紙の本のよさを追求した詩集
昨年秋、『ホラホラ、これが僕の骨 中原中也ベスト詩集』という本を出版しました。すでに著作権の切れている中也の作品は、ネットで無料で読めますし、すべての詩が収録された文庫本もあります。そこをあえて出版するからには、「モノ」としての良さが必要だと考えました。
一緒に知恵を絞っていただいたのは、デザイナーの佐藤好彦さんと、製本会社、篠原紙工の篠原慶丞さん。おふたりの力で、ちょっと不思議な本ができあがりました。
パッと見てまず目を引くのは、断面です。普通の本の断面はまっすぐですが、この本は断面がギザギザになっているのです。書店から「断面がボサボサですけど、これはこういうつくりなのですか?」と、何件も問い合わせがありました。その「ボサボサ断面」、製本会社で手間暇かけて仕上げてもらっています。触り心地がとても柔らかく、「手触りのよさにハマった」という感想も寄せられているほどです。
【参考】製本方法のご紹介(篠原紙工ウェブサイト)
デザイナーさんが目指してくれたのは、「詩とともに生活できる詩集」でした。お気に入りの詩を開きっぱなしで置いておけるように、背が柔らかくて丈夫なPUR製本を採用しました。文字の表記は、中也の初版本の原文をなるべく忠実に再現しています。日本語の表記は中也の時代と大幅に変わってきているため、当時の表記で読もうと思うと、かなり大きな図書館で複製本を探さなければなりません。詩は、表記も含めて詩人の作品ですから、手頃な値段で中也の世界を再現することも、この詩集の目的になりました。
【参考】デザイナーによる制作裏話(佐藤好彦氏ブログ)
しかし、中也の時代の文字そのままだと、いまの若い人には読めない漢字もあります。というわけで、専用サイトには、同じ詩を現代表記で掲載。中也研究家の青木健氏の解説もつけ、池内博子アナウンサーの全詩朗読も聴けるようにし、読者の感想の書きこみ欄も設け……と、紙の本のよさだけでなく、ネット時代のよさも生かすことにしました。
⇒『ホラホラ、これが僕の骨』公式サイト
当初、「詩集だから文字数も少ないし、らくちんらくちん」と思っていた私の予想はまったくはずれ、原本に忠実な紙の本の校正、WEBの現代表記の校正、朗読の音声のチェックと、まあ、なんとも手間暇がかかる1冊になったのでした。解説もWEBに掲載するだけでなく、感想はがきを送ってくれた人には小冊子にしてプレゼントする、なんて特典をつけてしまったものだから、WEB用の校正と、紙用の校正をする必要があり、実はいまも最後の校正作業を続けているのでありました。
そんなわけで昨年からずっと『ホラホラ、これが僕の骨』と言い続けてきた私ですが、年が明けた1月10日、すってんころりんと転んで手首を骨折。整形外科で「ホラホラ、これがあなたの骨」と、自分の骨のレントゲンを見せられるというオチまでついたのです。とほほ。
あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ
(中也「帰郷」より)