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アメリカの黒人保守思想
反オバマの黒人共和党勢力
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年10月
- 書店発売日
- 2014年10月25日
- 登録日
- 2014年10月21日
- 最終更新日
- 2014年10月21日
書評掲載情報
2016-10-30 |
朝日新聞
朝刊 評者: 生井英考(立教大学教授・アメリカ研究) |
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紹介
二大政党制の米国で黒人の大半がオバマ大統領率いる民主党を支持しているが、人種構成がより多様になりつつある現在、「小さな政府・自助努力」を掲げる共和党支持の黒人保守派の活躍も目立ち始めている。彼らに焦点をあて、次世代の米国の行方を考察する。
目次
はじめに
第1章 歴史に見る黒人の保守思想の流れ
脱人種というけれど
オバマに対抗する黒人保守派
アンクル・トムという汚名
第2章 ブッカー・T・ワシントンの保守思想
一 影響を与えたダグラスとリンカン
黒人のアフリカ植民とフレデリック・ダグラス
リンカンの黒人観とダグラスの評価
二五歳で職業専門学校の開設
二 白人指導者からの信頼
白人を安心させたアトランタ博覧会演説
大企業家とのパイプ
四人の大統領との信頼関係
ブッカー・T・ワシントンは黒人にとって何をしたか
今日におけるワシントンとダグラス
第3章 黒人保守派の活動家・理論家
一 「アメリカ黒人から最も憎まれている黒人」 ウォード・コナリー
保守思想の実践家
カリフォルニア大学理事としてアファーマティブ・アクション廃止
「キング牧師の墓に石を投げる」
州のアファーマティブ・アクション廃止運動
ワシントン州他での廃止運動
自助・自立は少数民族にも実行可能
二 代表的な「黒人保守派」の理論家 シェルビー・スティール
白人の人種差別意識と黒人の依存心の追及
「黒人(ブラック)」か「アフリカ系アメリカ人」か
なぜ「黒人保守派」になったのか
公民権運動の再考
白人の罪悪感と人種的優遇措置
オバマをどう評価しているか
三 黒人保守思想のカリスマ的指導者 トマス・ソーウェル
マルクス主義者からカリスマ的な保守思想家へ
人種差別と黒人の貧困は関係ない
出身国からくる違い
黒人の自尊心を傷つけるアファーマティブ・アクション
医療過誤事件を起こした黒人医師
白人と黒人のIQ差
移民問題とIQ
人種戦争は本当に起こるか
第4章 黒人共和党の出現
一 奴隷解放後の黒人の政治参加
リンカンの党から議会へ進出
黒人はなぜ民主党を支持するようになったのか
ニューディール政策の黒人への影響
二 今日の黒人共和党の保守哲学
なぜ黒人で共和党員なのか
成功への七つのカギ
黒人差別の党は民主党か共和党か
キング牧師は民主党支持か、共和党支持か
非党派的態度を貫く
民主党に謝罪を求める訴訟
奴隷制への賠償は可能か
奴隷制賠償の難しさ
三 共和党内における黒人党員の役割
二〇一〇年は「黒人共和党員の年」
党内での役割はあるのか
党勢拡大のためにマイノリティへのアウトリーチ
国民的英雄ジャッキー・ロビンソンの活用
黒人コミュニティに乗り込む大胆な戦術
マイノリティへのアウトリーチに水を差す行為
英雄として超党派の人気のコリン・パウエル
黒人女性として最高権力者のコンドリーザ・ライス
今後はどこへ向かうのか
第5章 キングの夢とオバマ
一 歴史に残る大統領としてのオバマ
人種を乗り越える
共和党の反オバマ感情
キングの夢はどこまで実現したか
キングが想定外の生活崩壊
二 オバマの今後の課題
オバマは黒人大統領になれるか
マイノリティ男性の救済策の必要性
若者への期待
強権を使って任期最後の仕上げ
国論を二分するファーガソン黒人射殺事件
おわりに
注
主要参考文献リスト
索引
前書きなど
はじめに
オバマ大統領のまさかの二期目が始まった二〇一三年は、アメリカの黒人問題を考えるうえで最適な年ではないかと思いついた。オバマはおそらく歴史に残る業績をあげようとしている。手本としているのがリンカン大統領で、その憧れの大統領が奴隷解放宣言を発表してから一五〇年になる。さらに、キング牧師が首都ワシントンのリンカン記念堂前で、歴史に残る「私には夢がある」演説を行ったのが五〇年前である。オバマの就任演説とキングの祝日が重なるというおめでたいハプニングまで重なった。
アメリカはリーマン・ショック後の政治・経済の混乱が収まりつつある。二〇一二年、オバマは再選されたとはいえ僅差の勝利であり、議会は、上院はなんとか過半数を維持したとはいえ、下院では共和党の支配を覆すことはできなかった。各分野におけるオバマ政権一期目の評価がいろいろと出されたが、一番危惧を感じているのは、オバマに対する白人の人種偏見が最初に当選した当時よりも強くなっていることだ。共和党の反オバマ戦略が効果を上げている部分もあるだろうが、アメリカ合衆国大統領の座に黒人がいることに不快感をもつ白人がまだいるということかもしれない。民主党支持者の間でさえ、あからさまな差別感情をあらわさない人でも、深層心理を調べると黒人への偏見を秘めているという調査結果もある。また、医療保険制度改革には国民の半数以上がいまだに反対しているが、クリントン大統領(当時)によるものなら賛成するという、驚くべき調査さえあるのだ。
著者は四半世紀ほど前に『アメリカ黒人のジレンマ――「逆差別」という新しい人種関係』(明石書店)を出版し、白人の黒人に対する根強い偏見や黒人保守派などについて論じた。現代の黒人保守派に関する論考は、日本ではほとんどなかったと思う。その意味ではユニークな問題提起ができた。しかし当時、黒人大統領が誕生するなどとは夢にも考えていなかったので、そこからどんな問題が生じるかも想定外のことであった。今日では、黒人大統領の出現で脱人種差別の時代が来たと評価されているが、著者は、差別や偏見がかえって強くなったのではないか、と一般とは逆の考えをもつようになった。その一番の原因は、共和党がリベラルな大統領に抵抗するのはイデオロギー的に当然なのだが、オバマに対しては執拗な、非政治的な理由からも反対姿勢を示しているからだ。あからさまな人種差別的言辞を弄するようなことはそれほど多くはないが、オバマの政策に徹底的に反対し、議会が動かなくなってしまうことがよくある。他の民主党大統領に対してなら、ここまで反対しないだろうと思われることでも、心の奥底にある黒人大統領をなんとかして貶めてやるという共和党保守派の執念のようなものを感じざるをえない。
もう一つ奇妙に感じているのは、黒人大統領の誕生が黒人保守派の台頭を確かな運動に変質させつつあることである。四半世紀前に拙著で描いた黒人保守派は、ごく少数の例外的存在としての黒人学者や政治家だったが、今日では小粒ながら一つの政治勢力になっているといえる。奴隷解放運動の時代から、黒人指導者の間に黒人のあり方についていろいろなイデオロギー的な違いがあり、それが今日まで形を変えて継続しているのだが、その違いが、オバマの大統領当選でいっそう鮮明になっている。とりわけ、黒人がけっして一枚岩でないことを示している。共和党の白人保守派よりさらに右に位置するような立場でオバマを批判する黒人さえ出てきた。まだ少数派であるとはいえ、伝統的な公民権運動とは異なる思想体系が少しずつ形成されつつあるのは興味深い。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。