普通のひとの勇気
ただいまシャンテシネを皮切りに「白バラの祈り——ゾフィー・ショル、最期の日々」というドイツ映画がロードショー巡回中。配給会社から小社発行の『ゾフィー21歳』という本を復刊したらどうかと打診されたのが昨秋のことだった。この本が出版されたのは1982年のこと、事情があってすぐ品切れ、絶版になっていた。どうしたものか、考えているうちに訳者が急死。遺族に会いに行って出すことに決定してから大忙しの本作りだった。新たに版権交渉をしてわかかったことは、ドイツでは当然ながらそのままで版を重ねていた。
白バラグループは、ドイツではヒトラーに抗った良心の証のような抵抗グループである。国民のすべてがヒトラーにしてやられたわけでなく、白バラを陰で応援していた多数の人々がいたことがわかっている。しかしドイツでも(日本ではいっそう)この本が出た頃はまだひっそりとしていた。白バラ関係の翻訳書も数点どまりだった。もっとも今でもそう多くはないが。
今度の映画の監督は1968年生まれ、というからまだ38歳だ。未公開だった東ドイツの資料がようやく公開され、その尋問調書に基づいてこの映画は作られた。だから裁判の場面は迫力がある。ゾフィーと一緒に処刑された兄ハンスや彼らの立派な両親の演技は感動的だが、ゾフィーの勇気がどこから出てきたのかがやや不明である。あたりまえの家庭で育ち、あの厳しい統制下のミュンヘンで「国家」に反逆(これは傍のものが勝手に理由付けした)なんて大げさではなく、おのれの良心にしたがい、彼女流の愛国心から権力者への弾劾をさりげなくやり通したのだ。
若干手前味噌になるが、映画では十分に描かれなかったゾフィーの家庭環境や育ち、趣味など彼女のいのちの背景は小社の新版『ゾフィー21歳』を読むとよくわかると思う。60数年前に起きた歴史の教訓という捉え方もあろうが、本書の語り口は、普通のひとの勇気が、さわやかに、鮮やかにわれわれの胸を打つ。
映画公開のトップを担っている有楽町のシャンテシネでは、この本はよく売れている。こんなことはかつてなかったことだ。