本を読者に届けること
絵本を出したばかりです。
うちにある新本を、喜んでくれる読者に少しでも届けたいと思って、まずは身近なところで、親しくしている近隣のお年寄りに渡してみました。
いつも貸し菜園で作った野菜をくれるKさんは「こんなきれいな本を、本当にもらってもいいの?」と嬉しそうに、でも少し恐縮しながら、受け取ってくれました。
受け取ってもらう時に、どんな風に手渡すか、添えることばが大切だと思っていて、私はKさんの顔色を伺いながら、一所懸命に喋りました。
うちは2年前に、10年ほど住んだ町から、隣町の住宅地の賃貸一戸建てに、引っ越してきました。
いっぽうKさんは、この住宅地が出来たころ新築を買って移って来たそうで、もう3、40年間ここで暮らしていて、同じ住宅地の住民さん達とも、子育てや自治活動など、長年のおつき合いをされています。
みなさん70〜80代になっておられ、Kさんも「夫は毎日朝から畑、私は友達とあちこち出かけるのが楽しみ」と仰っていたように、贅沢は出来ないけれど、年金暮らしをそこそこ優雅に、楽しんでおられるご様子でした。
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ところが、新型ウイルスのコロナ禍で、生活は一変。
出かけようにも出かけられず、もともと多くはなかった子どもや孫との行き来もすっかり途絶え、自家用車も心がけよく早々に免許返納してしまっていて、買い物は生協の宅配があるから何とかなっているけれど、毎日毎日、ただ鬱々と、悶々として暮らしている…とのことでした。
幸い、庭や畑に出られるのが救いになっているし、お日様に当たると少しは元気になると仰って、気晴らしも兼ねて、畑で採れた野菜を私のようなご近所へ届けに来てくれて、玄関先でマスク越しの立ち話をして、上記のようなお話を聞かせてくれたのです。
絵本をお渡しした翌日、インターホンが鳴ったので出ると、Kさんがいつものように、野菜のいっぱい入った大きなポリ袋を提げて立っていました。
そしてKさんは、手に持った角2封筒から絵本を取り出し、「これ、読ませてもらいました。とても良かった。なので、勤めていた頃から親しくしている友達にも是非あげたいから、合わせて2冊分、支払わせてください」と仰り、手提げカバンからお財布を取り出しました。
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その後、絵本は、お友達のところと、Kさんのご近所で、色々回って読まれていると、Kさんが何度かまた野菜や、お友達から預かったお菓子を持って、色々な出来事や感想とともに、知らせに来てくれました。それとあと一カ所、私も行ったことのある近所の雑貨店に、しばらく置いてもらっているそうです。
(本当は、もっと色々、絵本についてや感想、Kさんのこと、私たちのこと、喋ったけれど…、とても書き切れないので、この辺で。)