2007年版元ドットコム総会レポート
版元ドットコムが2006年4月に有限責任事業組合として活動を開始してから、1年が経ちました。その1年間の活動をふり返り、これからを展望し、会員・会友の交流を深めるための総会が、5月28日に神保町の学士会館でおこなわれました。「研究集会」「会員集会」「懇親会」の3部構成でおこなわれた模様を報告します。
会場となった学士会館
昭和3年築の重厚な建物でした
◎まず、「研究集会」としておこなわれたのが業界紙「文化通信」記者の星野渉さんによる講演「出版界の抱える課題、現状分析と展望」です。
みっちりと内容のある1時間に出た話題を書き出してみると、
◇出版界の「計算できる収入源」であった雑誌とコミックの退潮が、流通と販売全体に及ぼす変化。
◇書籍販売のデータによる「販売の科学化」が、素早い重版と宣伝の意志決定を可能にし、草思社や筑摩書房や幻冬舎に見られる90〜00年代のメガヒット連発の土台をつくった。
◇書店は宣伝と測定を低コストでおこなえる場として、他業界から注目を浴びている。TVドラマや映画は、元ネタ探しからタイアップまで、書店の販売情報を活用している。
◇書籍は、販売冊数が下げ止まったものの、低価格化が進行している。これからは価格の二極化が起き、少部数・高価格の本にもデータに基づく確実なマーケティングの必要が増してくるだろう。
◇取次にとって書籍の売上増は、増益に直結しない。そんななかで取次は、これまでの横並びを脱して、質の違う競争をはじめている。
◇書店は減店増床。出店調整がはたらかなくなり、立地や什器などに投資を増やしたサービス競争、ポイントによってついにはじまった価格競争など、厳しいマッチレースを戦っている。
業界を見続けてきた星野さんならではの総括によって「業界で起こっているさまざまな出来事が、一つに繋がった」との感想を、幾人もから聞きました。個々の現象としては知っていることでも、まとまって聞くことで、業界の向かう潮流とそれぞれ自社で為すべき課題が見えてきたようにおもいます。
「版元にはまだ危機感が薄い」と星野さんは言います。書店と取次が多様な販売戦略を競いあい、その原資を版元に求めています。そのなかで、いかに市場を把握し、自社の出版傾向とマッチした戦略を選び取っていくかという問いが課されています。
そこを単独でおこなっていくのは難しく、協業化やアウトソーシングが生き残りへのカギとなってくるとのことでした。
そう考えてみると、版元ドットコムは「書誌情報の流通」を中心に、「業界の動向と自社ができる対応にアンテナを張る」という、小出版社にとって十全にはおこないにくい業務を、データベースや転送ツールの開発とメーリングリストなどでの情報交換によって「協業化」してきた、と言えるかもしれません。
最後に会場から出た「版元ドットコムはこれからどのように進んでいくべきと考えるか」という問いに、
「直接の販売よりも、情報の届かせ方を考えていくことにメリットを持っている。小出版社がまとまることは、小書店がNET21でやっているのと同様に業界内での存在感を高める効果がある。なによりも、版元からの情報発信の内容と手段を充実させていくことが大事」との答えをいただきました。
◎続いて、「会員集会」では、会計報告ののち、組合員の沢辺均さん(ポット出版)による「この一年の報告と来年の目標」が語られました。
活動開始から丸7年が経過した版元ドットコムは、この1年で会員社は72社から93社に、登録点数は12,029店から15,732点へと拡大しました。サイトからの販売はそのわりに振るわず、対前年額で15%増にとどまっています。これはネットでの本の購買行動が特定の会社に寡占化していることがおもな原因ではないかと沢辺さんは推測しています。とはいえ、販売が活動の主目的ではありません。会費を中心に他の事業をふくめた収入を積みあげ、年間で120万円超のシステム開発費を支出できるようになり、書誌データベースの継続的な運営と開発が可能になってきたことが着実な達成点です。
2006年度の活動目標と結果は以下のとおりでした。
◇データベースとサイトシステムの作り直し
→より堅牢なLinux+MySQLによるシステムへの移行が進行し、買い物カゴと決済に関する部分以外の作り替えを終えました。
◇出版社としての事業経験交流と共同事業の模索
→さまざまなテーマによる「版元ドットコム入門」を計7回開催しました。
また、新たな事業として開始した書店へのファックスDMは多くの会員版元に利用されました。
◇版元ドットコム運営の円滑化・基盤強化
→組合員会議を毎月定期開催。ほぼ欠席者もなく、円滑に運営してきました。
会員社拡大やファックスDMや広告掲載などの事業拡大により、運営基盤を強化しました。
2007年度の版元ドットコム活動目標は、「バーンと花火を上げたい気持ちを抑えて」堅実に2点。
◇データベースとサイトシステムの改善に引き続き、取り組む
◇活動の幅を広げるための新たな収益事業の模索
本来の活動である書誌情報の蓄積と発信をしっかりと進めていこう、と、期せずして研究集会での星野さんのお話と呼応する内容となりました。
◎「懇親会」は、立食パーティ形式でおこなわれました。
来賓のみなさまと新規参加会員・会友の挨拶を交じえつつ、直前までの集会の感想を交わしたり、情報交換をしたり、活発な交流がおこなわれていました。
※要目メモ
【版元ドットコム・2007年会員集会】
●日時 2006年5月28日(月)
○16時15分〜17時15分 研究集会
・「出版界の抱える課題、現状分析と展望」
講師 星野渉さん(文化通信)
○17時15分〜17時45分 会員集会
・会計報告
・この一年の報告と来年
○18時〜20時 懇親会
・乾杯
・来賓挨拶
・新規参加会員・会友紹介
・懇親
●場所
学士会館
101-8459 東京都千代田区神田錦町3−28
参加者
研究集会 50社 75人
会員集会 52社 72人
懇親会 59社 84人