てらいんくは、開業10年を迎えます
てらいんくは、本年4月で開業10年を迎えます。10年あっと言う間でした。
不況真っ只中の開業。『売れる本を!』ということなど一度も考えたことがありません。ずっと編集担当が「つくりたい本」をつくってきたのです。3月1日現在、出版点数76点。児童文学評論シリーズ。アジアの小説の翻訳、アジア文芸シリーズ。絵本、そして,詩のシリーズ、子ども詩のポケット、中学生から読む愛の詩集、現代児童文学詩人選集。児童文学総合誌「ネバーランド」。児童文学が中心で、テーマーは「人」です。
子ども 詩のポケット(7) 『いちど消えたものは』が、平成17年度『赤い鳥文学賞』『三越左千夫少年詩賞』を受賞し、本当に嬉しく思いました。著者の李錦玉氏は、アジアの作品の教科書掲載で画期的作品と話題になった「三年とうげ」の著者で、在日コリアンです。
営業を担当する同業社の集まりや、書店さんとの交流会で、皆一同に「売れる本をつくるべきだ」と言います。全く同感です。私自身てらいんくの販売促進、経理を担当しているので、本が売れないことが、どんなにつらいか!他所のすごい売り上げ数字を聞いて、夜うなされること度々です。でも、小社編集者(私の夫です)に言わせると、「売れる本を基にした本作りばかりだと、世の中、同じ本ばかりになる。金儲けをしたいなら別の仕事をやればいいのだ。」と。全く同感。
書店には、売れ筋の本が、山積みされています。別の書店でも同じ本が山積みみされています。また、お客様も、山積みの本を見るとつい手にとって見ます。タイトルも、カバーデザインも今風で買いたくなるのです。売れるのです。
では、「売れる本とは、何?」
つくる側は、世にアンテナを張り巡らし、完璧なマーケティング。そして売れる本が作られる?作られた売れる本に、また他社も類似本を作る。そして流行本が出来上がるのです。つぎつぎと作られる流行本が書店の棚を埋め尽くします。流行本が、売れる本?でしょうか。一方で、棚が削られつつある児童書は、昔からの本が、子どもと大人の心を引きとめています。狭い棚に新参ものが入り込むのは至難の業。昔、子どものころ感動した本を我が子にもという親心。本を前に、子どもの心は、いつの時代も変わらないのだなと実感します。子どもの心に、流行などないのです。ほっとします。
このような苦境の中、てらいんくの今後の出版活動は、やはり、「作りたい本、作っておかなくてはいけない本」そして、「人」がテーマーです。
「ネバーランドVol.6」(3月末刊行)では、金子みすず発掘・研究の金字塔をうちたてた矢崎節夫の新たなる挑戦!渾身の連載『童謡の星々への旅』が、はじまります。
佐藤義美、まどみちおに師事した矢崎節夫は、「かつての若き童謡詩人たちの作品や生涯が時代の流れで忘れ去られていくのが残念でならない。今、童謡を志す私のできることだけはきちんとしておきたい」と言う。有賀連、柳曠、三越左千夫、平林武雄、柴野民三・・・
子どもたちに伝え残したい詩人たち。金子みすずにはじまる矢崎節夫の新たな童謡詩人たちへの旅がはじまります。第1回は「月夜の詩人 吉川行雄」
ネバーランドは、矢崎節夫先生の新しい世紀のはじまりに、先輩とそれを受け継ぐ世代、さらに児童文学を目ざす新しい人たちが、共に集い、切磋琢磨する広場を作りたい。かつて、多くの先輩たちを生み出した雑誌「赤い鳥」や「童話」「金の星」のような雑誌をつくりたいというご発案に、かつて、不況の波に流され思い半ばにして休刊された児童文学雑誌の編集に携わっていた小社編集者が思いを重ね、また、多くの児童文学の先生にお力を借りてに2004年11月に創刊。本年3月刊行で6号を迎えます。毎号、理想と思いが深まり、厚くなります。
今までに、特集に佐藤義美、前川康男、与田凖一などを取り上げました。先人たちの作品、仕事に改めて感動の読者の方々から寄せられる声を聞きながら、編集部は、「ネバーランド」の創刊が、大きな仕事であることを実感しています。
「ネバーランドVol,6」の特集は、ナルニア国物語です。「ネバーランドVol.7」では、小川未明を予定しています。
作る本も名前も、地味で、身勝手な「てらいんく」ですが、「てらいんく」の本を待っていてくださる読者の方々がいらっしゃることを信じて、今後も本作りに精を出していきますのでよろしくお願いいたします。