世界を旅する翻訳絵本の出版社
こんにちは。「世界を旅する翻訳絵本の出版社 ゆぎ書房」の前田と申します。コロナ渦の幕開けとともに2020年5月、八王子市にて創業しました。当時は外食産業の苦境が連日報道されていたため、「本は(食品と比べると)腐らないものでよかった…」と思ったことをよく覚えています。
2年間に3冊の絵本を出版し、2023年はさらに2冊を刊行予定です。ゆぎ書房で制作するのは翻訳絵本のみ。ここまで出版したのは、ジョージア(旧ソ連・グルジア)とアイスランドの絵本です。
「日本語の絵本を一から作ることはしないのですか?」と聞かれることも多いのですが、私自身のもともとの本業が中東言語(ペルシア語)の翻訳者・講師であり、四半世紀にわたり、勉強もバイトも研究も仕事もすべて翻訳・・という生活を送ってきたため、翻訳以外のことは考えたこともないというのが実情です。ある時期から絵本に興味をもち、コロナ以前には研究費をすべて絵本探訪・絵本収集に流用し(【注】不正使用ではない)、トルコ、イラン、アラブ首長国連邦、ジョージア(旧ソ連のグルジア)の児童書店を巡り歩きました。 ある時期に難民絵本の研究チームを立ち上げたのも、研究費を使って、たくさんの原書絵本を集めるためでした。
翻訳絵本の企画を各出版社に売り込みに行ったことも多々あります。 絵本はマーケット全体の売り上げの9割がロングセラー絵本で、残り1割に毎年2000〜3000点の新刊絵本がひしめく市場。 売り込みの過程で、どんな作品であれば翻訳絵本として参入できるのかを必死に考えました。また、当時訪れた一社が、のちに数億の負債を抱えて倒産したことも衝撃でした。
出版社になって一番良かったと思うことは、世界中のどんな言語の絵本作品でもpdfデータで送ってもらえること。厳選を重ねた絵本数百冊を集めては見たけれど、翻訳に値する(あるいは翻訳に適した)絵本が1冊もなかった・・・というよくある悲劇もこれで幾分と緩和されます。一から絵と物語を創り出すことに比べたら、絵本の翻訳刊行なんて単なる横流しでは?と思われても仕方ありませんが、本当にこの作品を日本語にすることに意味があるのか?読んでくれる人がいるのか?と何年もかけて悶々とするプロセスが何より苦しく、同時に、人生において最も幸せな時間だと思っています。
3冊の本を刊行し、印刷・流通・販売のオペレーションも、未熟ながら少しずつ要領を掴んでいます。公共図書館・小学校図書館の年度予算の動きと、海外の原作者・出版社の「夏のバカンス」を作業工程に組み込むことも覚えました(原作者・原書出版社の確認が必要なのに、みんな夏のバカンスに出かけてしまっていて、秋まで連絡が取れない!!という惨事が・・・)。
絵本・児童書は子育て世代や公共図書館、小学校図書館はもちろんですが、子どもに絵本を手渡す活動をしている40~70代の方々や、海外文化に興味をもつ方々、大使館や原書出版国の助成なども大切なサポーターです。遅きに失していることは重々承知のうえですが、ようやく宣伝プロモーションが楽しくなってきたところで、出版社としては本当にまだまだこれからです。
ところで、ひとり出版社は、創業と同時に廃業スケジュールも思い描かなければなりませんよね?
いつか皆さんの終活プランも伺ってみたいと思う今日この頃です。