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体育の学とはなにか
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年8月30日
- 書店発売日
- 2023年8月30日
- 登録日
- 2022年9月19日
- 最終更新日
- 2023年8月16日
紹介
哲学者が問う、学問の未来。
「身体教育 Physical Education」としての「体育」を超え、人間の身体活動すべてを射程におさめる総合科学として、進化と成長を続ける体育学。
人文・社会・医科学におよぶその全16分野を眺望し、目指すべき未来を探る。
日本体育・スポーツ・健康学会(旧:日本体育学会) 学会賞 受賞論文をもとにした書き下ろし大著。
[序章より]
体育学の研究成果とは常に社会からの期待と吟味そして批判を受けることで、さらに鍛えられた成果を社会へと投げ返す。それゆえ、本書における「体育Taiiku」の実質解明は、体育学の研究成果の向かう先である社会へ今後どのような立ち位置で臨めば良いかについても、基礎となる知見を提供しうるだろう。
[本書で言及されている体育学の16の専門領域]
体育哲学
体育史
スポーツ人類学
体育社会学
体育経営管理
体育科教育学
体育・スポーツ政策
保健
体育心理学
バイオメカニクス
運動生理学
体育方法
アダプテッド・ スポーツ科学
発育発達
測定評価
介護予防・健康づくり
目次
はじめに/凡例
序章 体育学への道
1 総序――体育学とは
2 「体育」の実質が問われるまで
(1)「体育 PE」から「体育 Taiiku」へ
(2)「体育Taiiku」の意味と社会
(3)先行史を見て回る
3 探求方法の問題
(1)体育学概論の起動
(2)資料の問題
(3)構成および研究の限界
第1章 体育を生きる人間――体育学人文科学系
1 体育哲学
(1)体育の原理と体育の哲学
(2)体育原理と体育哲学の問い方
(3)体育哲学の有用性?
2 体育史
(1)広義の体育史へ
(2)身体の歴史を歩く
(3)オリンピックと社会
3 スポーツ人類学
(1)スポーツの再発見
(2)非-西洋を翔る
(3)スポーツ人類学の射程
第2章 社会を見すえて――体育学社会科学系
1 体育科教育学
(1)体育授業を究める
(2)体育授業の創造
(3)科学化をめぐる抗争
2 社会と産業、そして保健
(1)社会への視線
(2)問題と構想
(3)社会のなかの身体活動、そしてスポーツ
3 「こころ」の問題
(1)「こころ」を追って
(2)競技者の「こころ」を考える
(3)人間形成から生き方へ
第3章 より完成する方へ――体育学医科学系
1 体育の医科学系研究
(1)人間を極める
(2)人間を強化する
(3)人間をよくする
2 身体とその動き、または健康
(1)物理的な機構体、そして意識
(2)自然科学と身体
(3)健康を追って
3 「体育Taiiku」の未来?――学術会議提言の先に
(1)さらなる問題群
(2)「身体への配慮」に向けて
(3)エビデンスとスポーツの未来
結章 体育学からの道
あとがき/参考文献一覧/人名・事項索引
前書きなど
はじめに
本書は、人間の身体活動を研究する学問である体育学に冠される「体育」とはなにか、その実質を解明する書物です。
一般にも広く知られている「体育」とは、もともと「身体教育Physical Education; PE」を縮約した語です。しかし現在、専門家のあいだでは、その意味内容を捉えなおす機運が高まっています。体育とは、スポーツを教材とする教育活動に留まらぬ広い意味を有し、また人間の生涯にわたり必要となる深い意義を有する活動である、という捉え方です。このことは、一九五〇年創立という歴史と伝統、そして会員数約五五〇〇人を誇るわが国最大の体育学学術団体である日本体育学会が、二〇二一年、「日本体育・スポーツ・健康学会」と名称を変更したことからもうかがえます。すなわち、体育学の学問名称に冠される体育とは、身体教育としての体育のみならず、スポーツ、そして健康をも総合的に含んだ巨大な概念として再定義する必要のあることが改めて浮き彫りとなりました。
本書はこの背景を受け、体育を身体教育の縮約語としての「体育 PE」ではなく、人間の身体活動全般を指し示す新たな概念である「体育Taiiku」として捉え直し、その実質を解明しようとする試みです。
目次をご覧頂ければわかるように、体育学は人文科学、社会科学、そして自然科学(本書では医科学系と呼称)の方法各々を用いて人間の身体活動とその意味を考察する学問です。そしていま述べた体育学の旗艦学会である「日本体育・スポーツ・健康学会」では、その機関誌『体育学研究』を通じて日夜最新の研究成果が厳格な査読制度を経て生み出されています。著者は専門である体育哲学の観点から、『体育学研究』に掲載された論考を基に、この学会が体育学に属すると認める全分野に検討を加えました。そして、「体育学とはどのような学問であるか」といった着眼から、「体育Taiiku」の実質解明に挑みました。
本書の構想から執筆に至るまでには、著者が学問を志して以降一五年を超えます。この間、議論の進め方や具体的な手順について素案を作っては壊し、作っては壊す作業が続きました。しかし二〇二〇年に『体育学研究』へ掲載された著者の論文が光栄にも体育学において権威ある学会賞を受賞し、本書の完成に向けた大きな励みとなりました。本書はこの受賞論文の全編を増強し、各分野の研究者にも教えを請いつつ新たに書き下ろしたものです。
本書は、体育学を専門としない研究者、また学問としての体育学に関心のある一般の方にとっては、体育学がこれまでに積み重ねてきた主な研究成果の概観となるでしょう。また体育学を志す学生諸氏にとっては、体育学の扱う研究範囲の広さや、これまでにどのような研究成果が体育学の各分野で積まれてきたかを知るきっかけになるでしょう。さらに本書は体育哲学を専門とする著者の、哲学に対する態度表明――哲学研究者、そして哲学者は分野を越えて学知を論ずることが本来の責務であること――であります。すなわち、哲学と呼ばれる学問がどの学問分野に対しても強い関心を寄せていること、寄せるべきことのマニフェストとしても読んでいただけるよう意を尽くしたつもりです。
願わくは本書が一人でも多くの読者に対し、さらなる思索を誘う礎として貢献することを希うばかりであります。
上記内容は本書刊行時のものです。