節参照)。しかし、いまだNGOや難民が主導する難民教育に関するエビデンスは個別の事例や統計の収集に留まり、行政や国連組織を中心的な主体とする難民の教育が主流を占める。そのなかでも、非キャンプ地域におけるエビデンスの収集はきわめて少なく、それらを体系的に位置づけることができていない。
これらの3点が相互に影響を及ぼし合いながら、都市難民による個々の思考や営み(教育意識や教育活動)と、その総体(学校活動)がもたらすはたらきを不可視の状態に落とし込む悪循環に陥っている。このため、多様であるはずの難民生活や教育活動のメカニズムは平板化して捉えられ、難民の多様性、多面性、動性を踏まえた議論が進んでいない。その結果、個々の難民がいかなる教育認識や主体性をもち、その帰結である学校がいかに機能しているかという、非キャンプ化する難民教育を理解するうえで重要な問いに対しても、これまでの研究蓄積は答えられていない。
そこで、本研究ではとくに教育における提供と受容の行為主体としての難民の多面性に着目し、以下の2点を目的として設定する。
1.トルコにおけるシリア難民の教育活動を事例として、難民自身によって運営される学校の実態を、経年的に描出する。
2.それらの学校にみられる関係者個々の多様性と、それぞれの営みがもたらす学校総体の多面性と動性を分析することにより、そこでつくられる学校教育の役割を考察する。
上記内容は本書刊行時のものです。
