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森林生態系の保全管理 上田 裕文(編) - 共立出版
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森林生態系の保全管理 (シンリンセイタイケイノホゼンカンリ) 森林・野生動物・景観 (シンリン ヤセイドウブツ ケイカン)

自然科学
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発行:共立出版
A5判
264ページ
定価 3,300 円+税   3,630 円(税込)
ISBN
978-4-320-05848-4   COPY
ISBN 13
9784320058484   COPY
ISBN 10h
4-320-05848-8   COPY
ISBN 10
4320058488   COPY
出版者記号
320   COPY
Cコード
C3045  
3:専門 0:単行本 45:生物学
出版社在庫情報
不明
書店発売日
登録日
2025年7月11日
最終更新日
2025年9月19日
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紹介

森林生態学の保全管理を考えるとき、あらゆる専門分野を統合する総合的かつ実践的な学問として森林美学がある。
本書はその視点から、森林・野生動物・景観について論じる。

森林科学は、林業のための学問体系として始まり、時代とともに社会のニーズに応えながら、その対象やアプローチを広げてきた。現在では、森林は地球規模の自然生態系として捉えられ、科学的なアプローチの細分化と特化が進むことで、林業の現場でそれらを統合し、実践することがますます困難になっている。そのような状況の中で、森林のあらゆる専門分野を統合する総合的かつ実践的な学問として、森林美学が有用である。

林学は、再生可能な森林資源管理の方法としてドイツから導入したものである。その一つに森林美学があり、これは生態系より前にできあがった概念で、子孫への愛情をもって、森林資源の持続性を担保し実践する体系である。また、森林内外の景観の美的価値を評価し、林業の経済的利益を追求する中で美と功利の調和を図る思想に基づいている。この概念は時代とともに変遷し、森林内外の景観美にとどまらず、森林環境や生態系全体を包括するように拡張されてきた。そのため、森林がグローバルスケールで捉えられるようになった現代において、森林をヒューマンスケールで総合的に捉える森林美学は、現前する森林の課題に一人ひとりが対応するための技術として、改めてその意義を問い直される必要がある。

本書では、森林美学を「森林管理のリテラシー」と位置づけ、人間の風景認識を通じた森林の把握・評価に基づく森林の保全管理の必要性とその実践方法を論じる。現代の森林美学において最も強調すべき点は、自然資本としての森林資源の再生において、野生動物の管理を考慮する必要があることである。森林生態系は、樹木のみならず多様な生物の相互作用によって成り立っている。したがって、野生動物を含めた森林生態系の管理を視野に入れつつ、森林景観の価値を探求する姿勢を強調したい。

目次

まえがき〔上田裕文〕

第1章 概論〔上田裕文・梶 光一・宮本敏澄・小池孝良〕
コラム1 森林美学の概観・歴史・言葉〔小池孝良〕
文献


◆第一部 日本の人工林の課題と対処◆

第2章 現在の課題〔リード文:小池孝良・梶 光一〕
2.1 森林美学と植生・光〔小池孝良・真坂一彦〕
 2.1.1 19世紀からの森林管理の流れ
 2.1.2 植生と入射光の役割
2.2 野生動物の食害
 2.2.1 ニホンジカによる植生への影響と生態系へのインパクト〔大橋春香〕
 2.2.2 森林生態系でのクマ類の役割〔小池伸介〕
◇コラム2.2.2_1 ヒグマの食性から紐解く過去の森林生態系〔松林 順〕
◇コラム2.2.2_2 ブナ科堅果の豊凶とクマの出没〔藤木大介〕
2.3 自然再興〔松島 肇・北岡真吾〕
2.4 環境資源学の視点〔田中和博〕
◇コラム2.4 竹とイノシシ〔佐野淳之〕
文献

第3章 森林管理と生態学の基本〔リード文:小池孝良〕
3.1 森林生態学の視線〔小池孝良〕
 3.1.1 森林の成長の原理
◇コラム3.1.1_1 見直された地位指数曲線
◇コラム3.1.1_2 無花粉スギ・クローン
 3.1.2 植生遷移の理論
◇コラム3.1.2 GrimeのCSRモデル
 3.1.3 階層構造の捉え方
3.2 共生菌類の働き〔崔 東壽〕
 3.2.1 共生菌の種類と役割
 3.2.2 共生菌による植物の防御応答強化メカニズム
 3.2.3 まとめ
◇コラム3.2 pHと植生分布〔渡部敏裕〕
3.3 森林更新と菌根菌〔松田陽介〕
 3.3.1 菌根共生からみた森林更新
 3.3.2 森林更新における菌根菌の働き
◇コラム3.3_1 酸性土壌とツツジの栽培〔江尻(野田)晴美〕
◇コラム3.3_2 混交林化と共生菌類〔小池孝良〕
文献

第4章 人工林の課題と保全管理〔リード文:小池孝良〕
4.1 森林のゾーニング〔光田 靖〕
◇コラム4.1 ドローン(UAV)の利活用〔丹羽英之〕
4.2 林縁効果:境界領域の生態学〔平田令子・伊藤 哲〕
 4.2.1 林縁形成と林縁効果
 4.2.2 動物・森林被害と林縁
4.3 将来木施業〔小池孝良〕
◇コラム4.3_1 シマフクロウと人工林〔早矢仕有子〕
◇コラム4.3_2 大径木の扱い〔高橋絵里奈〕
4.4 混交林化と択伐〔小池孝良〕
 4.4.1 混交林と森林美学
 4.4.2 混交林への誘導
 4.4.3 択伐林施業の事例
◇コラム4.4_1 多様な間伐様式〔小池孝良〕
◇コラム4.4_2 マツノネクチタケ〔徳田佐和子〕
4.5 自伐林業:智頭林業を例に〔國岡将平・山本福壽〕
 4.5.1 自伐林業の定義
 4.5.2 智頭林業の歴史
 4.5.3 現代とこれからの智頭林業
◇コラム4.5 芦津モモンガプロジェクト〔小池孝良〕
4.6 生産基盤の整備〔小池孝良〕
 4.6.1 森林美学と林道
 4.6.2 森林環境開発に向けて
◇コラム4.6_1 作業道開設と利雪・管理:北海道大学の事例〔小池孝良〕
◇コラム4.6_2 あて材〔渡邊陽子〕
文献

第5章 森林の野生動物の保全管理〔リード文:梶 光一〕
5.1 日本各地の取り組み
 5.1.1 エゾシカによる人工林への影響と対策〔明石信廣〕
◇コラム5.1.1 ササへの嗜好性〔高橋絵里奈〕
 5.1.2 植生劣化した生息地におけるニホンジカ捕獲後の植生の推移〔田村 淳〕
 5.1.3 西日本のニホンジカによる森林植生への影響〔幸田良介〕
◇コラム5.1.3 温故知新:野生動物保全管理に寄せて〔小池孝良〕
5.2 ニホンジカ個体群の史的解析〔永田純子〕
 5.2.1 ニホンジカの分布と分類
 5.2.2 ニホンジカの成り立ち:多重渡来と2系統の混合
 5.2.3 ニホンジカ盛衰と人間による継続的な管理
◇コラム5.2 ゲノム情報から生物のデモグラフィーを知る〔後藤 晋・伊津野彩子〕
文献

第6章 森林管理の実践例〔リード文:梶 光一〕
6.1 伐採地等におけるシカによる森林更新阻害のリスク評価〔藤木大介〕
◇コラム6.1 スマート技術で防ぐシカ被害〔江口則和〕
6.2 赤谷の森の再生とニホンジカの低密度管理〔酒井 武・長池卓男〕
 6.2.1 赤谷プロジェクトとは
 6.2.2 自然林再生
 6.2.3 ニホンジカの低密度管理
6.3 狩猟学の現状と課題〔伊吾田宏正〕
 6.3.1 狩猟鳥獣の価値
 6.3.2 我が国の狩猟の現状
 6.3.3 今後の展望
◇コラム6.3 嗜好性植物と不嗜好性植物〔藤木大介〕
文献


◆第二部 生態系サービスと森林空間活用◆

第7章 森林景観の創出と保全〔リード文:上田裕文〕
7.1 フォレストスケープ〔小池孝良・上田裕文〕
 7.1.1 定義と事例
 7.1.2 フォレストスケープに基づく森林風致施業
 7.1.3 視点の位置によるフォレストスケープのデザイン
 7.1.4 森林アメニティの評価
◇コラム7.1 用語解説:風景,景観,景色,風致〔上田裕文・小池孝良〕
7.2 伝統的な林業景観の特徴〔上田裕文・小池孝良〕
◇コラム7.2 パイプモデル理論〔城田徹央〕
7.3 森林観と住民参加〔上田裕文〕
 7.3.1 風景イメージスケッチ手法(LIST)
 7.3.2 日本とドイツの森林観
7.4 風景と音〔鳥越けい子〕
◇コラム7.4 鳥のさえずり:都市域の鳥類〔福井 亘〕
7.5 風水と隠れ家理論〔小池孝良・上田裕文〕
 7.5.1 風水の考えと実践事例
 7.5.2 眺望:隠れ場理論と景観工学の発展
◇コラム7.5 蔡温と林政八書〔谷口真吾〕
文献

第8章 都市林と都市近郊林〔リード文:上田裕文〕
8.1 都市と近郊での森づくり
 8.1.1 明治神宮林苑の森づくり〔水内佑輔〕
 8.1.2 大阪万博跡〔丹羽英之〕
 8.1.3 なごや東山の森と森づくりの会〔小池敦夫〕
◇コラム8.1 帯広の森:まちをすっぽり包み込む森・50年の取り組み〔日月 伸〕
8.2 都市林の管理〔高橋輝昌〕
 8.2.1 自然緑地を模した物質循環系の創出
 8.2.2 地面に敷かれた植物廃材の分解特性と土壌改良効果
 8.2.3 植物廃材に含まれる炭素の動態
 8.2.4 おわりに
文献

第9章 環境変化と潜在自然植生〔リード文:小池孝良〕
9.1 無機環境変化(CO2,N沈着,オゾン)〔小池孝良〕
 9.1.1 CO2
 9.1.2 窒素沈着
 9.1.3 対流圏オゾン
◇コラム9.1_1 潜在自然植生と代償植生〔小池孝良〕
◇コラム9.1_2 オゾンタイトレーション効果〔増井 昇〕
◇コラム9.1_3 樹木の北方への大移動:気候変動がもたらす新たな挑戦〔井上紗葉璃〕
9.2 中欧での高温と乾燥の影響〔真坂一彦〕
 9.2.1 異常気象が常態化する懸念
 9.2.2 風倒被害と高温が引き起こしたキクイムシの大発生
 9.2.3 高温乾燥化を見越した樹種転換
 9.2.4 未来への展望はあるのか?
◇コラム9.2_1 開花と紅葉〔北岡 哲・小池孝良〕
◇コラム9.2_2 ニセアカシア〔真坂一彦〕
文献

第10章 巨樹の保全〔リード文:宮本敏澄・小池孝良〕
10.1 森林美学に見る老樹の位置づけ〔小池孝良・宮本敏澄〕
 10.1.1 老木・巨樹の意味
 10.1.2 森の巨人百選と古事の森
◇コラム10.1 北海道の巨樹・名木に会いに行く〔今田秀樹〕
10.2 Old-growthの役割(生態系修復)〔小池孝良〕
10.3 樹冠の若返り〔石井弘明〕
 10.3.1 樹木の成長を制限する生理的要因
 10.3.2 巨樹の形態的特徴と調節機能
◇コラム10.3 巨樹の樹冠が育む多様性:着生植物に注目して〔東 若菜〕
文献


◆第三部 近現代における森林利用の変遷と展望:ヒューマンスケールのリテラシー◆

第11章 森林美学の流れと視点〔リード文:上田裕文〕
11.1 森林美学の系譜〔上田裕文・小池辰典・小池孝良〕
 11.1.1 森林美学とは
 11.1.2 ドイツでの森林美学の発展
 11.1.3 日本への森林美学の導入
11.2 明治以降の里山の変遷〔小池孝良・田中和博〕
 11.2.1 風景の見方
 11.2.2 地方改良運動と入会林の整理
◇コラム11.2 火入れとたたら〔佐野淳之〕
11.3 林内空間の整備〔小池孝良・上田裕文〕
◇コラム11.3 Wilhelm Stölb 著『自然林の美学』〔小池孝良〕
11.4 環境倫理学の視点:森林管理における倫理的枠組みの展開〔太田和彦・井上真理子〕
 11.4.1 環境倫理学
 11.4.2 環境倫理学と森林管理
 11.4.3 これからの森林管理倫理:実践知の構築に向けて
◇コラム11.4 「知床問題」の教訓を生かす〔比屋根 哲〕
11.5 日本の自然観:作庭記の視点〔小池辰典・上田裕文〕
 11.5.1 作庭記
 11.5.2 作庭の系譜と修景要素の山々
11.6 中国庭園〔張 平星〕
◇コラム11.6 石材の魅力
文献

第12章 森林管理の展望〔リード文:上田裕文・小池孝良〕
12.1 縮む社会における野生動物の管理〔江成広斗〕
 12.1.1 新しい日常
 12.1.2 野生動物の管理目標
 12.1.3 フレーミングの見直し
12.2 野生動物(保護)管理におけるアニマルウェルフェア〔打越綾子〕
12.3 南ドイツの森林の持続可能性と狩猟〔訳:小池孝良〕
 12.3.1 森林の持続可能性と様々なタイプの保全地域〔J. Hamberger〕
 12.3.2 統合林業:自然にならう林業の実践〔J. Hamberger〕
 12.3.3 森林開発と生物多様性の保全〔M. Schaller〕
 12.3.4 CO2貯留と生物多様性の視点〔M. Schaller〕
 12.3.5 気候変動とトウヒ人工林:キクイムシの蔓延〔M. Schaller〕
 12.3.6 野生動物管理:バイエルン州の有蹄類狩猟の規制と計画〔M. Schaller〕
◇コラム12.3_1 Natura 2000〔J. Hamberger〕
◇コラム12.3_2 Ebracher(エブラッヒャー)の飛び石モデル〔J. Hamberger〕
◇コラム12.3_3 ドイツ・バイエルン州のハンター(猟師)になる理由〔J. Hamberger〕
12.4 樹木葬〔上田裕文〕
 12.4.1 樹木葬とは
 12.4.2 日本での樹木葬墓地の誕生と展開
 12.4.3 ドイツでの樹木葬墓地の誕生と展開
 12.4.4 森が先か,お墓が先か
12.5 五感で学ぶ〔小池孝良〕
◇コラム12.5 万葉集〔上原 巌〕
12.6 森林生態系の保全管理と「森福連携」「森医連携」の融合〔上原 巌〕
 12.6.1 森林を所有する地域病院,社会福祉施設の事例
12.7 森林教育はなぜ必要なのか〔杉浦克明〕
文献

付録 読書案内〔小池孝良〕
あとがき〔小池孝良〕
索引

上記内容は本書刊行時のものです。