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猛威を振るうストロングマン
ガバナンス改革と権威主義の再興隆
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2025年4月30日
- 書店発売日
- 2025年5月15日
- 登録日
- 2025年4月18日
- 最終更新日
- 2025年5月9日
紹介
21世紀の民主主義体制において最大の脅威の一つであるストロングマンの登場によって世界はどう変わったのか? またなぜ現代において独裁者は出てきてしまうのか? ロシアからトルコ、フィリピン、タイ、ミャンマー、ルワンダまで激動の社会を統治と指導者から読み解く。
目次
序章 ガバナンス改革とストロングマン[外山文子]
1 はじめに
2 ストロングマンと政治体制
3 ガバナンス改革と政治体制への影響
4 本書で扱う事例――欧州と東南アジア
5 本書の構成
第Ⅰ部 ガバナンス改革のあゆみと影響
第1章 権威主義体制におけるガバナンス改革を巡る国際社会と開発援助[小山田英治]
1 はじめに
2 ガバナンスとグッド・ガバナンス改革支援
3 ガバナンス改革を巡る議論
4 権威主義国家に対する政府開発援助
5 権威主義国家によるガバナンス改革
6 ストロングマンによるガバナンス改革――ルワンダのケース
7 権威主義国家への新たなガバナンス支援戦略
8 おわりに
第2章 東アジア経済発展の思潮変遷――市場、政府、ガバナンス[三重野文晴]
1 はじめに
2 「市場重視」と「政府の役割」の同時進行――20世紀末
3 市場を機能させる経済制度=「ガバナンス」――2000年代
4 グローバル化の後退――2010年代以降
5 おわりに
第Ⅱ部 各国のストロングマンたち(1)――民選政権
第3章 ガバナンス改革への「反動」とプーチン体制の確立[溝口修平]
1 はじめに――プーチンの登場
2 ロシアにおけるガバナンス改革
3 1990年代のトラウマとプーチンの権力確立
4 おわりに
第4章 エルドアンによるEU改革支援の「利用」と民主主義の後退[岩坂将充]
1 はじめに
2 トルコ=EU関係の推移
3 EU加盟にむけた諸改革とエルドアン・AKP政権の権力拡大
4 おわりに
第5章 フン・セン体制下における権威主義の強化メカニズム――選挙とガバナンス改革の形骸化[山田裕史]
1 はじめに
2 国連暫定統治後のカンボジア政治の展開(1993~2023年)
3 人民党の常勝を支える選挙操作と選挙サイクル
4 骨抜きにされたガバナンス改革――国軍改革と汚職取締
5 権力の個人化と世襲後も続くフン・セン体制
6 おわりに
第6章 ドゥテルテ政権下のガバナンスの安全保障化――政府‐NGO関係に着目して[木場紗綾]
1 はじめに
2 CSOの能力
3 ドゥテルテ政権の支持率とガバナンス
4 ドゥテルテ政権下でのCSOのアドボカシー
5 ドゥテルテの応答――ガバナンスの安全保障化による規制強化
6 各行政機関の対応――CSOは依然としてガバナンスのステイクホルダー
7 ボンボン・マルコスはストロングマンではない
8 おわりに――フィリピン市民社会のレジリエンス
第Ⅲ部 各国のストロングマンたち(2)――軍事政権
第7章 タイにおけるガバナンス改革と反動、軍事政権の再登場[外山文子]
1 はじめに――強権政治家の再登場
2 タイにおけるガバナンス改革
3 ガバナンス改革が生み出したストロングマン――タックシン政権
4 ガバナンス改革への反発と政治手段化――プラユット政権
5 おわりに――「グッドガバナンス」の功罪
第8章 タイにおける「ストロングマン」誕生の土壌[赤木攻]
1 はじめに
2 王権――正統性の源泉
3 反共――軍部・王室連携
4 ISOC――コングロマリット
5 ロイヤリスト共産主義者
6 タックシンとプラユット
7 おわりに
第9章 ミャンマーにおけるガバナンス改革と軍政[伊野憲治]
1 はじめに
2 テイン・セイン政権成立の背景
3 テイン・セイン政権、スーチー政権下のガバナンス改革
4 変わらぬ軍政――1988年との比較から
5 おわりに
あとがき
前書きなど
序章 ガバナンス改革とストロングマン[外山文子]
(…前略…)
5 本書の構成
本書の構成は以下の通りである。第Ⅰ部「ガバナンス改革のあゆみと影響」では、各国事例の検証に入る前に、ガバナンス改革を巡る国際援助や経済発展に関する思潮について考察を行う。第1章「権威主義体制におけるガバナンス改革を巡る国際社会と開発援助」では、国際社会による権威主義体制に対する開発援助の問題点について論じる。先進諸国ドナー(援助機関)が提供してきたガバナンス改革支援の現状とその有効性、そして権威主義体制を牽く政治リーダー(ストロングマン)がその援助をどう活用するか確認し、先進諸国ドナーによる権威主義体制のガバナンス改革支援に向けた新たな舵取りについて考察を試みる。第2章「東アジア経済発展の思潮変遷」では、20世紀末からの四半世紀における、経済発展下の東アジアでの「政府の役割・ガバナンス」についての考え方の変遷を辿る。そして、中国経済の高成長を背景として現れた強い政府介入の経済モデルと、2020年代に計画となった体制間競争下の政府介入の諸側面について考察を試みる。
第Ⅱ部「各国のストロングマンたち(1)――民選政権」では、選挙により登場した民選のストロングマンを事例として取り上げる。第3章「ガバナンス改革への「反動」とプーチン体制の確立」では、ロシアのプーチンについて扱う。強権的指導者の代表格として挙げられるプーチン政権がどのように誕生したかという点を検討する。ソ連解体後の1990年代は、ロシア国民の間では社会的・経済的混乱の時代として記憶され、1990年代後半になると国民の多くは安定を志向するようになった。プーチンは、そのような国民感情を味方につけて、自身の権力強化を実現した。体制転換期に行われたガバナンス改革への反動が、プーチンの権力強化の原動力になった。この点を明らかにするために、ロシアでどのようなガバナンス改革が行われたか、改革の反動として「秩序」や「安定」が求められる中で、プーチン政権がいかに自由の制限や権力強化を正当化してきたかについて考察する。
第4章「エルドアンによるEU改革支援の「利用」と民主主義の後退」では、トルコのエルドアンを取り上げる。1999年にトルコが欧州連合(European Union:EU)の加盟候補国となって以降、国内制度をEU基準に適合させるための諸改革が求められるようになり、エルドアン・AKP政権がこれを実現させてきた。トルコの諸改革への支援として、EUは様々なかたちで多額の支援を行ってきた。ところが、トルコでは民主主義の後退、あるいは権威主義化が著しく、EUの求める基準からはかなり遠ざかっているようにみえる。EUからの支援があるにもかかわらず、トルコではなぜこのような状況が生じたのだろうか。エルドアン・AKP政権はEUによる改革支援をどのようにとらえ、「利用」し、民主主義の後退/権威主義化につながっていったのかについて明らかにする。
第5章「フン・セン体制下のカンボジア――選挙とガバナンス改革を通じた権威主義の強化」では、カンボジアのフン・センについて扱う。1970年から内戦が続いたカンボジアでは、1991年のパリ和平協定の締結と国連による暫定統治を経て、1993年に「複数政党制に立脚した自由民主主義」を憲法で規定した新体制が成立した。しかし新体制の成立から30年以上が経過したカンボジアの現状は、民主主義が定着するどころか、1979年から政権を握るカンボジア人民党による権威主義的支配が強化されるという逆説的な展開となっている。本章で「元祖ストロングマン」と位置づけられたフン・センは、1985年1月に首相に就任し、2023年8月に長男のフン・マナエトにその座を譲るまで、約38年7か月間におよぶ長期政権を担った。なぜカンボジアでは民主化とガバナンス改革が進まず、フン・センという強権政治家の台頭と権威主義の強化に帰結したのかについて分析する。
第6章「分断、規制強化、ガバナンス――ドゥテルテ政権下の政府-NGO関係」では、フィリピンのドゥテルテについて考察する。フィリピンでは1986年に民主化が実現した。1965年から20年間にわたって大統領を務め、1972年に戒厳令を敷いて、憲法や議会を停止するなどの権威主義的な統治手法をとった「元祖ストロングマン」フェルディナンド・マルコスSr.は、市民運動、国軍改革派による離反、そして大規模な街頭抗議運動「ピープル・パワー革命」に屈し、米国に亡命したそれから30年が経ち、2016年6月、ロドリゴ・ドゥテルテという、「新しいストロングマン」型の大統領が誕生した。フィリピンでは過去10年間において、「政治的安定と暴力の不在」が大幅に改善された一方で、「法の支配」と「国民の発言力」がマイナスに転じた。では、ドゥテルテ政権下ではいったいどのようなメカニズムで、「国民の発言力」が低下したのだろうか。ドゥテルテ政権下の政府と非政府組織や市民社会組織の関係に注目して検証する。
第Ⅲ部「各国のストロングマンたち(2)――軍事政権」では、クーデタにより政権奪取した軍事政権とその政治指導者について取り上げる。第7章「タイにおけるガバナンス改革と反動、軍事政権の再登場」では、タイのプラユット・チャンオーチャー軍事政権を取り上げる。冷戦終結後の1990年代からは世界的な民主化の潮流を受け、タイも「民主主義」や「良き統治」(グッドガバナンス)を推進するようになった。1990年代以降は定期的に総選挙が実施されるようになった。ところが大方の予想に反し、21世紀のタイ政治は激しい混乱を経て、民主主義の後退を余儀なくされた。2006年と2014年の2度に渡りクーデタが起き、軍事政権により長期間の統治が行われた。なぜ21世紀に民主化の流れが逆行しはじめたのか、1990年代に始まったガバナンス改革と、2001年に誕生したタックシン・チンナワット政権下で実施された改革に焦点をあてて解明を試みる。
第8章「タイにおける「ストロングマン」誕生の土壌」では、引き続きタイを事例に取り上げる。タックシンとプラユットに限らず、タイにおいて強権的政治指導者「ストロングマン」が幾人も誕生してきた土壌について考察する。タイは他の東南アジア諸国と大きく異なっており、「国王(王朝)」の存在がタイの政治権力構造に際立った特徴を持たせている。何が国王に絶大な権威・権力を与え、物理的強制力=暴力の占有者である軍を政治主体とする権威主義体制がなぜ支配的なのかについて史的考察を行う。
第9章「ミャンマーにおけるガバナンス改革と軍政」では、ミャンマーの軍事政権であるミン・アウン・フライン政権について取り上げる。軍事政権の歴史が長いミャンマーであるが、2011年には、まがりなりにも選挙を通じて登場したテイン・セイン政権、2016年NLD政権、いわゆる「スーチー政権」の成立といった一連の流れがあった。当時、民主化という政治的方向性は後戻りすることはもはやあり得ないであろうという大方の予測が存在していた。ところがこの予測を裏切って、2021年2月にクーデタが起きた。本章では、クーデタ発生の背景の一端を、2011年以降にテイン・セイン政権及びスーチー政権が取り組んできた一連の「ガバナンス改革」との関連から明らかにする。
上記内容は本書刊行時のものです。