『新刊選』掲載・「凱風社が版元ドットコムに参加した理由」
注●これは、幹事の新田(凱風社)が『新刊選』に書いたものです
『新刊選』は、出版流通対策協議会という出版社の団体(約90社)が主に書店向けに発行している新刊案内を中心とした月刊のニュースペーパーです。
『新刊選』2000年4月号[4月1日発行第75号]
出版流通対策協議会 電話03-3221-1094 ryuutai@netlaputa.ne.jp
「版元ドットコム」が立ち上がった。おそらく4月末には参加版元30社くらいで試験版の運営に入れるはずだ。
このウェッブ・サイト(世界中をつなぐ電子通信網の結び目、いわゆるホームページ)の組織・運営についてはこれまで数度にわたって説明会を開いているし、案内も広く配布しているのでここでは触れない。
凱風社がなぜ、こうした試みに積極的に参加したか、この機会にふりかえってみようと思う。今から1年くらい前のことだ。ポット出版の沢辺さんから「出版社用データベースの研究をしよう」ともちかけられたとき、凱風社はEメールのアカウント(住所)こそ持っていたものの、ホームページの開設は視野の中に入っていなかった。Eメールがあるといっても、発信人から「メールを送ったから開けてみて」と電話やファクスがあって初めてメールを見るという「ヤギさん郵便」状態である。
ホームページを単独で開設して、はたして読者が来てくれるのだろうか。ホームページの維持管理は誰がやるのか。インターネットのどこかに自社の本の案内を載せておきさえすれば、どこかでだれかの検索にひっかかる可能性があるが、載せていなければゼロだという。なるほど、論理はよくわかる。しかし、それが本当に本の購買に結びつくのか——。
考えは堂々めぐりをくりかえし結論が出なかった。さらに、すでにホームページを開設していた版元に売れ行きを聞いても、実績ははかばかしいものではなかった。
にもかかわらず参加の道を選んだ。
まず第一に「われわれの出版物の存在を読者に知らせる」点で前進だと考えた。凱風社は毎月300〜400通 の書店DMと1000〜2000通の読者DMを実行している。そのうえでどうすればさらに読者を拡大できるかが長年の課題だった——インターネットは少なくともその選択肢でありうる。
第二に、複数の版元が参加すれば当然、収容される書籍の数もジャンルも増える。したがって単独でホームページを開設するより、読者にとって相対的に魅力のあるサイトになるはずだ。小版元としては、最初から複数版元のサイトに入って能動的に運営するほうがメリットがある。
第三に、取次や大型書店が次々とサイバー書店を開設する一方、自ら発信する著者も出てきた。このまま手をこまぬ いてはいられない。版元はインターネットの世界でも「発信者」になるべきだ。 第四に、検索機能と決済機能をもった販売サイト(インターネット上の直営書店)の開設・運営に関わることで、いろいろなノウハウが入手できる。自前でやっていては、データベース検索やカード決済などは、未来永劫手にすることはないだろう。
最近「版元ドットコム」に個人で参加する人が増えている。版元だけが、あるいは取次だけが、あるいは書店だけが一方的に発信し続けても、なかなか読者は乗ってこない。
その点「版元ドットコム」が、個人の参加しやすい組織であることは重要だ。システムの骨子はほぼできた。版元、読者、書店の積極的な参加で魅力あるサイトになるよう、期待している。