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韓国の教科書を読む
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2003年8月
- 書店発売日
- 2003年9月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
経済優先の人材育成と国民統合の意識形成が,最大の目標となっている韓国の公教育。「学力」自体が国際競争の渦の中にあるという発想が生む,教育の制度,内容はどのようなものか。転換点を迎えている韓国公教育の現状を教科書の翻訳分析を通して検証する。
目次
1 韓国の教育と教科書
1 韓国の教育改革とその背景
2 学力政策の転換
3 韓国の学校制度と教育の現状
4 韓国の教科書制度
5 韓国の教科書を読むにあたって
6 本書のねらい
2 韓国の教科書を読む(抄訳)
1 国語の教科書を読む
2 社会の教科書を読む
3 数学の教科書を読む
4 自然・科学の教科書を読む
5 道徳の教科書を読む
3 資料編
1 「教育基本法」(訳)
2 「初等・中等教育法」(抄訳)
3 「教科用図書に関する規定」(抄訳)
4 韓国教育部『自律と創意にもとづく生徒中心の教育課程』(抄訳)
5 全国教職員労働組合『第7次教育課程闘争のために(1)』より(抄訳)
前書きなど
本書は、韓国の教科書翻訳を通して、この国の学力管理政策を明らかにしようと試みたものである。韓国の「教科書」といえば、多くの読者が想起するのは歴史教科書かもしれない。実際、韓国の歴史教科書の多くが日本語に翻訳され、読者の関心を惹きつけてきた。私たちは、国家が国民に求める歴史認識を如実に反映した歴史教科書から、公教育による「国民統合」をめざす韓国を理解する手がかりを得てきたのである。 しかしここでは、韓国の公教育のもう一つの顔に迫りたいと思う。それは、韓国が国際社会と世界市場に向けて、より多くの人材を育成し、輩出しようとさまざまな改革に邁進する姿である。国の将来を賭けた経済優先の人づくりが、後に詳述するように、いまや初等・中等教育から高等教育に至る公教育を支える中心的なイデオロギーになっている。 「国民統合」と「人材育成」という二つの顔は、公教育を「国づくり」の一環と見る点で、同根のものと見るのが自然であろう。そしてその顔の裏にあるのが、前者の場合は「内なるナショナリズム」、後者の場合は「外なるナショナリズム」といえよう。 公教育を「国づくり」「経済政策」の一環と見る公教育観は、隣国韓国に限らない。昨今の日本の「学力低下」論を「学力危機」ととらえる論調の中には、労働力の質の低下と結び付ける議論が声高な一方で、「学ぶ権利としての学力」保障を主張する議論はどこかよわよわしい。 しかし一方で、労働力の国際移動が激しくなってきた現代社会においては、国家が提供する公教育の質が、どの国で子どもに教育を受けさせるか、さらにはどの国で暮らすかを個人が選択する際の判断規準になりやすい。そして一般的には、高所得者層ほどこの選択権を行使する機会を持つことになる。いまや国家は「選ばれる」存在になっている。「公教育」が提供する「学力」自体が他のあらゆる商品同様、国際競争の中で価値を問われるという事態にさらされているのも、もう一つの事実である。 公教育を「国づくり」の一つと位置づける現代の国家は、明確な「学力」像を描けているのだろうか。また、個人が「住民の権利」あるいは「商品」の一つとして期待する「公教育」や「学力」の姿は、人類の幸福を志向するものとなっているのだろうか。さらには、両者の間に、どのような矛盾や確執が存在しているのか。 公教育をめぐるこのような問いに答えるためには、国家の行う公教育がどのような学力観を前提にしたものなのか、またそれは市民の、あるいは個人のどのような教育要求に対応したものなのかを知っておく必要がある。 韓国の学力管理政策は、かつての日本の公教育を、そして近未来の日本の公教育を想起させる。2003年、韓国では、「教育行政情報システム(NEIS)」によって学校がもつさまざまな個人データの電子化、ネットワーク化が国によって進められようとしており、多くの市民をまきこんだ議論が沸き起こっている。国による学力や学習歴の一元管理は、私たちの生活に何をもたらすのだろうか。 韓国の学力管理政策に日本のそれを重ね合わせてみることで、市民社会がめざすべき学力像が見えてくるのではないか。本書がそうした際の一助となれば、望外の喜びである。まえがき 編者
上記内容は本書刊行時のものです。