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右翼ポピュリズムのディスコース【第2版】 ルート・ヴォダック(著) - 明石書店
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右翼ポピュリズムのディスコース【第2版】 (ウヨクポピュリズムノディスコースダイニハン) 恐怖をあおる政治を暴く (キョウフヲアオルセイジヲアバク)
原書: The Politics of Fear: The Shameless Normalization of Far-Right Discourse, Second Edition

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発行:明石書店
B5変形判
356ページ
並製
価格 4,500円+税
ISBN
978-4-7503-5515-3   COPY
ISBN 13
9784750355153   COPY
ISBN 10h
4-7503-5515-1   COPY
ISBN 10
4750355151   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2023年1月21日
書店発売日
登録日
2022年12月13日
最終更新日
2023年1月30日
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書評掲載情報

2024-01-20 朝日新聞  朝刊
評者: 板橋拓己(東京大学教授・国際政治史)
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紹介

ナショナリズム、外国人排斥、人種差別、性差別、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪など、極右ポピュリストが煽動する政治的言説やレトリックを体系的かつ批判的に分析することで、右翼勢力が台頭するメカニズムを明らかにし、それに対して何ができるかを問いかける。

目次

 日本語版への序論
 凡例
 序文
 謝辞

第1章 ポピュリズムと政治――規範やタブーを破る
 1.1 相反する展開――新しい恐怖と新しい希望
 1.2 右翼ポピュリズムのミクロ政治を分析する
  極右ポピュリズム――形式と内容
  極右ポピュリズム――「人民」を定義してスケープゴートを生みだす
 1.3 恐怖を生みだす――排除の政治に正統性を与える
 1.4 「なんでもありだ!」――挑発やスキャンダル化、シンボルの政治を通してアジェンダを設定する
 ▶エピソード1 否定の政治――「ダビデの星はない」
  極右ポピュリズムの永久運動
 1.5 「恐怖をあおる政治」を構築する

第2章 理論と定義――アイデンティティの政治
 2.1 態度を示す?
  極右ポピュリズム――簡潔な定義に向けて
 2.2 ポピュリズムとファシズム
  左翼ポピュリズム
 2.3 19世紀と20世紀のポピュリズム――歴史的発展と国家による違い
 2.4 極右ポピュリズムの興隆――コンテクスト、要因、説明
  極右ポピュリズム――危機と失業者の増大
  権威主義、人種化、文化的亀裂
  感情の政治――怒り、ルサンチマン、恥
 ▶エピソード2 全体主義の経験――過去と向き合う
  常態化する極右ポピュリズム

第3章 国境と国民を守る――排除の政治
 3.1 ディスコース、ジャンル、極右ポピュリズムのアジェンダ
  「二重思考」、左翼ポピュリズムと極右ポピュリズム
 3.2 ディスコース・ストラテジーと排除の論法
  ディスコースの歴史的アプローチ
  論証スキーム、トポス、誤謬
 3.3 安全保障に訴える――排除の正当化
  EU懐疑主義、9.11、移民
 ▶エピソード3 ヘールト・ウィルデルスとヨーロッパにおける「ユダヤ・キリスト教の伝統」
 3.4 人種主義の否定――免責表現、否定、正当化のストラテジー
 ▶エピソード4 イェルク・ハイダーと過去を利用する政治――計算された両義性
 3.5 両義的な謝罪
 ▶エピソード5 オーストリアにおける若年難民――被害者と加害者の反転
 3.6 「政治的な正しさ」に異を唱える――「マナー違反」
 3.7 小括――恐怖をあおるミクロ政治

第4章 言語とアイデンティティ――ナショナリズムの政治
 4.1 ナショナリズムの(再)創出
  ナショナリズム、身体の政治と境界の政治
 4.2 国境、家族/身体、国家を守る
 ▶エピソード6 スイスにおける境界の政治――排除の視覚的レトリックの再コンテクスト化
 ▶エピソード7 排除のレトリック――「不法移民は出ていけ」
 4.3 壁を建設する――排除の再記号化
 4.4 都市における排除の実践を提案する
 ▶エピソード8 壁をめぐる言葉
 4.5 「母語」と市民権――排除の文化化
 ▶エピソード9 「母語」と「ドイツ語オンリー政策」の常態化

第5章 反ユダヤ主義――否定の政治
 5.1 「永遠のスケープゴート」としてのユダヤ人
  フェイスブック事件を再び検討する
  警戒派と否定派――二次的反ユダヤ主義現象
  敵対者像を作りあげる――反ソロス主義
 5.2 反ユダヤ主義のレトリックを定義する――「困った時のユダヤ人」のストラテジー
  混交的反ユダヤ主義
  いくつかの反ユダヤ主義的ステレオタイプ
  批判と否定のストラテジー
 5.3 ホロコーストの否定、ヘイト煽動、そして言論の自由
  ホロコーストの否定を定義する
  ホロコーストの否定――オーストリアの事例
 ▶エピソード10 「ローゼンクランツ事件」
 ▶エピソード11 反ユダヤ主義と被害者と加害者の反転
 5.4 小括――挑発のストラテジー

第6章 パフォーマンスとメディア――カリスマの政治
 6.1 政治の「ニューフェイス」――「新しいボトルに古いワイン」?
  重要な用語を定義する――表舞台、舞台裏、ハビトゥス
  神経言語プログラミング、プロパガンダ、反復
  極右ポピュリズムのアジェンダを遂行する――真正性とカリスマ性
 6.2 メディア、商品化、ブランド化
 ▶エピソード12 HCシュトラッヘの栄枯盛衰――多元的アイデンティティ:「どんなときにも頼りになる男」
  オーストリア自由党のアジェンダを遂行する――排除のレトリック
  シュトラッヘの失脚

第7章 ジェンダーと身体の政治――家父長制の政治
 7.1 矛盾した現象、傾向といくつかの知見
  プラスチックの女性と段ボールの男性
  交差性と「権威主義的パーソナリティ」
  極右ポピュリズムを支持する有権者のジェンダー格差
  反ジェンダー主義と「無知の傲慢」
 ▶エピソード13 スカーフとブルカ――身体の政治と外部の敵
  オーストリアにおける「スカーフ」をめぐる論争
 7.2 アメリカにおける妊娠中絶をめぐる論争――反プロ・チョイス運動、「ロー対ウェイド裁判」とその結末
 ▶エピソード14 女性の権利を議論する男性たち――妊娠中絶を例に
 7.3 補遺

第8章 「非リベラル民主主義」と新権威主義――極右ポピュリズムの恥知らずな常態化
 8.1 リベラリズムと民主主義の葛藤?
  伝統的な民主主義の慣習に従わないこと――対話や熟議の拒否
 8.2 私たちが語っているのはなにか?
  非リベラル民主主義
  (新)権威主義
 8.3 オルバーン・ヴィクトルの非リベラル民主主義
  「非リベラル民主主義」を作りあげる
  反ソロス主義の常態化
 ▶エピソード15 表舞台のオルバーン・ヴィクトル
 8.4 非リベラリズムの常態化――その長期的な影響

第9章 極右ポピュリズムの主流化
 9.1 いわゆる「新しい常態」
  (再)国民化の流れ
 9.2 排外主義的な身体の政治――東欧と西欧
 9.3 恐怖をあおる政治
 9.4 罠に陥るか、陥らないか
  ゴルディアスの結び目を断つ――新たな選択肢となる枠組みの設定

巻末情報 ヨーロッパの極右ポピュリズム政党一覧
 1 アイルランド 国民党
 2 イギリス 英国独立党(UKIP)
 3 イギリス ブレグジット党
 4 イタリア 同盟/北部同盟
 5 イタリア フォルツァ・ヌオーヴァ
 6 ウクライナ 全ウクライナ連合「スヴォボダ(自由)」
 7 エストニア エストニア保守人民党(EKRE)
 8 オーストリア オーストリア自由党(FPÖ)
 9 オランダ 自由党(PVV)
 10 オランダ 民主主義フォーラム(FvD)
 11 キプロス 国家人民戦線(ELAM)
 12 ギリシア 黄金の夜明け
 13 ギリシア ギリシアの解決策
 14 ギリシア 国民正統派運動(L.A.O.S.)
 15 スイス スイス国民党(SVP)
 16 スウェーデン スウェーデン民主党(SD)
 17 スペイン ボックス
 18 スロバキア 人民党=私たちのスロバキア(ĽSNS)
 19 セルビア セルビア急進党(CPC)
 20 チェコ共和国 自由と直接民主主義(SPD)
 21 デンマーク デンマーク人民党(DPP)
 22 ドイツ ドイツ国家民主党(NPD)
 23 ドイツ ドイツのための選択肢(AfD)
 24 ノルウェー 進歩党
 25 ハンガリー フィデス=ハンガリー市民同盟
 26 ハンガリー ヨッビク
 27 フィンランド 真のフィンランド人/フィンランド人党
 28 フランス 国民連合(RN)
 29 ベルギー 新フラームス同盟(N-VA)
 30 ベルギー フラームス・ベランフ(VB)
 31 ポーランド 国民運動
 32 ポーランド 法と正義(PiS)
 33 ポルトガル 国家刷新党
 34 マルタ マルタ愛国運動(MPM)
 35 ラトビア 国民連合
 36 ルーマニア 大ルーマニア党(PRM)
 37 ロシア エル・デー・ペー・エル(自由民主党)(LDPR)

 社会運動
  アイデンティタリアン運動
  西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者(ペギーダ)
  パウンドの家
  ノウワ・ドリャプタ(新右翼)(ルーマニアとモルドバ)

 参考文献・資料
 訳者あとがき
 索引

前書きなど

日本語版への序論

 (…前略…)

 21世紀を迎え、EU内外で権威主義や「非リベラル民主主義」がますます受け入れられるようになっているのは明らかである(Snyder 2018)。ハンガリーやポーランド、トルコ、アメリカで、メディアや司法、研究、教育といった民主主義の根幹をなす諸制度が脅かされ、弱体化している。極右ポピュリズム政党はさらなる「直接民主主義」を訴えながら、透明性や専門家の意見、少数派の反対などをまったく無視して矢継ぎ早に新しい法律を制定している。その一方で、すでに述べたように、非リベラルな慣行は常態化し、保守派のエリートたちによって取り入れられている。
 私の定義する恥知らずな常態化が意味するのは「インポライトあるいは恥知らずな振る舞い」の常態化である。明らかに極右ポピュリズムのアジェンダ(およびそれに関連するレトリック)は政治の主流となりつつあるか、あるいはすでに主流となっている。それゆえに、極右の政策の常態化がますます進展し、さらなる広まりをみせている。かつてはタブーとされていた話題や言葉づかい、インポライトあるいは恥知らずな振る舞い(「マナー違反」)の常態化である。政治文化にまつわる伝統的な規範や規則、すなわち交渉や熟議についての規範や規則は絶え間ない挑発により侵害され、それがメディアを介して拡散され、主流の保守派がお墨付きを与えることで常態化される。私が提案するのは、こうした政治文化の新しい特徴を「恥知らずな常態化」と呼ぶことである。
 エクストロームとヨハンソンは「舌禍事件」を偶発的な性格をもつものと定義した(Ekström andJohansson 2008)。それとは対照的に、極右ポピュリズム政治家は自らすすんで戦略的にスキャンダルを巻き起こそうとしている。そうしたスキャンダルは否定的な反応を生じさせるだけでなく、支持者からは肯定的に評価され、結果として自らの指導力の源泉となる社会的、政治的態度の二極化がもたらされるという現実を、彼らはうまく利用しているようにみえる。ヴォダックとカルペパー、セミーノは、シルヴィオ・ベルルスコーニとドナルド・トランプの類似点と相違点を比較し、「恥知らずな常態化」と「インポライトネス」が組み合わさることによるあからさまにインポライトで文字通り侮辱的な要素について詳細に論じている(Wodak et al.2020)。政府の問題を含んだ物議を醸す意思決定から国民の目をそらすために挑発が利用されることがしばしばみられる。一例を挙げると、マッキントッシュが、「トランプと保守的なフォックス・ニュースとの蜜月関係と組み合わさることで、ソーシャル・メディアがトランプと彼の応援団――しばしば内輪で政治的な宣伝文句を増幅させる――のあいだにレトリックのフィードバック・ループを生じさせてきたこと」について詳細な説明をおこなっている(McIntosh2020:8)。

   *

 この第2版における中心的な課題は、リベラル民主主義国で生じている大規模な変革、恥知らずな常態化、ディスコースの変化を明らかにすることであった。それらは司法の独立、ジェンダー平等、報道の自由や思想の自由といった民主主義の諸制度やその根幹をなす諸権利を空洞化させる危険性がある。そうした変化は少しずつゆっくりと、ときにほとんど気づかないうちに生じていることに気が付くことが重要である。したがって、私たち全員に日常の出来事や日々の政治の監視を怠らず、両親や祖父母の世代が多大な闘争を通じて達成した自由を守り通す義務がある。私たちはそうした自由におおいに感謝しなければならないのです。

著者プロフィール

ルート・ヴォダック  (ルート ヴォダック)  (

英国ランカスター大学言語学・英語学部、ディスコース研究講座の特別教授を経て、現在、同大学名誉特別教授(Emerita Distinguished Professor)、オーストリア・ウィーン大学言語学部退職教授(University Professor i. R.)、英国社会科学アカデミー・フェロー。欧州アカデミー会員(2010年)、オーストリア共和国功労勲章受勲(2011年)。Journal ofLanguage and Politics、Discourse & Society、Critical Discourse Studiesの共同編集者。
主要研究テーマ:ディスコース研究(ディスコースの歴史的アプローチ)、組織ディスコース、社会言語学、言語と政治/政治の言語、ポピュリズム、偏見と差別、ジェンダー研究、民族誌的手法を用いた批判的談話分析
近著:
Identity Politics Past and Present: Political Discourses From Post-War Austria to the Covid Crisis. Exeter: University of Exeter Press, 2022.(Markus Rheindorfとの共著)
Politik mit der Angst: Die schamlose Normalisierung rechtspopulistischer und rechtsextremer Diskurse. Überarbeitete underweiterte Auflage, Wien/Hamburg: Konturen, 2020.
Österreichische Identitäten im Wandel: Empirische Untersuchungen zu ihrer diskursiven Konstruktion 1995-2015. Berlin:Springer, 2020.(Rudolf de Cillia, Markus Rheindorf, Sabine Lehnerとの共著)
Sociolinguistic Perspectives on Migration Control: Language Policy, Identity and Belonging. London: Multilingual Matters,2020.(Markus Rheindorfとの共編著)
Europe at the Crossroads: Confronting Populist, Nationalist and Global Challenges. Göteborg: Nordicum, 2019.(Pieter Bevelanderとの共編著)

石部 尚登  (イシベ ナオト)  (

現職:日本大学理工学部・准教授。
専門:言語文化学、社会言語学。
著書:『ベルギーの言語政策:方言と公用語』(大阪大学出版会、2011年)、『「ベルギー」とは何か?:アイデンティティの多層性』(共編著、松籟社、2013年)、『ベルギーの「移民」社会と文化:新たな文化的多層性に向けて』(共著、松籟社、2021年)、『現代ベルギー政治:連邦化後の20年』(共著、ミネルヴァ書房、2018年)、『ことばの「やさしさ」とは何か:批判的社会言語学からのアプローチ』(共著、三元社、2015年)。
翻訳書:『右翼ポピュリズムのディスコース:恐怖をあおる政治はどのようにつくられるのか』(共訳、R・ヴォダック著、明石書店、2019年)、『批判的談話研究とは何か』(共訳、R・ヴォダック,M・マイヤー編、三元社、2018年)、『言語帝国主義:英語支配と英語教育』(共訳、R・フィリプソン著、三元社、2013年)、『批判的談話分析入門:クリティカル・ディスコース・アナリシスの方法」(共訳、R・ヴォダック,M・マイヤー編、三元社、2010年)。

上記内容は本書刊行時のものです。