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ベルギーを知るための64章【第2版】
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2026年9月25日
- 書店発売日
- 2026年10月2日
- 登録日
- 2026年8月27日
- 最終更新日
- 2026年9月4日
紹介
現行の国家だけ見てベルギーを理解することは難しい。本書は近現代ベルギーの社会や文化について解説を加えるとともに、歴史的に世界各地で活躍した「ベルギー人」に注目し、新たな視点を提供する。「ベルギーを知る」ことから「欧米」の成り立ちにまでつながる大胆な一書。
目次
前書きに代えて――ベルギーが「ハート・オブ・ヨーロッパ」と呼ばれる理由
Ⅰ ベルギーの現代的諸相
第1章 ベルギーから世界が見える――小さな珠玉の王国の「大国風情」はなぜ
第2章 「ベルギー国境」は国境にあらず――時空の「越境」が常態の国
第3章 EUは本来的にベルギー的である――シャルルマーニュからドゴールまで
第4章 ミスター・ヨーロッパと呼ばれたベルギー人――現代統一欧州を築き上げたスパークという政治家
第5章 ブリュッセル、小さな世界一の国際都市――なぜEU・NATOの本部なのか
第6章 ベルギーとアフリカ――アフリカ植民地の呪縛
第7章 意外な(?)スポーツ大国ベルギー――オリンピックもワールドカップも
【コラム1】小国ベルギーの知られざる偉人たち――国際法学者とビッグバン科学者
【コラム2】ブリュッセル(EU)の中央集権から逃れるための「ブレグジット」?
【コラム3】アフリカのベルギー・コネクション――リビングストンとスタンレー
Ⅱ 世界の社会・経済に大きく貢献したベルギー(フランドル)
第8章 フランドルのお家芸は「議会主義」?――マグナ・カルタやド・モンフォール
第9章 印刷・出版とフランドル――グーテンベルクが先か、コステルが先か
第10章 小さな国の大きな経済――産業革命からロックフェラーやデュポンまで
第11章 海の栄光は空の時代まで続くのか――ライト兄弟からマクダネル・ダグラスまで
第12章 飛行機から自動車・電機へ――ロールスロイスやフォッカー社、GMやGEは?
第13章 アントウェルペン――古くて新しい世界の商都
第14章 リエージュ――司教都市の裏の顔としての軍需産業都市
【コラム4】近代社会思想の発信源はフランドル系?――アダム・スミスからマックス・ウェーバーまで
【コラム5】メッセンジャー――早くからヨーロッパの国際郵便・飛脚を担ったフランドル人
【コラム6】ベルギー・チョコレートの美味しい話――「世界一」は幾つもあるけれど
Ⅲ ベルギーという国の今
第15章 国家のあり方まで変えた言語問題――中央集権制から連邦制
第16章 ベルギーの連邦化の今――改革は果てしなく続く
第17章 ベルギーと世界の民族問題――先進国ベルギーの特殊性
【コラム7】ベルギーの「ライシテ(脱宗教性)」
第18章 ベルギーのフランス語の今――「フランス語」を話すのは誰?
第19章 ベルギーのオランダ語の今――標準オランダ語をめぐって
第20章 都市国家ブリュッセルの言語状況――例外としての二言語圏、現実としての超多様性
第21章 ベルギーのドイツ語圏――言語戦争とは無縁のもっとも保護された少数者?
第22章 移民がつくるベルギー①――移民受入れ政策の変遷
第23章 移民がつくるベルギー②――移民送出政策の変遷
【コラム8】ベルギー建国とフランス人――ベルギーの中のフランス人
第24章 公教育の場に参入するイスラーム――教材開発と学校設立
Ⅳ ベルギーの近現代文化・芸術の展開
第25章 ベルギーのフランス語文学――「ベルギー性」を求めて
第26章 ベルギー・オランダ語文学――オランダ語話者の視点で「ベルギー」を知る
第27章 ベルギー映画へのいざない――ストルクからアケルマン、ダルデンヌ兄弟まで
【コラム9】映画都市ブリュッセル
第28章 「音楽の国」ベルギー――その変遷と現在
第29章 ベルギーのバンド・デシネ――フランス語圏のマンガ
【コラム10】英文学『フランダースの犬』とベルギー
Ⅴ 芸術大国ベルギーの歴史と現在
第30章 15、16世紀のフランドル絵画――空間構成、細部描写、油彩技法
【コラム11】16世紀の絵画――ピーテル・ブリューゲルを中心に
【コラム12】フランドル画家のイタリア留学とフランス・ローマ学院
第31章 ルーベンスの絵画芸術と政治文化――アルブレヒトとイサベラの治世の表象
第32章 ベルギー世紀末のアール・ヌーヴォーとその背景――装飾芸術の国際性と近代主義
第33章 マグリットだけじゃない! ベルギーの近代絵画――象徴主義から抽象まで
第34章 ベルギーの舞台芸術――変革をもたらした現代舞台芸術の「波」
第35章 ベルギーの近現代建築――アール・ヌーヴォーからの展開
【コラム13】言語対立と大学キャンパス
【コラム14】ロダンとル・コルビュジエの出自――彫刻や建築の分野でのベルギーの影響力
Ⅵ 中世フランドルの繁栄があればこそ
第36章 ノルマン征服の偉大なる脇役――フランドルと北欧の視点の重要性
第37章 十字軍では主役のフランドル――聖地にいちばん近い国ベルギー
第38章 最盛期は建国前という不思議な国――ブルッヘとヘントの栄光
第39章 カール5世――「太陽の沈まない帝国」の皇帝
第40章 大航海時代でも偉大なる脇役を演じたフランドル――旧教国を支え、新教国を操った影の主役?
第41章 カルヴァンが担ったキリスト教の新時代――ピカルディー人カルヴァンの立ち位置
第42章 宗教戦争・オランダ独立戦争ではむしろ主役のフランドル――分岐点は1585年のアントウェルペン陥落
第43章 オランダ独立後に残されたベルギーは――フェリペ2世以降からベルギー建国まで
【コラム15】世界遺産発祥の地ベルギー――「ベギナージュ」と「鐘楼」
【コラム16】「ロッテルダムのエラスムス」というイメージを再考する
【コラム17】「地図」と「解剖学」の揺籃の地フランドル
Ⅶ フランドル移民が世界を変えた
第44章 フランドル人が演出したオランダ黄金時代①――社会をリードしたフランドル人
第45章 フランドル人が演出したオランダ黄金時代②――東インド会社VOCこそ国家なり
第46章 フランドル派から突然のオランダ絵画の全盛へ――レンブラントとは何者か
【コラム18】ブラバント人「ファン・ゴッホ」という考え方
第47章 イギリスとフランドル①――フランドル人やユグノーの移住
第48章 イギリスとフランドル②――なぜ英国・米国にも小国ベルギーの姓が多いのか
【コラム19】ベルギーは英・仏の母なる国!?――ベルギーと「人の移動」
【コラム20】例えばスコットランド人のなかの「フランドル姓」
【コラム21】フランス語の姓の不思議
第49章 イギリスとフランドル③――対岸フランドルから見たシェイクスピア別人説
【コラム22】イギリス人作家とはいえ――チョーサー、デフォー、ディケンズ……
第50章 北米とフランドル①――「メイフラワー号」には誰がどこから乗り込んだのか?
第51章 北米とフランドル②――アメリカ建国の偉人たちの神話と真実
第52章 北米とフランドル③――ワロン人のニューアムステルダム移住
【コラム23】誰がアメリカの大学を創設したのか?
第53章 スウェーデン軍事大国化の陰に――「近代工業化の父」はリエージュ出身
第54章 南アフリカ――イギリス系とオランダ系アフリカーナーの相克?
【コラム24】南ア出身イーロン・マスクの異才、その出自は?
Ⅷ 日本とベルギー
第55章 1600年のリーフデ号はオランダ船か?――ロッテルダム出帆の背景
第56章 長崎のオランダ商館長の正体とは?――初代商館長ジャック・スペックス
第57章 総督・商館長たちの決断――タイオワン事件・島原の乱・ブレスケンス号事件
第58章 ブリュッセル生まれのフランソワ・カロン――平戸商館長が「鎖国」を阻止した
第59章 独ケンペルと米ペリー――「鎖国論者」と「開国の使者」の意外な関係
第60章 幕末維新とベルギー――最古参・最上位のお雇い外国人フルベッキとは何者か
第61章 岩倉使節団とベルギー――新生日本のモデル国を求めて
第62章 ベルギーと明治憲法――新生日本のモデル国は結局はドイツに
第63章 「原爆」と「毒ガス」――ベルギーと日本との数奇な関わり
第64章 日本の戦争とベルギー――ローズベルト、トルーマンからマッカーサーまで
【コラム25】家康の「洋時計」と家光の「オランダ釣灯籠」
【コラム26】日本に骨を埋めた三浦按針と小泉八雲を繫ぐもの
【コラム27】フェートン号事件と『ドゥーフ・ハルマ辞書』
ベルギーをもっと知るための参考文献
前書きなど
前書きに代えて――ベルギーが「ハート・オブ・ヨーロッパ」と呼ばれる理由
ベルギーという国の日本における認知度は、国としては他に例を見ないほど、この数十年ほどで劇的に高まっていると言える。筆者が1994年に『ベルギー ヨーロッパが見える国』(新潮選書)を上梓した頃は、専門的・学術的な書籍や旅行ガイドブックを別とすれば、戦後初のベルギー概説書と言われもした。当時はベルギーのことを話すのに、『フランダースの犬』の舞台がベルギーなのですと説明しなければならない状況であり、ベルギーという国が国としてあまり話題にも上らない頃だったと思う。ところがそれから30年が経過した今では、誰もがチョコレート、ワッフル、地ビールについて直ちにベルギーを連想し、スーパーなどでさえ、ベルギー産の冷凍食品(フリッツ、ムール貝をはじめとして)やお菓子が数多く並べられて、「食べ物が美味しい国」として広く認知されるに至った。10人以上の日本人サッカー選手がベルギー・リーグで活躍する時代だし、随分と身近になったものである。同様にベルギーに関する書籍に関しても、今や歴史や文学・芸術等の文化面の専門書の種類も格段に増え、カラー写真も鮮やかな世界遺産やビールやお菓子に関する本さえある。
他方で、ベルギーがなかなか理解しにくい国である状況はかつてと何ら変わらない。それはひとえに国が主としてオランダ語系とフランス語系によって成り立っていて、その情報やイメージが分散されるからだろう。しかし他方で、そのことは個人レベルでは、本来的に国際的なベルギー(フランドル)人が多数、しかも継続的に隣国オランダや対岸イギリスに移住したり、あるいはオランダの東・西インド会社からアジアや北米に進出していった歴史に象徴されるように、故国・本国の統制やしがらみ、言葉の壁も少なく、周辺のフランスやオランダ、イギリスやドイツ、さらには新大陸等の外国に進出できるということにつながる。つまりベルギー人は伝統的に、世界の幾つもの国で当該国の国民になりきって生活ができてきたのである。
(…中略…)
1830年の建国以降のベルギーの姿は、ベルギーのほんの一部のものであり、議論をその現在の国土と国民だけに限った場合には、ベルギー地域の歴史的に重要な部分が少なからず欠落してしまうのである。語弊を厭わず多少の誇張を含めて言うなら、ベルギーの立場から見れば、フランスはもともとフランク王クローヴィスのトゥールネ(ベルギー・南部ワロン地域)に発する国で、オランダもかつて移住フランドル人がその発展に大きく貢献した隣国・兄弟国であり、さらにはイギリスですら、我々の低地ゲルマン語とフランス語が混ざり合ったなれの果ての英語を使う、人種的にも文化的にも自分たちの子供のような国であり、したがってアメリカでさえ、ニューヨーク、ニューイングランド移民を含め、我々の孫のような国ではないかという意識である。冒頭で「The Heart of Europe」(フランス語でLe Cœur d'Europe)と強調したのは、Heartの「心」という意味に加えて、中世以降、フランドル人が世界に雄飛したのは、まるで「心臓」から「血液」が全身に送り出されているかのようだからである。(…)
この度の本書の改訂版においては、これまでのいわば総花的なベルギー概説書の体裁から一歩踏み出し、いわゆる「新生ベルギー」の「小さく、かつ歴史の短い」国の姿だけを平板になぞる自制的な姿勢から脱却し、それ以上に国境を越えたベルギーに関わる事象を大胆に取捨選択、取り上げることとした。そのために実際に行った執筆作業は二つで、ベルギーのとりわけ現代社会文化的な側面については、それぞれの専門の方に、より深く先鋭的な解説をお願いし、他方、人の移動による広域的なベルギーの存在や影響をも取り込んだ。
(…後略…)
追記
【執筆者一覧】
石部尚登(いしべ・なおと)
日本大学理工学部教授。社会言語学、地域研究(ベルギー)。主な著作に『ベルギーの言語政策――方言と公用語』(大阪大学出版会、2011年)、『エスノセントリズム――〈集団〉と〈境界〉を理解するための統合的視座』(翻訳、B. ビズミック著、明石書店、2026年)。
井内千紗(いのうち・ちさ)
拓殖大学商学部准教授。地域文化研究、オランダ語文芸翻訳。主な著作に『ベルギーの「移民」社会と文化――新たな文化的多層性に向けて』(共編著、松籟社、2021年)、『ネムレ!』(翻訳、A. ヴェルベーケ著、松籟社、2018年)。
岩本和子(いわもと・かずこ)
神戸大学名誉教授。フランス語文学・芸術文化論。主な著作に『周縁の文学――ベルギーのフランス語文学にみるナショナリズムの変遷』(松籟社、2007年)、『スタンダールと妹ポーリーヌ――作家への道』(青山社、2008年)。
大迫知佳子(おおさこ・ちかこ)
エリザベト音楽大学音楽学部教授、ブリュッセル自由大学哲学社会科学部LaM協力研究員。近代ベルギーの音楽とその理論。主な著作に『日本とベルギー――交流の歴史と文化』(共著、松籟社、2023年)。
大西愛子(おおにし・あいこ)
フランス語翻訳者・通訳。主な著作に『ワイン知らず、マンガ知らず』(翻訳、E. ダヴォドー著、サウザンブックス、2022年)、『原爆――科学者たちは何を夢見たのか』上・下(翻訳、D. アルカント、L.-F. ボレ脚本、D. ロディエ絵、平凡社、2023年)、『ナイルの聖母』(翻訳、S. ムカソンガ著、講談社、2024年)。
小川秀樹(おがわ・ひでき)※編著者略歴を参照。
白田由樹(しらた・ゆき)
大阪公立大学教授。フランス語圏文化学。主な著作に『装飾の夢と転生――世紀転換期ヨーロッパのアール・ヌーヴォー』(共編著、国書刊行会、2022年)、『サラ・ベルナール――メディアと虚構のミューズ』(大阪公立大学共同出版会、2009年)。
吹田映子(すいた・えいこ)
自治医科大学医学部総合教育講座(芸術学)講師。美学・美術史。主な著作に『わたしを忘れないで』(翻訳、アリックス・ガラン著、太郎次郎社エディタス、2023年)、『ベルギーの「移民」社会と文化――新たな文化的多層性に向けて』(共著、松籟社、2021年)。
武居一正(たけすえ・かずまさ)
福岡大学名誉教授、リエージュ大学、仏語系ルーヴァン・カトリック大学招聘教授、日本ベルギー学会代表。憲法学(ベルギー憲法)。主な著作に『ベルギーにおける違憲審査制の誕生とその展開』(法律文化社、2026年)、『リアリズム憲法』(編著、嵯峨野書院、2026年)。
中條健志(ちゅうじょう・たけし)
神戸大学大学院国際文化学研究科講師。移民研究。主な著作に『日本とベルギー――交流の歴史と文化』(共編著、松籟社、2023年)、『貧困へのまなざし――富裕層は貧困層をどのように見ているのか』(共訳、S・ポーガムほか著、新泉社、2024年)。
平岡洋子(ひらおか・ようこ)
美術史家。15、16世紀フランドル絵画。主な著作に『フラ・アンジェリコ――神秘神学と絵画表現』(共訳、ジョルジュディディ゠ユベルマン著、平凡社、2001年)、石鍋真監修『ルネサンス美術館』(分担執筆、小学館、2008年)。
深谷訓子(ふかや・みちこ)
京都市立芸術大学美術学部教授。近世北方美術。主な著作に『ローマの慈愛――「キモンとペロー」の図像表現』(京都大学学術出版会、2012年)、『美術フォーラム21』第52号(編著、2025年)、Kyoto Studies in Art History: Money and Medals as/in Art, vol. 3(編著、2024年)。
見原礼子(みはら・れいこ)
同志社大学グローバル地域文化学部准教授。比較教育学、子ども社会学、宗教と教育。主な著作に『イスラームの定着と葛藤』(西洋における宗教と世俗の変容 2)(共編著、勁草書房、2024年)。
三宅拓也(みやけ・たくや)
京都工芸繊維大学デザイン・建築学系准教授。近代建築史。主な著作に『近代日本〈陳列所〉研究』(思文閣出版、2015年)、『大名庭園の近代』(共編著、思文閣出版、2018年)。
山口博史(やまぐち・ひろし)
徳島大学総合科学部准教授。社会学。主な著作に「境界変動地域の社会学に向けて」(『地域社会学会年報』34号、2022年)。
吉村和明(よしむら・かずあき)
上智大学名誉教授。フランス文学、表象文化。主な著作に『アンドレ・マルローと現代――ポストヒューマニズム時代の〈希望〉の再生』(共編著、上智大学出版、2021年)、『ボードレールを読むバンヴェニスト』(共著、水声社、2026年)。
上記内容は本書刊行時のものです。
