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本屋にきびしい国で、本屋が増えるはずがない。

はじめまして、こんにちは。三輪舎の中岡と申します。
三輪舎は2014年1月に横浜で設立しました。もともとはTSUTAYAの本部であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に8年間勤務しておりました。1年目は六本木ヒルズのTSUTAYA TOKYO ROPPONGIで芸術書・写真集の棚を担当し、2年目以降はTSUTAYA加盟企業向けにバイヤーを2年、スーパーバイザーを5年経験しました。子育てを機に、暮らしかたと働きかたを見直そうと思って退職し、「暮らしのオルタナティブを発信する」をコンセプトに三輪舎を設立しました。

私は先ほども申し上げたとおり、TSUTAYAの直営店に1年、その後も間接的ではありますが、アイテムとして書籍・雑誌の売り場・運営指導をしていました。出版業界を、版元・流通・書店に分けるならば、ずうっと書店側にいたわけです。だから、書店と、書店に直接関係する部分の流通のことはよく理解しているつもりです。
この経験で痛切に感じたのは、書店の粗利率の低さ、経営効率の低さです。書店で勤務をしているときはあまり意識していなかったのですが、スーパーバイザーとして外側から書店を見る立場になって、とくに問題視するようになりました。
せっかくこのような機会をいただいたのでどんなことを書こうか迷っていたのですが、「本屋にきびしい国で、本屋が増えるはずがない。」と題して、本屋さんのこれからを書こうと思っています。
※ちなみにこのタイトルは三輪舎創業一弾の書籍『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。』(境治著)のパロディです。

儲からない雑誌、やはり儲からない書籍
正味掛率は書店によっても版元によっても異なると思います。ただ言えるのは、TSUTAYAのようにいくつかのアイテムの複合店ならいざしらず、一般的な書店がこんな粗利率で書店を運営するのは難しかろうと。痛切に感じたのです。
書店数は10年前に比べて4,000店強も減少しました。4分の3に減った理由はほとんどが小規模店、「街の本屋」だと思います。
街の本屋が閉店した理由を、「雑誌が売れなくなったから」という分析をよく目にします。たしかに雑誌の不振はインターネット普及そして最近のスマホ普及による情報獲得手段の移行に原因があることには間違いありません。しかし、書店数が10年で3/4にまで減少する、つまり、それだけ読者との接点が単純に言えば3/4になるという事態に、街の本屋を助けるための直接的な手段を業界は講じたのか(目標販売数を達成するとお小遣いがもらえる仕組みがありますが、それはどこまでいってもお小遣い程度のものにしかならない)。
雑誌が売れなくなったのは諦めて、その分の利益を書籍で賄おう。閉店した書店のほとんどの店主はそう考えたと思います。しかし、書籍も雑誌ほどではないにしろ売れなくなっている…。もう閉店しか選択肢はない。そう思ったはずです。

配本するなら金をくれ
正味の話はここまでにして、返品の話です。六本木のお店では、入荷してくる書籍の半分近くを即返品していました。このお店は提案型の書店ですし、すべてのジャンルの書籍を揃えるという方針ではなかったので、半分は仕方がありません。しかし、取次さん、もう少し配慮してくれてもいいじゃないかと。私はいまもよくわかっていませんが、取次にはバイヤーのような方がいらっしゃるはずですので、取次はどの書店がどんな品揃えをしているのかを少しは知っている(当時話題になったお店ですので)。なのに、なんでこのお店にラノベがくるんだろうなぁと。あるいは、学習参考書とか。こういうものを選別していくだけで、定時の労働時間は終わってしまいます。わかりやすくジャンルの話をしましたが、どう考えてもこれはうちの店にはちょっと…というような本がしばしば入荷するのが悩みの種でした。
そもそも書店というのは坪数や立地だけで品揃えを判断できるものではないと思います。立地によって価格と質を上下できるスーパーだったらある程度わかります。郊外店なら100円のフィリピン産バナナを売るけど六本木なら500円国内産バナナを売る、あるいは同じバナナを、郊外店では100円、都心店では200円で売る。スーパーならそういうマーケティングが可能です。しかし、この業界では一つの商品には一つの価格しか存在しないし、一つの商品にはバリエーションは基本的にありません(単行本版と文庫版、あるいは古書があったりしますがそれはまた別の話)。
一つの商品(書籍)には一つの価格しかない、つまり原則的に、業界全体として一物一価です。この原則のうえでお店をつくり、運営していくなら、必然的に「バイヤー」の手腕が必要になります。しかし、どうもこの機能がよくわからない。見計らい配本と言うそうですが、この機能はどうしても限界があるように思います。取次もひとつひとつの店舗を細部にわたって理解するのは難しいだろう。とくに、出版物の年間発行点数が7万5千点、送り先となる書店数が1万4千店もあるわけですから、最適な配本というのは難しいでしょう。だからといって、この配本の仕組みのままでいいのか…。書店員時代、ダンボールに入ってきたばかりの新刊を詰めながら心のなかでつぶやきました。
「配本するなら、金をくれ」と。
ふたつの意味です。ひとつは「返品のための人件費をくれ」という意味。
もうひとつは、「本を送らなくてもいいから正味を下げて(選書の時間を)くれ」という意味です。

版元と書店の幸せな関係(はあるのか?)
三輪舎は創業第一弾の書籍『赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。』を発行するにあたり、トランスビューの取引代行の仕組みを利用させてもらっています。基本的に取次を介さない仕組みですので(※太洋社を通して全国の書店に出荷は可能)、書店への正味は7掛け以下です。
また、「注文出荷制」の仕組みにも参加しています。書店が注文する冊数のみを出荷しています。これはトランスビュー取引代行を利用している企業だけでなく、大手取次や小取次と取引のある出版社も参加しています。
書店の側からすれば会計や返本のときに面倒なことが増えるのかもしれませんが、正味が10%程度少ないわけですし、納品送料は版元持ちですからお試しで置くこともできます。もちろん、チラシやDMを見て要らないと思ったら注文しなければいいのです。
私は、このふたつの仕組みの先に、版元と書店の明るい未来があると思います。
これはトランスビューの工藤さんがおっしゃっていたことの受け売りですが、仮に月商500万のお店があるとします。現在の正味掛率は77%とすると、115万の粗利です。一方で同じ月商500万のお店で、掛率がすべて70%になれば、粗利は150万。掛率77%のお店と比べて35万円(つまり月商の7%)の現金が捻出できます。
この仕組みを支えるのが注文出荷制です。注文した分しか版元(あるいは取次)は発送しない。つまりいままで自動的に送られてきた新刊をお店の側で選書する必要があります。選書にはとても根気が要りますし、何より時間が必要です。
であれば、先ほどの計算で浮いた35万円を活用します。35万円というと、時給800円とすると月間436時間、30日で割って1日平均に直すと14時間です。2人のスタッフが7時間フリーで選書の時間を取ることができるわけです。あるいは5人のスタッフでひとり3時間弱の選書にしたっていい。何しろこの仕組で運営すれば返本作業も少なくなるでしょうし、適切な選書によって売上をあげることだって可能です(もちろんスタッフの腕次第)。

FAXでやりとりするのをやめませんか
もうひとつ、注文の仕組みについてです。
書店と版元が情報をやりとり手段として使われているのはFAXです。もちろんDMもありますが、迅速かつ安価なのでお互いFAXを使用しているのだと思われます。
しかし、FAXはどうしてもモノクロでの情報になってしまいます。モノクロでは、装丁の彩りも図版の鮮やかさも失われてしまって、かろうじて文字情報がわかる程度です。
であるならば、です。FAXで注文をやりとりするのをやめませんか。
版元は原則ウェブで新刊情報を公開し、書店は新刊情報を見ながら、その場で入力・送信する。リアルタイムで流れてくる注文情報を確認して、版元は取次・書店に発送する。
いままでジャンルを横断する書籍のFAXやDMが届くと、書店では苦労していたと思います。しかしウェブを使用することで、例えば書店員ひとりひとつのアカウントを取得し、担当するジャンルだけでなく著者や中ジャンル・小ジャンル、カテゴリ、キーワードなどのタグを設定しておけば(事前に版元側でも設定しておく)、その書店員のアカウントにも表示される。当然、他のジャンルの担当者がすでに発注していたなら、その発注数が表示されて追加注文するかどうかを判断する。
版元側は今までどおり、チラシに掲載していた情報のほか、リアルタイムで情報を追加していくことができるし(メディア掲載や重版情報など)、書店側の判断材料を増やすために書籍の電子データを公開してもいいのかもしれません。そうすれば書店員は中身を読んでから注文できる。
このシステムを運用する費用や、版元・書店が利用するための費用はどうするのか、という疑問があるかもしれませんが、いまFAXで送受信している費用はかなり高額だと思います。そのなかから、捻出できるはずです。
なお、番線印はどうなるのとか、誤発注を訂正する仕組みは、とかいろいろ細かな問題はあるのかもしれませんが、それはどうにかなるはずです。
長くなりましたが、こういうアイディアって結構たくさんの人が考えていることじゃないかと思います。知恵を出し合えば、うまくいくんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか。

さいごに
三輪舎は設立当初は東横線白楽駅近くに事務所を置いていました。白楽駅周辺はいつも神奈川大学の学生でごった返していますが、駅の一角に「ブックス玉手箱」という本屋さんがありました。10坪程度の、小さいながら整った出で立ちの本屋で、事務所から電車で帰宅するときには必ず立ち寄っていました。そもそも白楽にはそこしか本屋がなかったし、ふらっと立ち寄れる敷居の低さがあったのです。
しかし先日、久しぶりに立ち寄ろうと思ったら綺麗になくなっていたのです。手に持っていたスマホで調べてみると、店主が急死して亡くなったことがきっかけで閉店したとのこと。とても残念だと思いました。
本屋が減少している理由に、この後継者不足があります。これも、おかしいなぁと思うのです。なぜなら、本屋をやりたいってひとは実はたくさんいる。身の回りにも、オンラインにも。ということは、つまり、本屋をやりたくても生活していけない商売になっているのです。
三輪舎もそうですが、出版社の創業が増えているようです。一方で新刊書店を開業されたひとを私は数えるほどしか知りません(とほんの砂川さん、書肆スウィート・ヒアアフターの宮崎さん、など)。版元同様、新規で開業したいと思える環境を作りたいなぁと、新参者の私は考えています。みなさん、一緒に考えてみませんか。

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