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食文化からイギリスを知るための55章
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年1月10日
- 書店発売日
- 2023年1月5日
- 登録日
- 2022年11月17日
- 最終更新日
- 2023年1月30日
紹介
イギリス料理は「まずい」と言われるが、イギリスにおける食品の歴史をたどり、逸話に満ちた食の文化史をめくっていくと、考えが変わるかもしれない。歴史と伝統を重んじる一方で、新たなものをおおらかに受け入れかつ生み出すイギリス像を食文化を通して見せる。
目次
はじめに
Ⅰ 食卓の文化史
第1章 ローマ時代の食卓――地中海文化の洗礼を受けて
第2章 アングロ・サクソン時代の食卓――地産地消・自給自足の単純素朴な料理
【コラム1】馬肉の話
第3章 ノルマンの食卓――ワイン美食のノルマン人とビール素食のサクソン人
【コラム2】庶民はpig、支配者はpork
第4章 近世の食卓――豊かさを増す飽食の時代
第5章 激動の17世紀の食卓――質素倹約への反動
第6章 富と権力の18世紀の食卓――農業改革でロースト・ビーフが国民食に
第7章 産業革命時代の食卓――食事に見る上・中・庶民のステイタス
第8章 ヴィクトリア時代の食卓――帝国の隆盛と料理法の発展
【コラム3】茶とアヘン戦争
第9章 世界大戦中の食卓――栄養重視でまずいイギリス料理が定着
第10章 現代の食卓――変わりゆくイギリスの食文化
Ⅱ 外国料理天国イギリス
第11章 スコットランド料理――気候風土が生み出す独自の食文化
【コラム4】ハギス
第12章 ウェールズ料理――ラム・リーキ・レイヴァーが生み出すウェールズの味
第13章 フランス料理――カタツムリ、カエルの足からフォアグラ、キャビアまで
第14章 イタリア料理――高級料理から手軽な家庭料理まで
第15章 インド料理――国民食の一角を占めるカレー料理
第16章 中国料理――津々浦々に中国料理のテイクアウェイの店
第17章 ギリシャ料理――ワイン、オリーブオイルと様々なハーブが特徴
第18章 トルコ料理――世界三大料理の一つ
第19章 その他のエスニック料理――食のデータにあらわれたイギリスの食文化
Ⅲ 食材の文化史
第20章 ビーフイーターの国――主食は牛肉?
【コラム5】インド人と牛肉
第21章 豚肉とイギリス人――ベーコン作りは秋の風物詩
【コラム6】タブーとなったブタ
第22章 自由にできない森と川の恵み――領主が握る所有権
第23章 大麦とオート麦の話――イングランドとスコットランドの主食争い
第24章 小麦とライ麦の話――競い合うイギリスパンとフランスパン
第25章 ポテトの登場――貧民食から万能食へ
第26章 野菜の話――野草摘みからサラダレシピまで
【コラム7】レタスの話
第27章 紅茶の話――砂糖とミルクを入れて国民的飲料に
第28章 砂糖の話――薬、贅沢品から調味料へ
【コラム8】ロンドンのコーヒーハウスの風景
Ⅳ イギリスの食習慣
第29章 イングリッシュ・ブレックファストとコンチネンタル・ブレックファスト――ヨーロッパとは違う、イギリス独自の朝食文化
【コラム9】イングリッシュ・ブレックファストのおもいで
第30章 ランチとディナーの歴史をたどる――ディナーは昼食?それとも夕食?
第31章 ディナーとサパー――生活様式の変化と言葉の変遷
【コラム10】イギリス国王の食卓
第32章 アフタヌーン・ティーとハイ・ティー――対照的な二つのティー
第33章 テイクアウェイ――各種持ち帰り用料理
Ⅴ 本当はおいしいイギリス料理
第34章 フィッシュ・アンド・チップス――イギリスの伝統的な国民食
第35章 サンデー・ロースト――イギリスの正統性の象徴として
第36章 シェパーズ・パイ――階級を超えて愛される定番料理
第37章 ビーフ・ウェリントン――名前が一人歩きしたイギリス風料理
第38章 ヨークシャー・プディング――イングランド北部生まれ、スターターの女王
【コラム11】ステーキ・アンド・キドニー・パイ
第39章 焼き菓子の原点――スコーンとショートブレッド
第40章 クリスマスの究極のデザート――クリスマス・プディングとミンス・パイ
【コラム12】ブラック・プディング
第41章 マーマイト――イギリス文化の一つとなった食品?
第42章 キッパー――イギリス国民を支えてきた栄養食
Ⅵ 飲み物の文化史
第43章 ワインの話――ビールの国のワイン談義
第44章 ミードとサイダー――中世より伝わる伝統的なお酒
第45章 エールの話――イギリス伝統のビール
第46章 ジンの時代――ホガースの描いたジン横丁の退廃
第47章 禁酒法の時代――禁酒の歴史と現在の推奨摂取量
【コラム13】チョコレートは飲み物
第48章 ビターとラガー――ビールを巡る英・独のせめぎ合い
Ⅶ 文学に見る料理
第49章 シェイクスピアに見る料理――マジパン、肉のロースト、砂糖
第50章 ドライデンとコーヒーハウス――紳士の社交場
第51章 ジェイン・オースティンと料理――作家の食生活が料理本に
第52章 児童文学に見る料理――物語世界に現実味を添える「イギリスらしさ」
第53章 フィールディングとロースト・ビーフ――愛国者の味
第54章 ジョージ・オーウェルと紅茶――あのポレミックな作家がもらした紅茶講話
第55章 ジョージ・エリオット文学と料理の心――人生のユーモアと悲哀に溢れるお菓子屋さん
おわりに
図版出典一覧
参考文献
前書きなど
はじめに
料理といえば誰もが思い浮かべるのがフランス料理であろう。洋食はどうも苦手とためらっている人は中国料理を挙げるかもしれない。さらに問い詰めれば、イタリア料理やインド料理などは出てきてもイギリス料理は出てこない。これは外国人に聞いても同じで、最近では日本料理も健康食として人気があるが、それでもイギリス料理は出てこない。
それではイギリスに料理がないかといえば決してそのようなことはなく、おいしい料理は山ほどある。にもかかわらず、「イギリス料理はまずい」と、イギリス人を含めて思っているのはなぜか?こんな疑問を持ってイギリスに興味を持っている人々に聞いてみると、異口同音に「おいしいものはいっぱいあるよ」との答えが返ってくる。この落差はいったいどこから生まれてくるのかと少し掘り下げると、「まずいイギリス」の烙印は歴史と深い関係があることがわかってきた。さらに掘り下げると食品にはそれぞれ歴史があって、食の文化史は興味深い逸話に満ちていることもわかった。
(…中略…)
ところが問題はまだあった。一つは、栄養がある良い食品が必ずしも「おいしい」とは限らないという皮肉な事実であり、もう一つは外国の食材を使わない食生活は確立したものの、そこに味という要素が欠落していたことである。この過程で、イギリス人が手にした勲章が「イギリスはおいしい」とあてこすられるほど有名になったイギリス料理のまずさである。世界の市場を自らの台所としていたイギリスが、孤立して初めてわかったのが、その食文化が世界規模の多様性に支えられていたという事実である。
それから半世紀経って、現代のイギリスは再び世界中から食材を集めた。例えばロンドンなどには、世界各国のレストランが軒を連ね、おいしいものに事欠かない。ロンドン旅行の目的は、おいしい店を巡ることだという友人もいる。ロンドンでは世界の一流料理が食べられるからである。
ここで問題は、おいしい料理の中にイギリスの伝統料理が含まれるか否かということである。最近ではおいしい伝統料理の店が、グルメ雑誌に取り上げられたり、ネットで評判になったりしてはいるが、その数はまだ多くないという人も多い。
イギリス料理がおいしいかどうかは、本に取り上げられ、ネット上で論じられているが甲論乙駁、なかなか決着はつかない。その原因は、味覚は個人によって極端に好き嫌いが分かれ、画一的な線引きなど不可能だからである。なれば、多くの人々に自分の舌で味わってもらうしかない。しかしながら、味を言葉で表現することはほぼ不可能で、現在の「食レポ」を見ても察しはつくはずである。おそらく、シェイクスピアやミルトンなど大詩人をもってしても味や香りを言葉で表現することはできないであろう。この種の問題に関しては、できるだけ多くの人の経験を集めて集大成とし、帰納法的に判定するのが最善である。
とはいえ、アンケートを取ってその結果を見ても味気ない話である。なれば、その結論に至った様々な背景や逸話を含めてイギリスの食を紹介してはどうか、文章で表現できない味や匂いの区別の代わりに有名作家の食にまつわる逸話を紹介したらどうか、生活に最も密着する食を詳察することによって社会・文化の知られざる側面を紹介したらどうか、そうすれば必然的に幅の広い食文化の集大成になるはずである。
追記
【執筆者一覧】
石原孝哉(いしはら・こうさい) ※編著者プロフィールを参照
市川仁(いちかわ・ひとし) ※編著者プロフィールを参照
宇野毅(うの・たけし) ※編著者プロフィールを参照
浅井亜紀子(あさい・あきこ)
桜美林大学リベラルアーツ学群教授 文化心理学・異文化コミュニケーション
主要著書:『増補 異文化接触における文化的アイデンティティのゆらぎ――外国語指導助手(ALT)のJETプログラムでの学校体験および帰国後のキャリア』(明石書店、2022)、『EPAインドネシア人看護師・介護福祉士の日本体験――帰国者と滞在継続者の10年の追跡調査から』(共著、明石書店、2020)、『集団コミュニケーション――自分を活かす15のレッスン』(実教出版、2016)、『天馬山――北朝鮮からの引揚げ者の語り』(編著、春風社、2016)、『異文化コミュニケーション事典』(編集、春風社、2013)。
安藤聡(あんどう・さとし)
明治学院大学文学部教授 イギリス小説・児童文学・イギリス文化史
主要著書:『ファンタジーと歴史的危機――英国児童文学の黄金時代』(彩流社、2003)、『ナルニア国物語解読――C.S.ルイスが創造した世界』(彩流社、2006)、『英国庭園を読む――庭をめぐる文学と文化史』(彩流社、2011)、『ファンタジーと英国文化――児童文学王国の名作をたどる』(彩流社、2019)、『英国ファンタジーの風景』(日本経済評論社、2019)。
石原千登世(いしはら・ちとせ)
エッセイスト イギリス文学・文化
主要著書:『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、、2018)、『ロンドンを旅する60章』(共著、明石書店、2012)、『イギリス検定――あなたが知っている、知らないイギリスの四択・百問』(共著、南雲堂フェニックス、2011)、『イギリスの四季――ケンブリッジの暮らしと想い出』(共著、彩流社、2012)。
市川雅子(いちかわ・まさこ)
織作家
主要著書:『イギリスの四季――ケンブリッジの暮らしと想い出』(共著、彩流社、2012)。
糸多郁子(いとだ・いくこ)
桜美林大学リベラルアーツ学群教授 イギリス小説・イギリス文化
主要著書:『D.H.ロレンスと新理論』(共著、国書刊行会、1999)、『喪失と覚醒――19世紀後半から20世紀への英文学』(共著、中央大学出版部、2001)、『英語世界へのアプローチ』(共著、三修社、2006)、『イギリス小説の愉しみ』(共著、音羽書房鶴見書店、2009)、『第二次世界大戦後のイギリス小説――ベケットからウィンターソンまで』(共著、中央大学出版部、2013)。
川成晴美(かわなり・はるみ)
エッセイスト イギリス文学 イギリス文化
主要著書:『子連れママイギリス滞在ふんせん記』(光人社、1996)、『イギリスの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016)、『イギリス文化事典』(共著、丸善出版、2014)、『ハプスブルグ事典』(共著、丸善出版、2022)、『南スペイン・アンダルシアの風景』(共著、丸善出版、2005)、『スペインと日本人』(共著、丸善出版、2006)。
川成洋(かわなり・よう)
法政大学名誉教授、一橋大学社会学博士、武道家・評論家、アジア・ユーラシア総合研究所顧問 スペイン現代史
主要著書:『スペイン文化事典』(共編著、丸善出版、2011)、『イギリス文化事典』(共編著、丸善出版、2014)、『ハプスブルグ事典』(共編著、丸善出版、2022)、『日本文化事典』(共編著、丸善出版、2016)、『社会学辞典』(共著、弘文堂、1994)、『ケルト文化事典』(共著、東京堂出版、2017)。
今野史昭(こんの・ふみあき)
明治大学商学部准教授 イギリス文学
主要著書:Re-imagining Shakespeare in Contemporary Japan: A Selection of Japanese Theatrical Adaptations of Shakespeare(共著、The Arden Shakespeare、2021)、William Shakespeare and 21st-Century Culture, Politics, and Leadership: Bard Bites(共著、Edward Elgar、2021)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)、『田園のイングランド――歴史と文学でめぐる四八景』(共著、彩流社、2018)、『ロンドン歴史地名辞典』(共訳、柊風舎、2017)。
佐々木隆(ささき・たかし)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授 国際文化交流
主要著書:『日本シェイクスピア研究書誌(平成編)(追加増補版)』(多生堂、2022)、『日本シェイクスピア劇上演年表(1866年~2019年4月)』(多生堂、2021)、『英語文化研究――日本英語文化学会創立45周年記念論文集』(共著、春風社、2021)、『田園のイングランド――歴史と文学でめぐる四八景』(共著、彩流社、2018)、『イギリスの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016)。
佐藤郁子(さとう・いくこ)
北洋大学特任教授 イギリス小説・イギリス文化
主要著書:『ブロンテと芸術――実生活の視点から』(共著、大阪教育図書、2010)、『イギリス文学と文化のエートスとコンストラクション』(共著、大阪教育図書、2014)、『文芸禮讃』(共著、大阪教育図書、2016)、『ロンドンを旅する60章』(共著、明石書店、2012)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)。
佐藤豊(さとう・ゆたか)
青森大学社会学部教授 イギリス文学(17世紀)
主要著書:『ドライデン『平信徒の宗教』と『メダル』――近代イギリス史の中の詩と政治』(彩流社、2012)、『ミステリアス・ストレンジャー44号』(共訳、彩流社、1995)、「(翻訳)『雌鹿と豹』第二部(1687年)」(『研究紀要』第43巻・第44巻合併号、青森大学学術研究会、2021)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)。
白鳥義博(しらとり・よしひろ)
駒澤大学総合教育研究部教授 イギリス文学(18世紀)
主要著書:『ロンドンを旅する60章』(共著、明石書店、2012)、『イギリスの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)、『田園のイングランド――歴史と文学でめぐる四八景』(共著、彩流社、2018)。
高野秀夫(たかの・ひでお)
駒澤大学名誉教授 イギリス文学(19世紀) ジョージ・エリオット
主要著書:Cross-Cultural Reading of George Eliot(The Hokuseido Press、2003)、『ジョージ・エリオットの異文化世界』(春風社、2014)、『中世英文学の日々に――池上忠弘先生追悼論文集』(共著、英宝社、2021)、『禅の諸展開――大谷哲夫先生傘寿記念論集』(共著、鳳仙学報、2022)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)、『田園のイングランド――歴史と文学でめぐる四八景』(共著、彩流社、2018)。
滝珠子(たき・たまこ)
Cambridge日本人会主宰
主要著書:『花恋鳥のモノローグ――イギリス日記』(THE IRIS PRESS、2005)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)、『イギリスの四季――ケンブリッジの暮らしと想い出』(共著、彩流社、2018)。
千葉茂(ちば・しげる)
画家・作家、元民間企業研究員 金属材料工学
主要著書:『ヨークシャーの丘からイングランドを眺めれば[上][下]』(私家版、2008)、『遥かなるわがヨークシャー――水彩画でめぐる旅』(私家版、2012)、『イギリス検定――あなたが知っている、知らないイギリスの四択・百問』(共著、南雲堂フェニックス、2011)、『ロンドンを旅する60章』(共著、明石書店、2012)、『イギリスの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016)、『田園のイングランド――歴史と文学でめぐる四八景』(共著、彩流社、2018)。
塚本倫久(つかもと・みちひさ)
愛知大学国際コミュニケーション学部教授 英語学
主要著書:『プログレッシブ英語コロケーション辞典』(小学館、2012)、『プログレッシブ英語コロケーション練習帳』(小学館、2014)、『英語辞書をつくる――編集・調査・研究の現場から』(共著、大修館書店、2016)、『イギリスの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)。
福田一貴(ふくだ・かずたか)
駒澤大学総合教育研究部教授 中世英語英文学・英語史
主要著書:『ロンドンを旅する60章』(共著、明石書店、2012)、『イギリスの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016)、『イギリス文学を旅する60章』(共著、明石書店、2018)、『田園のイングランド――歴史と文学でめぐる四八景』(共著、彩流社、2018)、『「おかしな英語」で学ぶ生きた英文法――間違いだらけの英語掲示&正しい用例30』(共著、亜紀書房、2020)。
上記内容は本書刊行時のものです。