第22回 (番外編)「本屋フリペ」いろいろ
本連載では、新刊書店で定期刊行されているフリーペーパーを主に紹介していますが、新刊書店の店頭では、定期刊行物以外にも、多くのペーパー類が配布されています。今回次回と2回にわたり、そうした定期刊行物ではない本屋フリペをいくつか紹介してみたいと思います。
「定期刊行物ではない本屋フリペ」にはいくつかタイプがあります。(筆者の私見による勝手な分類です。)
1)店で開催されているフェアに合わせてつくられたもの
2)特定の作家・作品・ジャンルなどをおす目的でつくられたもの
3)その他
1のタイプは、開催されているフェアの概要・主旨、選書リストや選定者のコメントなどが掲載されているもので、定期刊行フリペ以外だと、このタイプをいちばんよく見かけます。
新刊書店店頭でのフェアは、多くの場合、期間限定、一時的なものですから、その内容や選書は開催時を逃すと後で確認することができません。フェアの内容をまとめたペーパーが1枚あれば、フェアの内容が記録として残ることになります。
お客さんは、フェア開催時には手持ちの都合で買えなかったり、迷って後回しにしてしまったものを、後で確認したり、別の機会に買い直したりすることができます。また、書店・出版関連の仕事をしている人であれば、フェアフリペを、自店・自社のフェア企画の参考資料にすることができるかもしれません。
2は、書店の担当スタッフが、この本を売りたい!、この作家をプッシュしたい!という情熱から、応援ペーパーをつくってしまうタイプ。新刊の刊行記念としてつくられるパタンが多いようです。フェアと連動している場合もありますが、1と違って、フェアの有無とは関係なくつくられているものもあります。
3はそれ以外ということで、どういうものとまとめにくいのですが、たとえば、ぼくが目にしたものだと、開店何周年に合わせてつくった店内外のマップ、SNSで発信している情報を一定期間分まとめたもの、などがありました。
では、実際にどのようなものがあるのか、実例をいくつか紹介したいと思います。数が多いので、今回は主に1のタイプを紹介します。
※フェアフリペには、書店で作成・発行しているもののほかに、版元によるものもあります。本連載は前者を紹介するものですので、今回も原則として、書店発のもののみとしますが、フリペのなかには作成者・発行者が記載されていないものもあり、内容を見てもどちらによるものなのかがわからない場合があります(選書リストのみのものなど)。これまで同様、入手店への取材はせずに取り上げていますので、もしもお店発行のものでないものが混じっているなどがありましたら、ご教示いただけると幸いです。
まずは、東京・吉祥寺のBOOKSルーエ。同店には、5分あればフリペを1枚つくってしまうというフリペ職人、花本武さんがいることは、以前の回で紹介済みですが、その花本さんが雑誌売り場そばのコーナーで手がけているフェアでは、ほぼ毎回、フェア連動フリペが配布されています。
↑「バッタ博士」として昨年大ブレイクした前野ウルド浩太郎さんの選書フェア「バッタ博士をバッタ博士たらしめた20冊『バッタを倒しにアフリカへ』の道」。このペーパーがユニークなのは、表紙にもあるように、著者本人による本書の企画書が掲載されていること。たくさんの本屋フリペを見てきましたが、本の企画書が掲載されているフリペというのは初めて目にしました。
↑同じくルーエから「『この地獄を生きる(のだ)』ための20冊 小林エリコ選書フェア」のペーパー。作家本人による選書コメントのほか、書き下ろしエッセイも掲載。このように、選書コメントやエッセイを寄せるなど、作家本人が本屋フリペに協力する例も最近では多く見られます。
↑「自伝『屈折くん』刊行記念 人間椅子・和嶋慎治 選書フェア in Umeda選書リスト」。大阪・堂島のジュンク堂書店大阪本店店頭で入手したもので、タイトルにも「in Umeda」とありますが、このペーパー自体は、他店も共通なんでしょうか、選書コメントの末尾には「2017.4.20〜5.31ジュンク堂書店池袋本店」とあり、「ホンシェルジェの一部抜粋です。詳細はホンシェルジェのホームページへ」とあって、URLが記載されています。
さらに、その後には、「この夏に読みたい怪談本」というコーナーもあり、コメント付きで数点があがっています。
「ホンシェルジェ」というサイトとの連動フリペだから、ということなんでしょう、発行店・作成者などの記載がなく、また選書コメントも、フェア開催店スタッフによるものなのか、作家によるものなのか(両方のパタンがあります)の明記がなく、末尾の「この夏に読みたい怪談本」とフェア本体・選書コメントとの関係もわからないつくりになっているのが、フリペ好きの目から見るとちょっと残念なところ。
サイトとの連動は、フリペの利用・活用の幅を広げる意味で大いにありだと思いますが、その場合でも、フリペはフリペで、それだけで情報が完結している、それだけを読めば必要なことがひと通りわかる、そんなふうになっているほうがいいのではないかなあ、と新刊書店の本屋フリペを情報ソースとして利用している者としては思います。
↑東京・神保町の東京堂書店で入手した「kotoba「わが理想の本棚」で紹介されている書籍リスト」。集英社の季刊誌『kotoba』の特集に合わせたフェアが同店店頭で開催されていたときに配布されていたものです。選書コメントはなしで書目リストのみになっています。(作成者・発行者の明記がないため、版元作成の可能性もあります。)
東京堂書店のフェアは規模が大きく点数が多いので、フェア開催期間だけではチェックしきれないこともありますから、買わなかったもの買えなかったものを後でチェックできるこういうリストは重宝します。
↑同じく東京堂書店のフェアから。「《特集:〈ポスト68年〉と私たち》フェア冊子」。『〈ポスト68年〉と私たち「現代思想と政治」の現在』(平凡社)の刊行に合わせて開催されたフェアのようです。長文のブックフェア宣伝文と、編著者が選書したという書目の一覧が掲載されています。選書コメントはなし。こちらは東京堂書店の発行である旨の明記があります。
↑連載第2回で紹介した東京・西荻窪の今野書店では、お店の入り口すぐ脇のスペースでいつも小規模ながら興味深いテーマのフェアが開催されていますが、こちらもそのようなフェアに合わせて発行されたもの。
「柳下毅一郎 ぼくを作り上げた十冊」。フェアに対する本人のコメント+選書一覧というシンプルなもの。選書コメントは、すべてではなく、一部の書目にだけつけられています。
A5判用紙横置き片面と、中身だけでなくつくりもシンプルですが、気になる作家・翻訳家ならばこのわずかな情報だけでもファンにはうれしいもの。つくりがシンプルなのも、フェアで買った本にはさんでとっておくのにはむしろぴったりだったりします。
↑今回紹介するなかではもっとも分量のあるフリペ、というか冊子、がこちら。「岩波文庫創刊90年 三省堂書店スタッフ厳選 永遠の定番 岩波文庫」。
岩波文庫創刊90年の記念フェアは、全国あちこちの書店で開催されていましたが、三省堂書店は、チェーンをあげて取り組んだのでしょう、入手したのは三省堂書店神保町本店の店頭ですが、本冊子には発行店の記載はなく、中を見ると全国の店舗のスタッフ、それこそ店舗担当でない事務方のスタッフまでが選書コメントを寄せています。ナショナルチェーンならではのフリペ活用法ですね。
↑ジュンク堂書店の利用者にはおなじみですね。池袋本店の1階で開催されているフェア「愛書家の楽園」。
写真は2017年の9月から10月にかけて開催されていたVol.70「アイドル 情熱と冷静のあいだ」のもの。フェアの主旨と、選書一覧+選書コメントが掲載された、フェア連動ペーパーの典型例になっています。同フェア、ぼくはいつも池袋本店でチェックしていますが、ペーパーにはジュンク堂書店福岡店、丸善名古屋本店、丸善京都本店の店名があがっていて、単店でもチェーン全店共通のものでもなく、グループ内の特定店舗連動フェアのペーパーであることがわかります。
お知らせ:
本連載の第17回で紹介した、大阪の本屋さん「本は人生のおやつです!!」発行のフリペ「本おや通信」。
本稿執筆時点(2018年1月)での最新号となる28号が、2017年12月に発行されました。登場しているのは、なんと、わたくし空犬太郎です。2017年11月15日に同店で開催されたトークイベントの内容をまとめたものになっています。ご興味のある方は、「本は人生のおやつです!!」にお問い合わせください。年刊くらいのペースのフリペなので、(ある意味)貴重です(笑)。

編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。