出版社をめざす就活生、あるいは出版社に内定して春から働くあなたへ ~時々、書店営業をよく知らない編集さんへ~
こんにちは、花伝社で営業を担当している油井と申します。「ゆい」と読みます。軽く自己紹介をしますと、大学卒業後、入る予定の会社から内定取り消しの憂き目に遭いまして(当時流行っていました)、無職を3ヶ月経験したのち、花伝社に拾われて今に至る2年目の新米社員です。営業のほかには事務一般、流通などを担当しています。
今回書く内容は、書店営業のことです。というのも、編集の話はネットでも本でもたくさんあるのですが、書店営業はイマイチ情報が少なく、出版社に入って営業に配属されるまではベールに包まれているミステリーな仕事だからです。
このあまり語られない書店営業という仕事を、出版社をめざす就活生と、今年の春から出版社で働くひとに向けて、書店営業がどんな仕事なのか、書店営業で関わる書店さんはどんなところか伝えようと思い、2年目ではありますが、一から書店営業を取り組んで感じたことを書いていこうと思います。
出版社をめざす就活生が、就職活動のときに書店営業がどんなものか知っているだけで違うと思いますし、これから出版社で働くひとも知っておいて損はないです。編集のひとも書店営業のことを理解しておくだけで、対応も変わってくるのではないでしょうか。
書店営業は、出版社の営業が担当する地域のエリアにある書店さんに出向き、店長さんやジャンルの担当さんに、アレコレ新しく出る本のご案内することがメインになります。
平日の午後に書店さんに行ってみると、スーツ姿のサラリーマンが書店員さんとなにやら話し込んでいる姿を見たことがありますでしょうか。それは書店営業が担当さんと商談をしている最中です。サラリーマンが書店員さんに絡んで遊んでいるわけではありません。
ノーアポでの飛び込み営業が多く、じぶんも基本はアポを取らずに営業します。一般的な商談をイメージされていたひとにとっては不思議に思うかもしれません。もちろんきちんとアポをとっている書店営業さんもいますが、中小の出版社になりますと、ノーアポの傾向が強いようです。みんな脚を使って営業しています。
小社は書店営業がじぶんしかおらず担当エリアも首都圏全域と広いので、なかなか伺うことのできない書店さんもありますが、いろんな地域の書店さんに顔を出して、日々自社の本を営業しています。いつも忙しいなかお邪魔してご迷惑をおかけてしているのですが、書店さんも暖かく迎えてくださってほんとうに助かっております。
さまざまな書店さんへ営業に行くわけですが、これがとにかく面白い。どの書店さんも独自の色があっていつも新鮮な驚きがあるのです。
たとえば、渋谷周辺にはさまざまなチェーン店の書店さんがありますが、どの本屋さんも全然違う。ビジネス書をメインに推しているところもあれば、雑誌や文庫を大きく展開しているところもあります。客層に合わせた品ぞろえをする書店さんもありますし、すべての本を集めて展開する図書館のような書店さんもあります。
意識して書店さんの棚やフェアを見ると楽しいですよ。フェアひとつとっても、客層や立地によって展開の仕方は違います。秋葉原ならアニメやサブカルチャー色の強いフェアや棚、神保町なら人文書、有楽町なら文芸書などなど。
最近よく個性のある書店が必要不可欠だという話を聞きますが、個人的な印象だと、個性のない書店さんはあまりないと感じます。一見同じに見えても各書店さんには、ウリにしたいジャンルの本があり、独自の棚づくりをされています。
書店営業をするときも、客層や取り扱うジャンルを頭に入れて営業します。政治やメディア関係の新刊を出すときは、新聞社やマスコミ関係の会社が近くにある書店さんに熱を込めて営業しますし、団塊世代に向けた本を出すときは、デパートのなかにある書店さんを重点的に営業します。
小社の本はわりとニッチで読者対象の範囲が絞られている内容が多いので、書店さんの傾向によって営業する場所を考える必要があるのです。
書店営業は、書店さんの力をお借りして、つくった本を世の中に認知してもらうことが、大きな使命なのではないかと考えます。言わば、導火線に火を点けることです。
これがうまくいった例を小社で挙げますと、2010年の10月に出た『品川の学校で何が起こっているのか』という本があります。この本は、小中一貫教育や学校統廃合の問題点について書かれた本です。
この本の当初の目的は、品川区の教育委員会を始め、全国の教育に携わるひとに読んでもらって、果たして小中一貫教育が必要なものなのかを論じてもらうことでした。読者対象を教育関係者に絞って考えていたのでした。
しかし、ふたを開けてみると、買い求めるひとは小学校に通う子どもをもつ保護者のみなさんが多かったようで、一般の方に広く読んでもらっています。
本が出る前に大井町にあるY書店さんに営業でおうかがいしたところ、2ケタの冊数を取ってもらい大きく展開してもらえることに。この時は取ってもらった冊数にちょっとびびってしまい、少し減らしてもらったほどでした。しかし、発売するとあれよあれよと売れ始め、最終的には3ケタ売ってくださいました。今でも売れ続けています。
それから大崎にあるB書店さんでも売れて、次第に大井町にある書店さん全体に広がっていきました。そして増刷に至り、おかげさまで3刷となりました。全国的にはまだまだですが、伸びしろのある本だと思っています。
この本が売れたのは、いち早く本の価値に気づいてくれた書店担当さんのおかげです。この仕事には、営業に行ってみないとわからないことがたくさんあって、どれだけ売るためのチャンスを拡げていくことができるか、そこが書店営業の大変な部分でもあり、魅力的なところでもあります。予想をくつがえす反応から火がつくのは面白いことです。
就活生は編集を希望するひとが多いと思います。また、新卒で出版社に入ろうとしているひとは書店営業を最初から希望するひとは少ないのではないでしょうか。入ったはいいものの、営業に配属されてくさくさしている新人さんも出てくるかと思います。
出版社のなかで書店営業という仕事は、編集と比べて泥くさくてあまり楽しくない仕事と思われるかたも多いかも知れません。じぶんもそう考えていた一人でしたが、実際に書店営業をやってみると、なんとまあ面白い仕事かと思います。
書店営業をやっていて辛いことはそれこそ山ほどありますし、出版社と書店さんの板挟みになってしまう部分もあります。とくに最初の一年は、大変なものだと思います。書店営業のやりかたに軽く衝撃を受けると思いますし、書店さんも忙しいのでなかなか取り合ってくれず、落ち込んでしまうこともあるかもしれません。
それでもいろんな書店さんに行って担当さんのつくった棚を眺め、担当さんと面白い本の話で盛り上がったりするのは存外楽しいことです。こう書くと仕事していない風に思われそうですが、担当さんとの雑談から得られる情報やヒントは出版社にとっても貴重です。それを会社にフィードバックすることも営業の大切な役割ですし、売れている本の話をすることで、他の書店さんに売れている本の情報を共有していくことも大切だと考えています。
ちょっとえらそうなことを書いてきましたが、これはじぶんの目標としている部分でもあり、実行するのはなかなか大変です。
最後に言いたいのは、もし意に反して営業に配属されたとしても、書店営業も捨てたものじゃないですし、むしろ出版社にとって捨ててはいけない重要な仕事です。本の中身が一番大切ではありますが、その中身を書店さんにしっかり伝えなければ売れるものも売れません。編集志望のかたも、編集をやる前に書店営業を経験しておくと本を売るための視野が広がって、あなたの大きな財産になるはずです。
花伝社 の本一覧