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NHK受信料は拒否できるのか
受信料制度の憲法問題
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2008年1月
- 書店発売日
- 2008年1月10日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
NHK受信料の支払いは義務か? 憲法に謳われる思想の自由に抵触しないのか? 憲法学者が放送法とNHK放送受信規約を精読し、種々の判例に照らして受信料制度の問題点を喝破! 払うべきか払わざるべきか、「発言権なければ受信料なし」の立場で考える。
目次
はしがき
序説
第1章 放送受信契約と受信料についての疑問
第2章 受信料制度の目的および受信料の法的性質と根拠
第1節 受信料制度の目的
(1)NHKと受信料の目的
(2)「編集の自由」と「発言権なければ受信料なし」
(3)「経営の独立」と経営委員会
第2節 受信料の法的性質
第3節 受信料の法的根拠
(1)放送法32条の解釈
(2)日本放送協会放送受信規約の解釈
第3章 受信料制度の憲法問題
第1節 思想・良心の自由との抵触性
(1)思想・良心の自由と受信料制度
(2)判例
第2節 表現の自由─知る権利─との抵触性
(1)知る権利と「放送」
(2)知る権利と「情報の遮断」
第3節 幸福追求権─自己決定権─との抵触性
(1)幸福追求権と自己決定権
(2)自己決定権と情報の選択的摂取
終章 受信料擁護の若干の論説の検討
あとがき
資料
1 放送法
2 日本放送協会放送受信規約
前書きなど
はしがき
政府・自民党は、1966年3月、「受信料の支払い義務を明らかにする」ために、「放送法の一部を改正する法律案要綱」に基づく放送法改正案を国会提出し、また、1980年3月、放送法32条の見出しを「受信料の支払」に改め、同条1項中の「協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」を「その設置の時から協会に受信料を支払わなければならない」に改めた放送法改正案を国会提出した。しかし、いずれの法案も、審議未了で廃案となった(NHK放送文化研究所編『20世紀放送史〔資料編〕』2003年、257~258頁参照)。
その後、2006年1月、自民党の通信・放送産業高度化小委員会と総務部会が合同で、NHK(日本放送協会)の特殊法人性を維持するという前提に立った「放送受信料の支払い拒否に対する罰則の導入」を内容とする放送法改正の検討を始めた。この具体化を受けて、政府は、NHK受信料の支払いの義務化を定めた放送法改正案を国会へ提出する準備を進めてきたが、2007年3月、総務省は、当面、放送法改正案の国会提出を見送った。
受信料支払い義務化法案は、現行の放送法が、受信設備を設置したらNHKと受信契約する義務を定めているものの、受信料を支払う義務を明記していないことの「不備」を是正しようとするためのものである。
ところが、これまでNHKは、現行の放送法の「不備」をさほど深刻な問題だとは考えていなかった。少なくとも、NHK職員のいわゆる「不祥事」という名の犯罪の続発を主な原因とする受信料支払いの拒否の増大までは、そうである。
NHKは、現行の受信料制度の運用上、意図的に「契約義務」と「支払い義務」を分けてこなかった。たとえば、NHKは、広く市民に対して、「第32条第1項で『NHKの放送を受信できる受信設備を設置した者は、NHKと受信契約をしなければならない』と定めています。したがって、テレビをお備えであればNHKを見る見ないにかかわらず、受信料をお支払いいただくことになります。」と説明していた(この詳細は本文参照)。
善良な市民側もこの説明を真に受けて、従順に受信料を支払ってきたというのが、これまでの実態である。ところが、受信料支払い拒否の増大によって、あらためて「契約義務」と「支払い義務」の相違がクローズアップされてきた。上述の受信料支払い義務化法案は、これへの政府の対策であった。
しかし、筆者は、「契約義務」と「支払い義務」の相違はNHK受信料制度の本質的問題とは考えない。受信設備を設置しただけで、ほんとうに、市民はNHKと受信契約をしなければならないのか、そしてこの契約をしたら受信料を支払わなければならないのかが、受信料制度の本質的問題であると筆者は考える。NHK受信料制度とその運用実態は、違法・違憲の可能性は全くないのか。これを考察したのが本書である。
本書執筆のための文献・資料を検討している際に、一つ奇妙なことに気付いた。それは、NHKに関する議論は表面的にはかまびすしいが、内容的には、批判らしきものも含めて、NHK問題の本質をえぐるような論説はきわめて少ないことである。
このことと関係するであろうが、長らくメディア界にいて、業界内部を観察してきた田原茂行は、こういう。NHKの「不祥事」との関係で、「活字メディアでは、多数のジャーナリストが発言したように見えるが、著名なオピニオンリーダー、ジャーナリストは完全に沈黙していた。“NHKの構造的な問題”という言葉がしばしば使われながら、構造を解明する論議はあまりなかった。海老沢会長の辞職を迫る以外に、抜本的な制度改革を迫る意見は乏しかった。これは、ジャーナリズムも学界も識者も、NHKという存在に対し、まともに批判的に向かい合う姿勢をもっていないことを物語っている。」(田原茂行『視聴者が動いた─巨大NHKがなくなる』草思社、2005年、40~41頁)。
要するに、NHKに、直接・間接に取り込まれているのである。
この取り込まれは、とりわけ、受信料問題について、その現象が顕著である。実は、NHKという組織に内在する最大の問題は受信料制度である。これは、これまでずっと、NHK経営陣の間では共通認識であったし、現在もそうである。そうであるがゆえに、「これからのNHKの理論武装のポイントはやはり受信料制度についてだろう」(「NHKの公共放送としての将来的ポジション─NHK新会長川口幹夫氏に聞く」『新放送文化』24号、10頁)ということになる。この理論武装に向けて、「ジャーナリズムも学界も識者も」、陰に陽に動員されてきた。受信料を取り巻くこうした知的状況もあらためて厳しく問われなければならない。
(本書中、敬称略)
上記内容は本書刊行時のものです。