第23回 (番外編)「本屋フリペ」いろいろ その2
第23回 (番外編)「本屋フリペ」いろいろ その2
前回、第22回では、「(番外編)「本屋フリペ」いろいろ」として、定期刊行ではない本屋フリペを3タイプに分け、そのうち、フェア連動タイプのものをご紹介しました。今回は、2のタイプ、「特定の作家・作品・ジャンルなどをおす目的でつくられたもの」のうち、特定の作家を応援するタイプのものと、3「その他」の例をいくつか紹介します。
作家本人の書店回りがめずらしいものでなくなりつつあるなど、ひと昔前に比べ、書き手と売り手の距離はぐっと縮まった感があります。以前ならば、必ず間に版元関係者が入ったものですが、最近では、作家が単独で書店を訪問したり、書店員と交流したりすることも当たり前になって久しいですね。
そのような時代にあっても、書店員との距離の近い書き手とそうでない書き手がいますが、次に紹介する村山早紀さんは前者のタイプ、それも、もっとも書店員との距離が近い作家の一人といって間違いないでしょう。ツイッターなどのSNSを使って、多くの書店員と日常的に交流していることから、売り手にも熱心なファンが多く、このようなペーパーが複数つくられています。
↑静岡の戸田書店静岡本店で発行された「フェア「村山早紀の世界」開催記念フリーペーパー」。こう書くと1のタイプのようですが、写真のタイトル部分にある通り、内容は他店(連載第1回で紹介した東京・渋谷の大盛堂書店)で開催されたトークイベント&サイン会の詳細なレポートになっています。
SNSの普及で書店員同士、それも離れた地域の書店員同士の交流は今では当たり前ですが、とはいっても、他店のイベントのレポートをフリペにまとめて自店で配布するというのは、きわめてめずらしいケース。
しかも、A4判用紙横置き2枚、両面にびっしり(紙面は連載第7回で紹介した「本屋でんすけ にゃわら版」を思わせる6面割)と、自店のイベントレポでもなかなかここまでのものにするのは大変なはず、というようなものになっていますから、なおのこと驚かされます。
↑こちらも村山早紀さん関係で、栃木のうさぎやで発行された「「はるかな空の東」ポプラ文庫ピュアフル発売記念 うさぎやオリジナルペーパー〜村山早紀を読む〜」。著者紹介や次に読む作品リストのほか、作家本人直筆のイラスト入りメッセージが掲載されています。
↑今度は名古屋から。「吉川トリコ『ずっと名古屋』(ポプラ文庫)刊行記念ペーパー」。ジュンク堂書店ロフト名古屋店で入手したものですが、作成は同店を含む名古屋の書店員有志の集まり「名古屋書店員懇親会(NSK)」となっています。
表には名古屋の地図とそれぞれの区の解説、裏には吉川トリコさんと同じく名古屋ゆかりの作家で、NSKとも交流があるという、大島真寿美さんのコラボ小説が掲載されています。刊行記念なのに新刊の内容に直接ふれたものになっていないのは、版元作成と思われる(作成・発行の記載なし)フリペがあるためでしょう。入手したお店でも、並べておいてありました。タイプの違うフリペ複数を使った宣伝展開の例ですね。
最後は、3のタイプ、フェア連動や作家応援などに分類できない、それ以外のフリペです。
↑愛知・名古屋の七五書店の文庫棚で配布されている「吉村昭文庫作品リスト201706」。同店は、文庫をレーベル別ではなく著者別に並べているお店ですが、吉村昭以外にも数人の作家について、このような作品リストがその著者の作品が並んでいるあたりにさしてありました。
フェアに連動しているわけでも、おすすめ作品や代表作がセレクトされているわけでもなく、作成時点で入手可能な文庫を一覧にしたものとのこと。作品数が多く、複数の出版社のレーベルにまたがっている作家の場合、お客さんが既刊を店頭で探すのは意外に大変ですし、お店も店頭に全部は並べられません。そのようなお店側・お客側双方にとっての機会損失を少しでも防ごうという試みだといえるかもしれません。
作品リストなんてすぐに検索できるじゃん、などと思われる方もいるかもしれませんが、吉村昭ぐらいの作品数になると、単純検索ではこのようなきれいなリストアップはできませんから、こうして一覧にまとまっているのはやはり便利なもの。フリペのうまい使い方の一つだと思います。
↑東京・吉祥寺のジュンク堂書店吉祥寺店で2017年に開催されたフェアに合わせて発行された「ジュンク堂書店吉祥寺店企画“吉祥寺な人たちの一冊”ご参加店街歩きMap」。
一見、1のタイプのようですが、フェア参加者と選書は一覧にまとめてあるだけで、店頭には手描きPOPのかたちで公開されていた選書コメントの掲載はなし。その代わりに、三つ折りを開いた内側全面(A4横置き)に、タイトルにある「ご参加店街歩きMap」が掲載されています。フェア終了後も街歩きマップとして活用できるフリペになっています。
↑連載第2回で「コンノコツウシン」を紹介した東京・西荻窪の今野書店が、2018年で創業50周年を迎えるとのことで、50周年記念バージョンのフリペ「コンノコ 50th edition」が発行されています。通常号とは別扱いということか、Vol.1となっています。表紙イラストは江口寿史さん、中には山田詠美さんの書き下ろしエッセイ掲載、表紙・裏表紙はカラーと、豪華なつくりです。
1月から毎月発行されるとのことで、12号までそろえると、江口寿史オリジナルイラスト付きバインダーが今野書店ポイント600ptと交換してもらえるのだとことです。ファンは毎月通って、「コンノコ」を入手しないといけませんね。
↑「静岡書店大賞」。これは本屋フリペに含めていいのか、やや迷いますが、店名の記載はないものの、「静岡書店大賞」の実行委員会は静岡の書店員有志の集まりのようですから、複数の書店発の本屋フリペとしてもいいでしょう。
↑東京・千駄木の往来堂書店から、同店の名物フェア「D坂文庫」開催時に作成、店頭配布される小冊子「D坂文庫2017夏」。本来であれば、1のタイプとして紹介すべきものですが、昨年夏の回から有料(税込108円)になり、厳密には「本屋フリペ」でなくなりましたが(文庫フェアから3冊買うと無料でもらえます)、フリペから有料メディアに拡大発展した例として紹介しておきます。以前は文庫サイズで、手作り感あふれる体裁でしたが、この回からA5判で36ページと、出版社のPR誌並の造りとボリュームとになっています。
↑同じく往来堂書店から「往来堂書店コミック部2017年88タイトル」。「往来堂書店・三木雄太」さんの名前が発行者としてあがっています。同店のツイッターアカウント「往来堂書店(コミック部)」(@ohraido_comic)の2018/1/4付ツイートによれば、《2017年の往来堂コミック部を振り返る巻物》と、タイトルの通りの内容になっています。A4判の用紙両面で12枚もあり、書影はカラーになっています。綴じずに巻物状にしてあるのは、製作者のこだわりでしょうか。写真も店頭に置かれていたのと同じ状態にしてあります。
同店訪問の際にはチェックを、とおすすめしたいところですが、《常備品ではないので運が良ければでお持ちくださいませ》とありますので、入手を希望される方が遠方から行かれる場合は事前に問い合わせたほうがいいかもしれません。
↑最後はちょっと変わったタイプを。東京・荻窪の本屋Title発行の「2016年の毎日のほん」。これは、同店店頭およびWEB SHOPで店主辻山良雄さんの著書『本屋、はじめました』(苦楽堂)を購入した人に特典として配布されていたもの。
店主辻山さんが、ツイッターで「毎日のほん」を発信していることは、同店利用者だけでなく、本好きの方の間ではよく知られていることかと思います。
この冊子は、その「毎日のほん」1年分をまとめたものですから、個人で作成している無料誌としてはちょっと驚くような分量になっています。しかも、デザインもすっきりした読みやすいものになっていて、本文の字こそ小さいものの、読みにくさを感じさせません。
この連載が、やがて『365日のほん』(河出書房新社)という本のかたちに発展していったのは、ご存じの通り。本屋フリペ(およびツイッターという無料媒体)で発信されたものがそのまま書籍になったというわけではないものの(本書は毎日の本をそのまままとめたのではなく、「書き下ろし」だとされています)、新刊書店から発信された情報が、こうしていったんフリペのかたちを経由しつつ、最終的には商業出版物にまとまった、というのはきわめてめずらしい例かもしれません。
情報発信に熱心だというだけでなく、本のセレクトやそれを短文で簡潔に紹介する文章力、プレゼン力を兼ね備えたTitle店主、辻山良雄さんだからこそ可能になったことなのかもしれませんが、本屋フリペ関連のエポックとして最後に紹介しておきたいと思います。
以上、定期刊行物ではないタイプの本屋フリペを紹介してきました。毎月出すのは大変でも、フェアに合わせて、特定の新刊に合わせて、ということであれば、作成のハードルも少しは下がるのではないでしょうか。こうした例を参考に、これまでフリペを手がけたことがないというお店のみなさんも、ぜひチャレンジしてみはいかがでしょうか。
編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。