第15回 「次読むならコレにしや〜!」
愛知県豊橋市に本社をおく、大正創業の老舗、精文館書店。愛知県を中心に店舗展開をしているチェーンで、関東だと、千葉・埼玉・神奈川には支店がありますが、都内にはありませんので、都内近郊の書店好きにはあまりなじみがない名前かもしれません。
ただ、名古屋市中川区にある精文館書店中島新町店の名を知る書店人・出版人は関東にもたくさんいることでしょう。というのも、同店には、目的地にたどり着けないという、ただそれだけのことを、おもしろサバイバルな文章にまとめて、WEB連載で人気を博し、あげくのはてには単行本にまでなってしまったという名物書店員さんがいるからです。ひさだかおりさん。連載をまとめた本は、こちら。『迷う門には福来る』(本の雑誌社)。
その《「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用された妻母兼業の時間的書店員》(本の著者紹介より)、ひさださんが手がけ、同店で発行されているフリーペーパーが「次読むならコレにしや〜!」です。
A4判裏表に、手書きとワープロ文字混在で、主にエンタメ系フィクションの情報がぎっしり。創刊当初から、ひさださんが一人で手がけていますが、途中、児童書を紹介するコーナー「えほんの力」が裏面に掲載されていた時期がありました。同店の児童書担当の方の協力を得ていたようで、絵入りの記事はなかなか楽しく読ませてくれるものでしたが、残念ながら休載となってしまいました。
現在は、またひさださんの一人体制に戻り、あいかわらず裏表に情報がぎゅっと詰まった紙面をすべてひとりで手がけています。
本屋フリペを発行している人の多くが感じているのではないかと思いますが、いちばん大変なのは、発行を続けること。それも定期的に続けることでしょう。本連載で紹介している本屋フリペの多くは一人の書店員さんの手になるもので、しかも、業務時間外に作られているものがほとんどです。正規の業務として認められ、輪番制になっていたり、担当者が変わっても継続発行されたりすることはまれで(ないわけではありませんが)、そのため、担当者の方が異動になったりやめてしまったりすると、フリペも続けられなくなってしまう、ということにしばしばなってしまいます。
そんななか、「次読むならコレにしや〜!」は、本稿執筆時点の最新号が66号。月刊ですから、5年以上継続発行されていることになります。個人発行でこの数字はすごい。現在、ぼくが定期的にチェックしている本屋フリペのうち、個人で出しているものとしては、最長の1つになるでしょう。がんばって続けてほしいなあ。
通常号を出し続けるだけでも大変なのに、ひさださんは、これまでに何度か読書感想文対策用の特別号も発行したりしています。題して「勝手に課題図書新聞」。以前の情報では、年に1回の発行で、過去に発行された号を見ると、表はオススメ本の紹介、裏面は「イケてる読書感想文の書き方」という記事になっていました。
「次読むならコレにしや〜!」は、同店で配布されているほか、ひさださんご本人がPDFにして、書店仲間や当方のような出版関係の知り合いに直接配布もしているようです。お問い合わせは、精文館書店中島新町店店のひさださんまで。
発行店:精文館書店中島新町店
頻度:月刊
●Googleマップ 「本屋フリペの楽しみ方」掲載書店
【お知らせ】
まもなくこんな本屋本が出ます。『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(ジー・ビー)。
書き手はBOOKSHOP LOVERのハンドル名で本屋情報を熱心に発信していることで知られる和氣正幸さん。
その和氣さんの本屋フリペに関する取材を受け、わたくし空犬も少しだけ本書に情報を提供しています。本連載で紹介してきたフリペの実物を例に引きながら、本屋フリペのおもしろさについての話をしました。コラムとして掲載されているようですので、本屋さん情報に興味のある方はぜひ手にとってみてください。6/20ごろ発売です。
刊行後には、こんなイベントも予定されているようです。「7/7(金)19:30〜 本屋100連発 本屋の良いトコロをこれでもかと紹介する会@双子のライオン堂」(Peatix)。会場は赤坂の本屋さん「双子のライオン堂」。要予約のイベントです。近隣の本屋好きの方はぜひお出かけください。
編集者・ライター。主に新刊書店をテーマにしたブログ「空犬通信」やトークイベントを主催。著書に『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)、『本屋図鑑』『本屋会議』(共著、夏葉社)、『本屋はおもしろい!!』『子どもと読みたい絵本200』『本屋へ行こう!!』(共著、洋泉社)がある。