出版業界はフェアな業界!?
みなさん、こんにちは。
私は、今年(2013年)1月に創業した出版社「ころから」でパブリッシャーを務めています(とはいえ、小社では全社員とも肩書きは「パブリッシャー」です)。どうぞ、末永くおつきあいください。
さて、1997年から一貫して右肩下がりの出版業に、どうして新規参入したのかと多くの人から聞かれます。
創業まもなく、大手取次にお伺いして、どのような条件なら取引を開始くださるのかと尋ねましたが、最近は年に一件しか新規取引を交わさないとのこと。しかも「大手出版社を辞めた編集と営業の方が一緒に立ち上げられたケースに限る」という本音を聞いて、思わず「それは、なんていう幻冬舎ですか?」と憎まれ口を叩いてしまったほどです。
そんなふうに、新規参入障壁が高いと思われる出版業界ですが、私は他業種と比べてとてもフェアな業界だと思って、参入を決意した面があります(もちろん、それだけではありませんが)。
フェアであることの具体的な一面は、出版業界には監督官庁がないことに象徴されるように、国策に左右されないということです。たとえば繊維業界や石炭、あるいは原子力発電などのように、国策によって隆盛を迎え、また衰退を余儀なくされるということが、比較的に少ない業界です。
その結果、各社の努力ではままならない状況が生まれにくく、各社で結果責任を負いやすい業界だと思っています。
また、資本力の差によって淘汰されにくい業界だとも思います。
映画「三丁目の夕日」の時代には数百とあった家電やバイクのメーカーは、資本の小さな順に淘汰され、半世紀後には現在の寡占状態へと至りました。メーカーだけでなく、銀行や証券といった金融業界もまったく同じです。
これに対して、いまだに数千というメーカーがひしめく出版業界において、資本の小さな順に淘汰され、最終的に数社が生き残る、という状況は考えづらいのではないでしょうか。
ともすれば、大きなメーカーから淘汰されていく可能性すら垣間見えます。
ちょっと大きな話になってしまいましたが、実際に私がこの業界のフェアネス(公正さ)を感じたのは、最初の本を刊行して一週間後のことでした。
3月10日に創業刊行として写真集『I LOVE TRAIN〜アジア・レイル・ライフ』(米屋こうじ)を出版しました。
著者は約20年のキャリアをもつ鉄道写真家ですが、これが初の単著で、しかも鉄道業界では「外国モノ」と一蹴されるアジア諸国の鉄道と人の暮らしを切り取った写真集でした。
ところが、刊行からわずか一週間後の日経新聞が読書面において、本書を取り上げてくれたのです。この時の喜びは、どう言い表していいか分かりません。
おそらく担当記者は、「ころから」の「こ」の字も知らなかったはずです。著者名も相当の鉄道オタクならともかく、一般には有名とは言えない方です。
にも関わらず、客車の屋根に多くの人を乗せてカンボジアの大地を走る列車の写真を全国紙の紙面で紹介くださったのです。
その後、5冊の本を刊行し、内3冊は著者にとって初の単著という状況にもかかわらず、これまでに延べ44もの紙媒体で本を紹介くださっています(ほかに未確認のものもあると思われます)。
そして、同じく重要なことは、これらの本を多くの書店が事前注文(刊行前に書店に案内して注文をいただくこと。当然ながら新聞などで紹介される以前のことです)という形で支えてくださったことです。
聞いたこともない「ころから」という版元の、しかも「見計らい配本はしません」「直取が基本で、取次経由の場合は返品不可」を条件にしているのに、最新刊の『奴らを通すな! ヘイトスピーチへのクロスカウンター』(山口祐二郞)までの5点について、500冊から1300冊、平均で約800冊の事前注文をくださっているのです。
この数字を多いとみるかどうかは、それぞれの立場で異なると思いますが、少なくとも創業前の想定をはるかに上回る数字です。
会社を立ち上げて初の営業に地元・赤羽の書店へ出かけた時、「とりあえず1冊」と言ってくださった注文書はいまもオフィスに飾っています。
また、とある大手チェーンの旗艦店からは、60冊という事前注文もありました。
ファックスで届いた注文書には数字しか書かれていませんが、そこには「ちゃんと売れるものを作れよ」というメッセージが込められているようで、思わず背筋を伸ばしたことは、いつまでも忘れないと思います。
出版業界に入って、わずか6年。創業して11カ月の私の言うことですから、違った見方をされている人も少なくないと思います。
しかし、20年近く出版業とは別のところに身を置いてきたからこそ、ほかと比べてとてもフェアな業界であると、私は胸を張って言えます。
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