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コロナの物語×心の科学
物語で読み解くパンデミックの社会心理学
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2026年6月20日
- 書店発売日
- 2026年6月18日
- 登録日
- 2026年4月3日
- 最終更新日
- 2026年6月17日
書評掲載情報
| 2026-09-19 | 毎日新聞 朝刊 |
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紹介
感染者非難、同調圧力、自粛警察、デマの拡散、陰謀論――「異常」が「日常」となったコロナ禍だからこそ浮かび上がる、人間と社会の本質。
社会心理学者(解説担当)と小説家(コロナの物語担当)によるコラボレーション。
目次
第Ⅰ部 2020年1月~2020年5月前半――感染の発生から第一回の緊急事態宣言が解除される前まで
浅井誠司❶ 2020年1月2日
解説① コロナ・パニックと情報の広がり
尾藤桃花❶ 2020年1月23日
解説② コロナ禍をどう「研究」するか
土井颯太❶ 2020年2月3日
榎本真一❶ 2020年2月19日
解説③ コロナというリスクをどう受け止めるか
解説④ コロナにかかるのは自業自得?
千原恵美❶ 2020年3月24日
解説⑤ トイレットペーパー買い占め騒動の社会心理
尾藤桃花❷ 2020年3月27日
解説⑥ ウイルスという見えない脅威への抵抗
千原恵美❷ 2020年3月29日
解説⑦ 日常とは、変わらない生活が続くこと?
土井颯太❷ 2020年4月7日
解説⑧ オンライン授業と「場」の変化
解説⑨ 数字が与える「もっともらしさ」
千原恵美❸ 2020年4月16日
解説⑩ 「感染は自業自得」の国際比較
土井颯太❸ 2020年5月4日
解説⑪ 陰謀論が「もっともらしく」見えるとき
第Ⅱ部 2020年5月~2021年7月――第一回の緊急事態宣言の解除から東京オリンピックの開催まで
榎本真一❷ 2020年5月25日
解説⑫ 「人の心とは戦わない」という発想から見えるもの
土井颯太❹ 2020年8月9日
解説⑬ SNSという「世界」に呑み込まれないために
尾藤桃花❸ 2020年10月1日
解説⑭ 過去の記憶を上書きしてしまう心理
千原恵美❹ 2021年4月12日
解説⑮ コロナワクチンを打つ? 打たない?
浅井誠司❷ 2021年7月23日
解説⑯ 一八〇度変わったように見える心―誠司の変心とその背景
第Ⅲ部 エピローグ――コロナ、その後
浅井誠司、その後
解説⑰ 緊張を持続するのは無理なこと
土井颯太、その後
榎本真一、その後
尾藤桃花、その後
解説⑱ 認知バイアスを免罪符にしない
千原恵美、その後
解説⑲ 社会のデフォルトを変えるほど強烈だったコロナという「状況の力」
前書きなど
はじめに―物語でたどる、パンデミック下の心と社会
人の感じ方や行動には、確かに「その人らしさ」が表れます。
慎重な人もいれば、大胆な人もいる。すぐ不安になりやすい人もいれば、あまり気にしない人もいる。
だから私たちはつい、「私は心配性だから」「あの人はおおらかな性格だから」と、内面の特徴だけを手がかりにして自分や人の行動を説明しようとしがちです。
しかし、それだけでは見落としてしまうことがあります。
たとえば、同じニュースを見ても、仕事や家族のことで不安が重なっているときにはひどく動揺するのに、心に余裕があるときにはあっさり受け流せる、ということがあります。
同じ場所にいても、家に高齢の家族がいる人はすぐにマスクをつける一方で、一人暮らしで人との日々の接触も少ない人は、それほど深刻には受け止めないかもしれません。
つまり、人の感じ方や行動は、内面の違いだけでなく、「いま、どんな状況にいるか」によっても変わるのです。
状況が人の心を動かすとき
心理学の中でも、この「状況の力」に注目して人の心や行動を見つめるのが、社会心理学という分野です。
社会心理学は、「人は、状況に動かされる存在である」という前提から出発します。
いつもは落ち着いている人でも、緊張する場ではうまく話せなくなる。
普段はあまり不安を口にしない人でも、混乱した空気の中ではふと動揺を見せる。
それは、その人が弱いからでも、性格が変わったからでもなく、その状況が、そう感じさせたからです。
しかも、同じ状況にいたとしても、みんなが同じように感じ、同じように動くわけではありません。
その人がもともともっている気質や経験、体調や環境、性別や年齢、育ってきた文化や習慣、どんな人たちとつながって、どんな日々を送っているかなど、さまざまな違いといまの状況との「かけ合わせ」によって、行動や反応は生まれます。
つまり、人は「その人なりの世界」を生きていて、そこで何を意味あることとして感じるかは、人によって異なるのです。
コロナ禍を「違い」や「変化」から見直す
この本では、私たち、そして世界中の人たちが体験した大規模なパンデミック―新型コロナウイルスによる感染禍(コロナ禍)という非日常場面で人々がどのように感じ、どのように動いたのか、その「違い」や「変化」を捉え直してみようと思います。
同じ事態に、なぜある人は強くおびえ、ある人はあまり気にしなかったのか。
同じような情報をずっと見ていたはずなのに、なぜ行動や反応がこんなに変わっていったのか。
その背後には、「状況に動かされる人間の心」と「人によって異なるその動かされ方」という、社会心理学がずっと見つめてきたテーマがあります。
この視点をもつことで、私たちは、「人はそれぞれ違っていて当たり前」だというだけでなく、「その人がどんな世界を見ているか」「そのとき、どんな場所に立っていたか」にも目を向けることができます。
そうした理解は、すれ違いや分断の中で、他者をどう受け止めるかを考える手がかりにもなるはずです。
普段は見過ごされがちな、こうした感じ方や行動の違いが、コロナ禍でははっきりと表に出てきました。
「どうしてそんなに神経質なの?」「なぜそんなに無頓着なの?」といった戸惑いや反発は、人と人の間に思わぬ軋轢を生むこともありました。
このように、緊急時には、普段見えていなかった違いが、いきなり目の前に現れることがあります。
だからこそ、私たちは平時のうちから、そうした違いに目を向け、理解の幅を広げておく必要があるのだと思います。
驚かないために、慌てないために、そして誰かを責める前に立ち止まるために。
そしていまこそ、あのときの経験をあらためて見つめ直すことで、その違いの意味に気づくことができるのではないでしょうか。
コロナ禍という大きな出来事を、自分の中で整理し、もう一度捉え直すために。
当事者それぞれの物語から
この本では、コロナ禍という経験を、当事者である「私たち自身」の物語を出発点にして振り返ります。
登場人物のコロナ禍との関わりはさまざま。最前線にいた医療従事者、感染による差別を経験した人、そうした人々の心理を研究した人などが登場しますが、それまでごく普通に日常生活を送っていた人々であることは共通しています。
極端な経験をした人も、そうでない人も、それぞれに異なるかたちではありますが、この出来事に巻き込まれていたことに変わりはありません。
関わり方はさまざまでも、あのときの社会を生きていた私たちは、みんなこの感染禍の当事者だったのです。
そんな一人ひとりの感じ方や行動の背後に、どんな状況や心の動きがあったのか。
社会心理学の知見を手がかりに、それぞれの個人の物語と社会状況をつなぎ直すことで、あの時間に何が起きていたのかを、読者のみなさんとともに、考えていけたらと願っています。
忘れないことを力に変える
当時は誰もがつらく、苦しい経験をしたはずなのに、コロナ禍の出来事をずいぶん昔のことのように感じる人も多いかもしれません。
この本をつくろうとしたきっかけは「あのときの気持ちや出来事を風化させたくない」という強い思いです。忘れたいかもしれないですが、忘れないでほしいのです。苦しかった経験も含めて、他者と分かち合い、あらためて意味づけ、次へとつなげていきたいのです。
単なる記録としてではなく、記憶としてとどめておくために。
社会心理学というレンズを通すことで、過去を語る言葉が、これからを考える力になることを願っています。
とりわけコロナ禍は、「状況の力」がどれほど圧倒的で、人々の感じ方や行動を根底から変えうるかをまざまざと示した出来事でした。単なる一時の混乱ではなく、私たちの社会の前提や日常の慣習にまで深い爪痕を残しました。
たとえばそれは、対面よりもオンラインを優先する働き方や学びのスタイル、衛生意識や他者との距離のとり方、リスクに対する敏感さや鈍感さの揺らぎ、そして分断や不信の残響といった、さまざまなかたちで現れました。その多くは、いまだに消えずに残っています。それらは一人ひとりの性格などの特性の問題だけではなく、コロナ禍という「未曾有の状況」が人と社会に与えた強烈な力の反映でした。
この視点に立てば、あの出来事は単なる過去ではなく、いまも続く変化の出発点だと捉えることができるはずです。社会心理学のまなざしを通じて、コロナ禍を「もう終わったこと」としてではなく、「これからの社会を考えるための鏡」として捉え直してみたいのです。
版元から一言
突如として世界中がコロナ禍に巻き込まれ、生活が一変しました。パンデミックという特別な状況の中で、私たちの行動や感情は大きな影響を受けました。当時の様子を物語で振り返り、社会心理学の視点から社会や状況の変化が私たちの行動や感情にどのように影響したのかを解説しています。
上記内容は本書刊行時のものです。
