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災害と子どもの発達
東日本大震災から学ぶ支援とレジリエンス
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2026年3月11日
- 書店発売日
- 2026年3月23日
- 登録日
- 2026年2月4日
- 最終更新日
- 2026年3月19日
紹介
東日本大震災の被災生活は子どもの発達に影響を及ぼし、彼らを支える支援者は被災者/支援者という二重の立場で葛藤していた。本書は、彼らの心理的葛藤をレジリエンス形成の契機として捉え直し、保護者や地域が一体となった支援体制構築の重要性を訴える。
目次
はじめに
第1章 多重災害下における子どもの発達と支援を問う――大震災と原発事故の影響を受けた子どもに寄り添う視点
第1節 大震災と原発事故のなかで育つ子ども――発達を支える研究と実践
1 大震災・原発事故後の「子どもの発達」に関する研究の歩み
2 いわき市から見える子ども支援の可能性
第2節 子どもの発達とレジリエンス――災害がもたらす影響を見つめる理論と実践
1 発達障害とは何か――概念の広がりと診断基準の変遷から見る支援の手がかり
2 チェルノブイリ原発事故における子どもの発達への影響――放射能汚染がもたらす健康・神経行動・認知機能へのリスク
3 阪神・淡路大震災における子どもの発達への影響――都市型災害がもたらした子どもの心身への影響を探る
4 レジリエンスとは何か
第3節 本書の目的と構成――大震災が子どもの発達に与えた影響を読み解くために
第2章 大震災と子どもの暮らし――地域・社会・教育の視点から生活環境の変化をたどる
第1節 大震災と原発事故がもたらしたもの――福島県・いわき市の被害
1 福島県の地理的・社会的背景――分断された地域性と大震災後の一体性
2 原発事故がもたらした避難と生活の変容
3 いわき市─浜通りを代表する産業都市の形成
4 いわき市が受けた大震災の衝撃─津波・地震・原発事故の三重苦
5 いわき市の生活と復興――安全・安心な地域づくりに向けた取り組み
6 多面的復興による地域再生の歩み
7 第1節のまとめ
第2節 子どもへの影響
1 いわき市における人口変動と地域特性
2 放射能と子どもの健康――チェルノブイリから福島へ
3 第2節のまとめ
第3節 幼児保育施設への影響――A幼稚園の「園だより」の分析から
1 はじめに
2 調査資料と分析方法
3 結果と考察
4 第3節のまとめ
第4節 小括 震災後の子どもを取り巻く環境の変化と保育の歩み――地域・社会・教育の視点から
第3章 大震災直後に生まれた子どもの発達を見つめて――環境と成長の関係を探る
第1節 大震災後の環境が子どもの対人応答性に与えた影響(1)――いわき市と静岡市のタイプ分類
1 はじめに
2 目的
3 方法
4 結果
5 考察
6 第1節のまとめ
第2節 大震災後の環境が子どもの対人応答性に与えた影響(2)――いわき市と静岡市の比較から見えたこと
1 はじめに
2 目的
3 方法
4 結果
5 考察
6 本研究の限界と今後の課題
7 第2節のまとめ
第3節 小括 大震災後の生活環境が子どもの対人応答性に及ぼす影響
第4章 支援者・小学校教員が語る「子育て」の困難さ――現場の声に耳をすます
第1節 「被災者としての私」と「支援者としての私」の二重性――大震災・原発事故を経験した支援者の心理的葛藤の変化プロセス
1 はじめに
2 目的
3 方法
4 結果
5 考察
6 本研究の限界と今後の課題
第2節 大震災・原発事故後10年、いわき市の子どもの問題行動
1 はじめに
2 目的
3 方法
4 結果
5 考察
6 今後の課題と研究の展望
第3節 小括 子どものレジリエンス形成に関する支援実践の総括
第5章 大震災から学ぶ支援とレジリエンスの総括――災害下における子どもと支援者の歩みに寄り添う
第1節 研究結果の要約と統合
第2節 研究成果の意義と先行研究
第3節 研究結果の実践的貢献
第4節 本研究の限界と今後の課題
第5節 結論
おわりに
引用文献
初出一覧
前書きなど
はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災(以下、大震災とする)と東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故とする)は、福島県いわき市に地震・津波・原発事故という三重の被害をもたらした。さらに、原発避難者の受け入れ地となったことにより、地域社会には多様な社会的課題や関係性の緊張が生じた。他の被災地と比較して、いわき市においては、こうした影響に関する調査研究が倫理的配慮等の理由から必ずしも十分に蓄積されてこなかった。その結果、保育・教育の現場で生じていた諸課題や、そこで働く人々が直面していた困難の実態は、十分に可視化されてこなかった。
筆者がいわき市の現状に向き合うことになったのは、大震災から6年後、仕事のためにこの地へ転居したことがきっかけであった。実習巡回指導で訪問した園の保育士の方々からは「大震災後、落ち着きのない子どもが増えた」「保護者対応が難しくなった」といった声が聞かれ、日々の保育のなかで大震災の影響が、今なお色濃く残っていることを実感した。この経験を通じて、いわき市が抱える特有の課題と、そこに潜む支援ニーズの実態を明らかにする必要性を強く感じるようになった。
本書では、大震災直後に出生した子どもの発達に着目し、大震災・原発事故によって大きく変化した生活環境が子どもの成長にどのような影響を及ぼしたのかを検討する。また、当時、保育や教育の現場で子どもと向き合っていた支援者や小学校教員の語りをもとに、大震災下での生活や心理的葛藤、そして支援の実践についても掘り下げた。
調査には、対人応答性を測定する対人応答性尺度第2版(Social Responsiveness Scale, Second Edition:以下、SRS-2 とする)を用いた量的分析と、支援者・教員へのインタビューを通じた質的分析の両面から取り組んだ。その結果、いわき市の子どもには社会性の発達における特徴的な傾向がみられ、とりわけ大震災後に生まれた男児や年少児に対人応答性の低さが目立った。一方で、支援者や教員は「被災者」と「支援者」という二重の立場に葛藤を抱えながらも、保護者や地域と連携しながらレジリエンス(困難に適応し回復する力)を発揮し、子どもの支援に尽力していたことが明らかになった。
本書は、災害が子どもと保育・教育現場に及ぼした影響を明らかにし、今後の発達支援や地域再生のあり方を考えるうえでの一助となることを目的としている。子どもの健やかな成長と地域社会の持続的な回復を支えるために、何が必要とされているのか。本書が、その問いへの手がかりとなれば幸いである。
本書の知見が、大震災を経験した地域で子どもたちの育ちを支えるすべての人々にとって、実践と理解を深める一助となることを願っている。
上記内容は本書刊行時のものです。
